モラ元彼の父は、モラ夫だった…!

 驚いた。驚いたが、タイトルの通りなのだ。

 私は大学時代、モラハラ男と三年近く付き合った。

 といっても、最後の年は、その少し前に彼が熊谷市の実家に帰ってくれたので頻繁に会わずにすむようになっていたから、三年間毎日顔を突き合わせていたとかではない。さらに、私の誕生月だった五月に、私の好きなジョゼフ・コーネルと、彼の好きな詩人のコラボ展示みたいなものを見に佐倉の美術館に行った折、既に結構冷めてきているのを誤魔化し誤魔化しどうにか一緒にいる私の雰囲気を悟ったらしい元彼のとある行動が恐らくは決定打になって、翌日に私は電話をかけ、距離をおきたい旨を伝えた。

 とある行動とはなにか――佐倉のその美術館には、なかなか綺麗な庭みたいなものがついていて、散策するのにちょうどよい所だったのだが、彼は、突然、細く曲がりくねった小径の両端に枠のようなものがあることに目をつけて、私に言った。「見てて」――言うが早いか、元サッカー少年の足の見せどころというのか、枠に足をかけ、何かアクロバティックなことをやろうとした彼は次の瞬間一回転し、ズササーッと滑って転がっていってしまったのだ。進学にも就職にも本腰を入れず大学で七年、語劇サークルでお山の大将をやって気持ちよくなることで七年を費やしてしまっている内に自分が年を食っていることに気づかなかったらしい。当人は茫然としていたが、私は――こみ上げる笑いを抑えきれず、結構笑ってしまった。この時点で、愛情の薄れっぷりが我ながらうかがいしれて、まあちょっとかわいそうだったかなという気がしないでもないが、滑稽だったのだから仕方がない。愛が深い内なら、顔色かえて、「大丈夫?!ダーリン!!」と駆け寄るものなのだろうが、ただ、相手を傷つけてしまっては申し訳ないと思い、その場を和ませる笑いのように装って、まあ、駆け寄ったのだけど、極めて無様だった。そして、私が彼に求めていたのは、精神的な自立性とか、知性とか、年齢相応の成熟した見識や思考能力であって、今更オスとしての魅力をアピールされても困るのであり、そんなもので私の気持ちを惹きつけようとしたこと自体も今となっては腹立たしくさえある。しかも、そんなことのあった日に、彼は帰りたがらず、私を長く長く引き留めようとしたため、卒論で忙しい私と、就職のための勉強(彼は不相応にも上級公務員になりたいと思い立ち、一応勉強していたがまあポーズだけだったのだろう)がある自分という立場を分かっていないことへの苛立ちとか、この現状でちょっとでも長くダラダラ一緒にいようとすることが恥ずかしくないのかとか、色々な気持ちから断った所、「俺と一緒にいたくないんだ?」と湿った態度で言われ、なんかもうドッと疲れてしまった。それが、距離をおく前の最後のデートで、別れ話は、秋頃の話になる。

 別れ話がこじれたり、勝手に復縁前提でいた向こうが私の母親にまで付きまとった話とか色々あるのだが、まあ結果的には別れてもう十年近く経つだろうか。彼が大学に現れたり、色々と嫌なことがあり、私もモラハラへの知識などがついて、自分がされていた理不尽なことを理解し、母親に打ち明けてからが大変だった。

 元彼はうちによく入り浸っていたが、背が高かったので、しばしば頭をぶつけていた照明器具の飾りが実は割れてしまっていた。が、母は、気付いていたものの、娘に優しくしてくれる人だからと我慢していたのだという(こんな男を家にあげたことについての謝罪はもう沢山したので、そこについては割愛)。だが、モラハラ等していたのであれば話は別と、抗議と、賠償請求のために、当人の所在は分からないので、その両親と連絡をとったのだが……。

 相手は、ポーの一族ならぬ、モラの一族だったのだ……!

最初の返事はあたりさわりのないものだったが、兎に角、母がモラ元彼当人と話し合い、説明を求めてきちんと弁償をさせたいということで、連絡をとらせてもらおうとしたのだが、一向に当人からの連絡はなし。なので、私から、向こうの父親に、自分がどういう仕打ちを受けていたかということの説明と、息子さんが逃げまくっているのは失礼ではないだろうかということを書いたのだが、それへの返事が本日来ていた。その手紙を見て、私は悟った。モラ元彼は、モラのサラブレッドだったのである。

 モラ元彼の父によると…。

・見下したような言葉の裏には愛情がある。

・息子も、ふられてとても傷ついた(だからおあいこ!)。

・昔のことでガタガタ言うな。

 らしい。

 まず、暴言で、大切にするべき相手を散々傷つけることと、モラハラや度重なるカッコ悪さで振られて当然の人間を振ることを同列に並べるなよとか(いや、そもそも、結婚の約束をしていたわけでもないので、恋愛には別れる自由があるから、傷つこうがどうしようが振られる時は振られるのである。当たり前だ。私は好きな人に振られても、そのこと自体で恨んだりは絶対にしない)ツッコミどころは色々あるのだが、まさに、あの親にしてあの子ありだったのだ。こうなると、交渉などは一切期待できないと思うが、マザコンでもあった元彼のお母さんは三人も男の子を産んで働いて凄いなーなんて思っていたのだが、モラハラ夫にうまく馴染んだ、「よくできたお嫁さん」だったのだろうか。なんだかもう、闇が深い。

 正直、泣き寝入りは嫌なので方策は考え中だが、真向からぶつかりあったり正論を振りかざしてもどうにかなる相手ではないことがよくわかった。モラの子はモラとは言わない(なぜなら、私のクソ父もモラでありDV男であるから)が、その文化の中で疑問も持たずに育った男の子というのはまずモラハラ男になり、あちこちの女性に被害を与え、自分は常に正しいと思いながら生きていくのだろう。恐ろしや。

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