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お父さんへの手紙〜父の日に〜

お父さんへ。

そういえば、お父さんに手紙を書くなんて
どれくらいぶりだろう?
思い出せないくらい、
遠い昔のことのような気がする。

お父さん、最期に間に合わなくてごめんなさい。

もう一度、ほんの少しでいいから、
お父さんと話したかった。

どうして、私を待たずに出かけちゃったの?

最期まで、せっかちだったお父さん。
いかにもお父さんらしいや。


いまから7年前の6月だったよね。
お父さんとふたりで、初めて観に行った野球。
福岡ドームでの、ソフトバンク×阪神戦。

お父さんと野球を観に行くのは、
あれが最初で最後になったけれど。

そして、あれが
お父さんと過ごした最後の時間になったけれど。

一生の想い出を、ありがとう。

コロナがなければ、
もっと会いに行けたんだけどな。
コロナを恨むよ。

よりによってこの時期に、
邪魔してくれなくてもよかったのにね。


高校時代、ときどき学校まで車で送ってくれてありがとう。
お父さんの車に乗るの、好きだったな。
お母さんも、お父さんの車でドライブするのが大好きだったよね。

だけど、お父さんの運転って荒いから
いつか事故を起こすんじゃないかって
ずっとずっと心配してたんだよ。

だから、お父さんが車を運転してる夢をしょっちゅう見てた。
お父さんの車に乗っていると決まって
海や川に落ちていったり、
崖から落ちていったりする。
繰り返し繰り返し、そんな嫌な夢ばかり見てた。

お父さんが旅立ってからは、
まったく見なくなったよ。
心配する必要が、
もうなくなったからだね。

いまでもときどき、お父さんの夢を見るんだ。
やっぱりいつも、お父さんの車でドライブしてる。
私にとって、それがお父さんとのしあわせな想い出の象徴なんだろうな。


魚が食べられなかった私を、
大の魚好きにしてくれてありがとう。

不登校を続けていた私を元気づけようとして
お母さんや妹たちに内緒でこっそり、
高級な活け造りのお店に連れて行ってくれたよね。

あのとき、お父さんといっしょに食べた
イカのお刺身の美味しさったら!

あんなにお刺身が苦手だったのに、
あの日を境に、私の大好物になったんだ。

魚の美味しさを知ることができたのは、
漁師の娘であるお母さんのおかげじゃなくて、
お父さんのおかげだよ。

いつか私も、お父さんとお母さんに
美味しいものをたくさんご馳走してあげるんだって
そう思っていたんだけど。
親孝行できなくて、本当にごめんなさい。


お父さん、いつも私を迎えにきてくれてありがとう。
帰省すると連絡すれば、嫌な顔ひとつせずに
私の予定に合わせて迎えにきてくれた、お父さん。

大阪に戻るときも博多駅まで送ってくれて。
おこづかいまでくれたよね。
もう、私のこといくつだと思ってるの?

福岡に帰っても、もう
迎えにきてくれる人はいないんだな。

そう思うと淋しくて、
それがいちばん悲しいです。

お父さんもお母さんも、
もうどこにもいないんだな、って
嫌でも思い知らされるから。

だけど、私はいま、
とってもしあわせなんだよ。

お父さんとお母さんには、
感謝の気持ちでいっぱいなんだ。

私をこの世に生んでくれて、ありがとう。
こんなに手のかかる娘をここまで育ててくれて、ありがとう。


そうだ!

お父さん、私、ついに作家になったんだよ。

お父さんは知らなかったかもしれないけど、
「おじいちゃんみたいなもの書きになりたい」って、
ずっと思ってたんだ。

めちゃくちゃ時間かかっちゃったけど、
やっとおじいちゃんに少し近づけたかな?

本当は、お父さんが元気なうちに
「デビューしたよ!」って、
ちゃんと報告したかったんだけどね。

一度でいいから、お父さんに
私の書いた本を読んでほしかったな。
それが叶わなかったのは残念だけど。

これから、お父さんのこともしっかり書くつもりだよ。
覚悟しといて。
そっちで楽しみに待っててね。

私のことは心配いらないからね。
お母さんとふたりで、いつまでも仲良くね。

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