けむりちゃん　2023.1.10のメモ

冬はいつも　けむりちゃんといっしょだった。
さむいあさに　けむりちゃんは　ぼくの口からほわぁ〜っと出てきて、

「今日もさむいね」

と言ってきえてしまう。

もう一度ふぅ〜っといきをはくと

「さむいけど、いい天気だね」

と言って、またきえてしまう。

けむりちゃんは　いつもすがたがかわる。
ぼくの口から出てくるいつもの　けむりちゃん。
おふろから出てくるひらひらしたワンピースをきた　けむりちゃん。
工じょうから出てくるまっくろなドレスをきた　けむりちゃん。
おせんこうから出てくるお母さんみたいなスーツをきた　けむりちゃん。

色んな形でけむりちゃんは　ぼくに話しかける。
お父さんが言うには、ぼくの口から出てくるのはけむりじゃないらしいけど、けむりちゃんは　けむりちゃん。

ぼくがストーブの前の席になった時　けむりちゃんは算数を教えてくれた。
おふろでいっしょに　けむりちゃんの歌を歌った。

け〜む〜り〜が　もっくもく♪
ぼくより　たかく♪
け〜む〜り〜が　もっくもく♪
空まで　高く♪

僕は大人になった。

あっという間に父さんの背を抜かした。
スーツを着て、マスクをつけて、会社に向かった。
今朝も寒い。
ぎゅうぎゅうに詰まった電車の中でまず、SNSを開いて何かテキトーなことを呟く。
そしてニュースを見る。
止まらない紛争、興味の無い芸能人の熱愛報道、日本人選手が勝っただの、負けただの。

車内に貼られたSDGsのポスター。
義務付けられた太陽光パネル。
増えていく電気自動車。

けむりちゃんは　

いつのまにか　

世界の敵になった。

おわり。