露と霧と夜想曲(ノクターン)/Nobuto作

ジャンル:強いて言うならユニゾン小説
形式:私が下に記した曲を聴きながら読んでみてください
「ノクターンOp.9-2/ショパン作曲」 
制作期間:10/23

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星々の瞬きは悠久の曲を紡ぎ、月を中心として幻夢を見せ続ける。銀色に輝く音色、まぁるい粒、そして空にしみ込んだ余韻。それらは時として夜露に、霧に、そして夜想曲として顕現する。音の一つ一つを露に乗せ、霧でつなぎ合わすことで夜想曲は夜想曲に、ノクターンであれる。どこにでもあるようで、現れ出でることのない。そんな一つだけの響き。

小屋が一つあった。周囲には灯りなどない、そんな森の中に、ぽつんと佇む一つの小屋が。それは夜露に濡れた屋根を銀色に輝かせながら静謐に佇んでいた。
灯りなど必要ではなかった。灯りはあまりに味気なく、そっけないものだからだ。灯りは何も語ることはない、そんな無味そのものだ。それにその夜は心地の良い月夜だった。草に、葉に、土についた露を優しくなでる月光の前で風情を語る灯りなどあろうはずもない。

透き通るような空気の中、一つの曲が紡がれる。ゆっくりとした曲調の夜想曲がこの美しい夜に捧げられる。それは一人の少女がゆっくりと、しかし強い意志でこの夜に捧げた供物だった。
不意に小屋のドアが開け放たれた。そのドアの中から無数の音の粒が解き放たれる。木々の間を、草と土の際を埋めるように、真っ新な楽譜に音符を記していくように森にしみ込んでいく。
そのドアから少し遅れて少女が飛び出してきた。何も着ていない真っ新な少女がその足に草や土をつけながら、くるくると舞いながら踊り出てきた。手先から足先まで洗練された舞はこの夜に込めた祈り。
いつからか小屋からの音は止んでいた。もう必要ではなかったから。もうすでにこの曲は夜のものになり、全ての事象に沁みついていたから。音は止んでいた。しかし、曲は紡がれ続けていた。

次第に霧が濃くなっていった。濃密な音の渦が停滞し始めてきた。森のむせかえるような芳醇な香りに、霧が同調する。舞が足りない。同じ旋律を奏ですぎてしまった。そうして少女は舞にもう一つの祈りを込めた。祈りは少女と夜しか知りえない。そんな密かな祈りを込めて舞い続ける。
空を仰いだ手は調子を刻み、跳びはねた体は強弱を際立たせる。そうして舞い続けると、周囲の視界が晴れてきた。濃厚な森の香りが希釈し、澄んだ夜の香りが戻ってくる。
そうして祈りは込められていく。ゆっくりと、しかし強い意志で祈りを捧げていく。

朝日が遠くに見える稜線を際立だせている。夜露が朝露に変わっていく。そうして夜が明けていった。もう夜想曲は聞こえなかった。そして舞う者も居なくなっていた。

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作者の感想・あとがき
『露と霧と夜想曲(ノクターン)』はショパン作曲のノクターンOp.9-2を元に書いたものですので、是非とも原曲を聴きながら読んでみてください。小説は読み物ですが、耳でも情景を思い浮かべてみてください。

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