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「雪が降る」に驚嘆の6月

藤原伊織著の「雪が降る」が良い。めちゃくちゃ良くてベスト短編の1つに加わった。
ことのキッカケは「推理作家になりたくて」というアンソロジーから。こちらのアンソロジーは日本推理作家協会所属の面々が自身おススメの短編+敬愛している作家の短編を加えてさらにエッセイまで追加しているボリューム満点の作品集。その3巻を6月半ばに読んだ。掲載の作家がまた豪華だ。逢坂剛、大沢在昌、北方謙三、黒川博行、真保裕一の5名。薦めている作家は平井和正、生島治郎、吉行淳之介、藤原伊織、向田邦子の5名。師弟関係のあった大沢、生島コンビもあれば真保裕一さんなんかはタイプの違う向田邦子さんを取り上げていた。流石にどれも面白いのだが、黒川博行さんと藤原伊織さんの2編が傑作だった。
前者の短編「カウントプラン」は推理作家協会賞短編部門をとった名作なのでいうこともないのだが、後者がまた良かった。この「雪が降る」という物語は仕事小説であり友情小説であり恋愛小説であり家族小説でもある。筋立てはシンプル。昔、仲の良かった女性の息子からメールが届く。「お母さんを殺したのはあなたですね」この息子というのが自分が働いている会社の同期で親友の息子なのだ。ありがちな三角関係。そして彼女は死んでしまった。その死を巡る物語が展開される。彼女の造形はピカ一だ。詳しくは読んでもらうしかないが、ラストで主人公にあてられたメールは素晴らしい。こんな文章をかける人物がいるのかと震え上がった。この「雪が降る」は他にも良い短編が収録されており大変にお買い得だった。少し早いけども今年のベスト短編集に決定だ。

1つにかなりの分量を使ってしまったが6月は他にも直木賞候補となっている月村了衛さんの「香港警察東京分室」が面白かった。東京でここまでのドンパチを書ける作家も中々いまい。

読み逃していた吉川トリコさんの「あわのまにまに」や年に何度かの岡嶋二人、「チョコレートゲーム」も随一であった。でも6月は藤原伊織さん一色だったなあ。


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