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茗荷谷くん #6

色のない街にももうすぐ春が来る。
それとも、もう来てしまったのだろうか。
淡くて脆い桃色の花びらを、
わたしは、今年も、
見ることができるだろうか。
真っ赤な電車が、
色をちょっとだけ付けてくれて、
そうしてこの街は、
動いているような気がする。

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「いい天気だね」
さっきまで眠りこんでいたあなたを
外に連れ出したのは、わたしだよ、
わたしにありがとう、でしょ。

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「ほら、青い」
灰色で、冷たそうな柵や石壁を伝って、
あなたの目線の先を追ったら、
きちんと空だけは、青かった。
誰が見ていなくても、青かった。

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