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ローカル5Gの活用法とは?その良さを引き出すための3つの観点と、意外な技術的課題

皆さん、こんにちは。高木聡一郎です。

最近、iPhoneはじめスマートフォンも5G対応の機種が出てきて、皆さんの中には5Gを身近に感じている方もいらっしゃることと思います。5Gになると、4Gと比べて通信速度が20倍速くなるといったメリットが語られていますが、実は「ケータイ」とは全く違った場面で5Gの活躍が期待されています

それが、「ローカル5G」と呼ばれる分野です。ローカル5Gは、企業の施設や工場、農場などの限られたエリアの中に5Gネットワークを構築し、高速大容量・低遅延のデバイス間通信を実現しようとするものです。

総務省でも、このローカル5Gを活用した社会課題の解決に向けて、多く分野で実証実験を行っています。牛舎管理から、自動運転バス、機器の遠隔操作など、多種多様な分野で取り組みが進んでいます。私も本事業の委員を務めており、色々と学ばせて頂いています。

今回は、ローカル5Gの有効な活用法について考えてみたいと思います。なお、以下は私個人の見解であり、上記の事業内容を紹介するものではない点、ご了承ください。

各地で進む取り組み

ローカル5Gの取り組みには、色々と興味深いものがあります。例えば牛舎の牛の健康管理を行うもの。4Kの映像を伝送し、AIで健康管理を行うとされています。また、動き回る牛を追跡管理することにも使われます。

あるいは、発電所の中で自走する点検ロボットを5Gでネットワーク化し、点検業務を省力化する取り組みも行われています。

また、ロボットを遠隔操作し、工場内での作業を効率化する試みも行われています。下の例では、5Gで伝送された映像を見ながらロボットを操作するとされています。

ローカル5Gを活かす3つの観点

これらの取り組みはいずれも興味深いものですが、ふと素朴な疑問も浮かびます。

『これって、WiFiでも同じことができるんじゃないの?』

確かに、ある限られたエリアで、ロボットやデバイスを繋いで操作するだけなら、WiFiでも実現できそうです。そこで、以下ではWiFiよりもローカル5Gの方にメリットがありそうな使い方を挙げてみたいと思います。

①大容量映像とAIとの掛け合わせ

家庭で4Kの映画を観るだけなら、光ファイバーとWiFiルーターでも可能ですが、一般的な光回線の速度は1Gbps程度なのに対して、5Gの速度は10~20Gbpsと言われています。5Gのネットワークであれば、4K、8Kなどの高精細の画像を余裕を持ってリアルタイムに転送することができます。

そして、高精細の映像をリアルタイムに、また多数のチャネルで取得することができれば、肉眼で確認できないような細かな変化も含めて、AIで監視したり、異常を検知することもできるようになります。

人間の目ではとても追いきれないような大容量の動画をAIで解析することで、新たな発見を導く。それを可能にするインフラが5Gということです。

②閉域から広域へのシームレスな連携

もう一つは、工場など限られたエリアから、外部に出た場合でも、キャリアの5Gネットワークに切り替えることで、シームレスにインフラを拡張できるという点です。

例えば、牛が牛舎から出て放牧されるケースが想定されます。牛舎内では密度高くインフラを構築し、そこから外に出た時には、キャリアのパブリックな5Gネットワークに切り替えて、継続してモニタリングを行うといった使い方ができます。

同様に、普段は工場内で使っているロボットを、災害時などに別の用途で、工場の外で使うという場合も考えられます。機器のマルチユースや、逆にインフラのシェアリングなど、経済性の観点からも検討する価値があります。

③リアルタイムでの遠隔操作

3つ目が、リアルタイムの遠隔操作です。建設機械の操作などは、遅延が少なく、大容量映像の伝送が可能な5Gを活かした利用法でしょう。危険で人が近づけない場所での作業や、どうしても人がその場所に行けない場合に作業を可能にします。

また、コンピュータが介在することのメリットを活かせば、物理的な補助を行ったり、オペレータに関連情報の提供を行うことで、現場よりも、さらに高度な作業を行えるようにできる可能性もあるでしょう。

ただし、遠隔操作は機械とオペレータが1対1対応で必要になるため、生産性の向上には限界がある点に留意が必要です。また、遠隔手術などの依頼が来る医師は、普段から名医として忙しいでしょうから、人材面での確保も課題です。

経済の観点からは、オペレータと機械が1対1ではなく1対Nで操作できるようになるか、従来よりもずっと操作が簡単になって、誰でも操作できるようになるといったブレークスルーが必要かもしれません。

また、現在のところ、オペレータと機器のインタフェースは、映像による視覚に偏重しています。しかし、先に示した通り、人間が目で見る能力には限界があります。一方で、フィジカルな場面では手ごたえや、匂い、音など様々な感覚を駆使して作業をしています。5G、特に遠隔操作という観点からは、視覚に頼りすぎない、HCI(human-computer interaction)分野でのイノベーションが必要ではないかと思います。

ローカル5Gの活用には他の技術群との連携が必要


以上、今回はローカル5Gについて考えてみました。5Gを活かすには、AI、HCIなど、他の技術群との連携・統合が必要です。筆者の所属する東京大学大学院情報学環でも、人とコンピュータのインタラクションについて、アートやデザインの領域も含めて研究が行われています。HCI分野での研究成果との連携も今後の課題です。

5Gによって、今までではできなかったことで、どんなことが可能になるのでしょうか。少し遠い未来を構想しつつ、人間、技術、経済という複数の視点から考えることが、そのヒントになるのではないかと思います。


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