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起業家から経営者に進化するということ

・はじめに

起業家として事業を大きくし、持続的な成長を遂げる企業を創るためには、事業ステージが進むに伴って「起業家から経営者へ進化する必要がある」などと言われますが、具体的にはどういうことなのでしょうか?

これまで日本や東南アジア・インドにおいて数多くのシードステージ(事業立ち上げフェーズ)のスタートアップに伴走してきた中で改めて感じているのは、事業とは人間という動物によって生み出される生モノであるということです。事業が順調な時は良いですが、厳しい時には普段見えない人間が持つ欲やエゴが顕在化しやすく、様々な形での組織トラブルを引き起こしがちです。その結果、起業家を含めた創業メンバーが退任や交代を迫られたり、起業家以外のメンバーが全員辞めてしまい、場合によっては会社の清算を迫られることさえあります。

起業家から経営者へ進化するとはどういうことなのか?という問いに対する答えは、起業家が数々のハードシングスに直面する中で自らの在り方を日々自身に問い続け、より良い未来に繋げるために自らをアップデートし続けた結果、ようやくその輪郭が見えてくるものだと感じています。このnoteでは、シード期から起業家に伴走している私たちが、起業家との対話や起業家の変化を通じて少しずつ見えてきた景色を言語化してみようと思います。

・最も大切なことは、メンバー一人一人が持つ能力や可能性を最大限発揮できる組織カルチャーを創り、育て続けること

起業家として事業を大きくし、持続的な成長を遂げる企業を創るために実践すべきことの一つに、メンバー一人一人が持つ能力や可能性を最大限発揮できる組織カルチャーを創り、育て続けることがあると思います。では、そのような組織カルチャーをどのようにして創るのか?私は、メンバー一人一人が、それぞれの意思に沿った挑戦を、責任や覚悟とセットで大きな裁量を持って取り組むことができる組織カルチャーを創ることだと考えています。なぜなら、人間は自分の意思に沿ったことに挑戦する方が大きな力を発揮するのはもちろん、他人に指示された通りにアクションするよりも、自分の頭を捻って自身でやり方を考えてアクションする方が当事者意識を持ち、持てる力を発揮できる動物だからです。また、環境変化が大きく、その変化スピードも速いスタートアップにとっては、組織の中に自律能動的に動ける人材が多いほど打てる手の数も増え、事業の推進スピードも速くできるので、メンバー一人一人が持つ能力や可能性を最大限発揮できる組織カルチャーを創り、育て続けることは、事業を成功に導く上で極めて強いバリュードライバーになると考えています。

では、そのような組織カルチャーをどうやって育てていくのか?私は、「CEO is Boss」ではなく、「CI(Corporate Identity)is Boss」の組織カルチャーを創ることが大切だと考えています。

・事業ステージが進むに伴って、「CEO is Boss」では成長に限界が来る

「CEO is Boss」とは、あらゆる意思決定や指示系統が起業家によって下される状態です。シードの段階ではメンバー数も少ないので、「CEO is Boss」の方がトップダウンで迅速な意思決定が可能であり、プラスの側面も大きいと思います。しかし、初期的なPMFを終えてシリーズAが完了し、本格的に組織拡大し始める事業ステージに入ってくると、都度起業家の判断や価値観を仰ぐ必要がある「CEO is Boss」な状態では意思決定スピードが落ちるだけではなく、自分で深く考えずに言われた通りに取り組もうとする指示待ち型のメンバーが増えるため、これらが起業家を悩ませる種としてどんどん大きくなっていきます。

では、「CI(Corporate Identity) is Boss」とはどのような状態なのか?この話に入る前に、CIという概念や存在意義について考えてみたいと思います。スタートアップとして事業を力強く推進していくためには、大小含めて数々の意思決定をスピーディーに行っていくことが欠かせませんが、メンバー数が少ないうちは意見や価値観を都度摺り合わせられるものの、メンバーが一定数を超えたあたりから様々な場面でメンバー間でのコンセンサスを取るのが難しい局面が増えてきます。「起業家としての自分の意見に対して一部のメンバーから反対意見が出てきた。自分の意思決定を大切にしたいけど、組織の一体感を維持し、意思決定した内容についての推進力を高めるためにもメンバー全員に納得感を持たせたい」。このように考える起業家の多くが抱え始めるのが、「意見が異なるメンバーの意見をどのように纏め、意思決定すべき?」「自分の意思決定をどうすればメンバーに腹落ちしてもらえばよい?」といった悩みです。

・CI(Corporate Identity)とは、組織の人格を表す概念

そこで重要な役割を果たすのがCI(Corporate Identity)です。私はCIを組織の人格を表す概念だと捉えていますが、組織が拡大していく中で、メンバー全員の意見や価値観を都度擦り合わせるのはどんどん困難になっていくので、個人の価値観とは別に、組織(Corporate)としてのIdentityを創り、育てることの重要性が増してくると考えています。組織としてのIdentityを創り、育てる(CIを言語化する)プロセスにおいては、起業家として大切にしている想いや価値観はもちろん、メンバーの想いや価値観も含めて丁寧に言語化していくこと、またできる限り早い段階でCIの言語化に取り組むことが重要だと考えています。なぜならば、CIを言語化せぬまま組織を拡大し、根本的に組織が大切にしている価値観と合わない人材が入社してしまっている場合、CIを言語化するプロセスがスムーズに進まないどころか、様々な場面で多くの軋轢や調整コストが発生するため、このことが起業家を苦しめる場面を何度も見てきているからです。視点を変えると、CIは人材の採用判断をする際のカルチャーフィットを推し量る役割も果たすので、出来るだけ早くCIの言語化に取り組むことが大切だと考えています。こちらは私たちジェネシア・ベンチャーズのCIの言語化プロジェクトについてまとめた記事です。良かったら是非読んでみてください。

・「CI is Boss」がもたらす効用

では、「CI is Boss」になるとどうなるのか?一部の重要な意思決定は起業家を中心とした経営陣の判断に沿って意思決定していくべきですが、CIの言語化が進み、組織への浸透が進むにつれて、大半の意思決定においては、CIに照らして方向性を決め、自分の頭で考えて動くことができるようになっていきます。こうなると打てる手の数が多くなり、事業の推進スピードが速まるのはもちろん、メンバーの当事者意識が高まり、責任や覚悟とセットで、自身で考えて動く経験を積み重ねることができるので、メンバーの成長スピードも当然速くなっていきます。いうならば、CIが意思決定する際の羅針盤の役割を果たし、メンバーはCIによって自らに立てられた問いに対して、内省しながらアウトプットを繰り返していくイメージです。

・起業家から経営者に進化するということ

「起業家から経営者へ進化する」とはどういうことなのか?組織の数だけその在り方が存在しますし、目指す組織の形も異なるためあくまで私見にはなりますが、「起業家から経営者へ進化する」とは、「CEO is Boss」ではなく「CI is Boss」な状態にシフトすることに近しいと考えています。「CEO is Boss」から「CI is Boss」な状態に変化することで、

・個人の属人的な意思決定ではなく、CIに沿った意思決定ができるようになる
・自律能動的に動ける人材が増え、事業としてよりスケーラブルになる
・メンバー一人一人が持つ能力や可能性を最大限発揮しやすくなると同時に、個人の成長スピードを高めることができる
・組織カルチャーを育み続け、それらを伝承していくことで、代表者が交代しても持続的に企業を成長させる可能性を高めることができる

上記は「CI is Boss」がもたらすメリットの効用の一部ですが、「起業家から経営者へ進化する」ことが、「CEO is Boss」ではなく「CI is Boss」な状態にシフトすることに近しいと考えている理由は、起業家にとっての最重要ミッションに「企業価値の最大化」を挙げるとすれば、経営を起業家個人に属人化(起業家が交代すると会社が存続できない状態)させるのではなく、企業の経済活動を持続的(代表者が交代しても、持続的に成長可能な状態)にする努力が欠かせないと考えているからです。もちろん、「言うは易し、行うは難し」で、実際に「CI is Boss」な状態を創るのは簡単ではありませんし、非連続な成長を生み出すタイミング、大きくモメンタムを高めるタイミングでは「CEO is Boss」に敢えて振り戻すことが必要な場合もあります。また、事業が成長し、仲間が増えるほど組織(Corporate)のIdentityを育て続けていく必要があり、CIは永遠に完成することはないと考えています。ジェネシア・ベンチャーズは「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」という壮大なビジョンを掲げていますが、このビジョンの実現のためには数百年単位の時間が必要です。だからこそ、私自身もジェネシア・ベンチャーズの活動を持続的なものにするために、日々悩みながらトライ&エラーを繰り返していますが、今見えている景色を言葉にすることで、組織づくりで悩んでいる起業家の一助となればと思い言語化してみました。もし少しでも得るものがあれば、同じような悩みを持つ方にシェアしていただければと思います。

【採用告知】私たちと共に、ビジョンの実現に向かえる頼もしい仲間を探しています

ジェネシア・ベンチャーズでは、現在「スタートアップが大きな挑戦をし続けるための資金獲得と体制構築を行う」をミッションに掲げるPPM(Portfolio and Partnership) チームの仲間を探しています(募集要項はこちら)。また、この記事はPPMチームの活動に関しての吉田(実希)のnoteです。今すぐの転職を検討していない方でも構いません。また、経験者自体がほとんどいないポジションなので、VC/金融業界の経験も全く問いません(IBD職や事業会社の投資・M&Aに関わったことがある方などは特にフィットしやすいと思います)。Join Genesia, We are hiring!

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