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こだわりに固執させない

【こだわり】

これ、自閉症スペクトラムに関わる人が、1番最初に聞くレベルの特性だと思う。

「この子、こだわりが強くて〜」
「このこだわりで安心できるんで〜」
「こだわりのせいでできなくて〜」等、保護者からもかなり聞く事が多い。

なぜなら自閉症児のこだわりは物凄い。
定型の人のこだわりのレベルではない。
数字や絵、物や動物等ににこだわれば寝食忘れて没頭するし、“ここではこうする”とこだわれば、絶対にそれ以外のやり方はしない。

別に誰にも迷惑かける事なく完結するこだわりなら、個人的に自閉症児のこだわりは面白くて好きなので、お好きにどうぞと思う。

ただ、こだわりと言うのは、言い換えれば“選択肢0”の状態である事は確か。
そのモノにしか興味がなく、そのやり方しかできないんだから。

しかも、そこにこだわりすぎるとイレギュラーな事態に大パニック大バーストを起こし、結果傷つき疲れ果てるのは当の本人だ。

だから、施設に在籍する児童に対しては、こだわりは大切にしつつも、こだわりに対する固執は解消させ、不自由な状態を作らせないアプローチをしている。

なので、現在、在籍児童のこだわりによる困り事はゼロである。


では、実際に施設であった【トイレにこだわるDさん】と【視覚カードにこだわるEさん】の例をご紹介したい。

まず、トイレにこだわるDさん。


Dさんが初めて来所したのは、Dさんがまだ年長さんの時である。
その時保護者の方から相談をうけたのが、トイレで用をたす際の、Dさんの独特なこだわりだった。

Dさんは、用をたす際は必ず個室というこだわりに加えて、用をたしてる音が嫌なので(ボチョボチョというような水音)、毎回トイレットペーパーを便器の水の上に敷いて用をたすというこだわりがあった。

当時の私としては、別にそのこだわりなら誰かの助けを必要としない自己完結なこだわりなので、そこまで気にする必要はないと考えていた。

(保護者の方も、毎回必要以上にペーパーを使うので幼稚園に持たせたり、施設にも毎回持たせますと配慮もされていた。
もちろん丁重にお断りしたが。)

ただ、このこだわりを安易に考えてしまった結果、私は大変な事態を引き起こしてしまったのだ。

Dさんは、当時はまだ年長さんで、体も小さかったのだが、小学校に上がりみるみる身長を伸ばし、便器から体が離れ、その上、膀胱も大きくなったので、これまでのやり方ではどう頑張っても音が出るようになってしまったのだ。

そこでDさんは、トイレットペーパーを大量に使い出すようになってしまった。

その結果どうなったか。

家でも学校でもトイレが頻繁に詰まり、Dさんは大パニック大バーストを連発し、保護者は謝罪とお迎えに翻弄される結果となってしまったのである。

この失態は、後に、施設内の支援者に対する講義でも、こだわりに対するアプローチの失敗談として話すものの一つとなる。

この失態の何が一番の問題か。

それは、こだわりに対するアプローチを始めた時にDさんが8歳目前になっていた事と、施設と小学校でもこのこだわりが定着した事である。

療育に限った事ではないが、行動に対するアプローチは早ければ早いほど良い。
なぜなら、未就学期は行動の修正がしやすいからだ。
なのに、Dさんが6歳の時には知っていたこのこだわりを、私は約2年もの間、傍観してし、各場所でこだわりを定着させてしまったのだ。

その結果、このこだわりの解消には約5ヶ月かかってしまった。

こだわり解消のために始めたのが、ペーパーは量は減らすがこれまで通り敷いたままで始める、名付けて【おしっこ的当てゲーム】である。

予め、用をたしても水の音が出にくい場所に防水シールを貼って、そこにおしっこを当てるゲームである。

ルールとしては
1、的におしっこが当たれば2ポイント
2、的から外れたらゼロポイント
3、的から外れた場合でも、音が鳴ったら1ポイント
4、的に当たって、しかも音も鳴ったら3ポイント
5、??ポイントで大好きなコーラを一杯飲める
(ポイント帳を作り、最初は5ポイントでコーラ、徐々にポイント数を増やす)
※ペーパーの長さは片手の長さ以上使わない

付き添う職員には、音ありのポイントをとった際にはワールドカップのゴール並の大歓声をあげてもらった。

Dさんは、最初のうちは音が出ないように過剰な様子だったが、ゲームを始めて1ヶ月経過した辺りからゲームのポイントを集める事を楽しみだし、2ヶ月目では音に対する抵抗が薄れ、3ヶ月目ではトイレットペーパーを無しにする事ができた。

実は、この【おしっこ的当てゲーム】を始めて1か月経った頃から、ペーパーを短くする(音が鳴りやすい)チャンスディを作って、敢えてDさんにペーパーを短くする事を伝えたのだ。

3ヶ月経った頃、Dさんは家と施設ではトイレットペーパーを敷かなくても用をたせるようになった。

学校では、少し遅れて5ヶ月目で達成できた。

Dさんの場合はこのやり方で成功できたが、Dさんの特性や気質に合わせたやり方なので、全ての人に当てはまる訳ではない事はご理解いただきたい。
(加えて、ルールの落とし込み方や、バーストさせないための配慮もあるのだが書ききれないので割愛)

ただ、Dさんの変えるべき行動は、ペーパーを敷く事ではなく、音に対する反応だという事。

[音がなる→バーストする]ではなく
[音がなる→問題なし]にする事を目的にしたアプローチなのである。

Dさんは、今では個室以外でも用をたせるようになった。


大したこだわりに思えなくても、固執させてしまうと大変な事態に繋がる事も多数ある。

特にDさんのような日常生活におけるこだわりは、成長だけじゃなく、非常事態の時には自分で自分の首を絞めるようなこだわりになってしまうため、早めのこだわりの消去や、こだわりに固執させないためのアプローチがとても大切だと改めて学ばせてもらった。

続く

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