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だが!それでも!

前々回の【こだわりに固執させない】からの続き。
今回も、こだわりに固執させる事の危うさをお話したいと思う。

この記事は、実際に私が経験した視覚カードにこだわるEさんを例に。

私がEさんと初めて会ったのは、Eさんが小学3年生になったばかりの頃だ。

Eさんは、中〜重度の知的障害と共に、(口腔内に異常はないが)発音がかなり不明瞭という特性があった。

だが、保護者曰く、発音はゆっくりだが着実に発達しており、慣れれば聞き取れる人も多く、本人も話す事にネガティヴな姿勢はみられないとの事だった。

Eさんと話してみると、確かに何を言ってるのか分からない場面が多かった。
だが、Eさんは話す事に躊躇いがなく、普通に話しかけてくれ、笑顔が多く、前向きな姿勢がみてとれた。

だが、私が聞き取れず聞き返した場面で、Eさんは机を叩き、怒り任せの奇声をあげのだ。
この行動は完全にいただけない。

発音どうこうの前に、この、叩く・感情表現としての奇声はかなりまずい行動なので、契約後、施設としては、まずはこの行動の修正から始める事にした。
(この修正方法については割愛させていただく。)

この行動の修正には、約8ヶ月近くかかった。

その間に、職員のほとんどがEさんの言葉を曖昧だが聞き取れるようになっていた。

そしてこの行動修正と同時期に、発音に対する施設側のアプローチも実施したのだが、言語という専門的支援は管轄外になるので、こちら側はとにかく自信をもってどんどん喋らせる事と環境配慮のみを徹底した。

その理由は、
・Eさんは言語聴覚士との関わりはすでにあり、施設と言語聴覚士さんとの関係機関連携で、「どんどん喋らせる事」と、こちら側への指示をいただいた。(その他、可能な場面での支援指示もあったが割愛)
・喋る事へのポジティブな姿勢を継続させる環境こそ重要という施設の見解。(他児童へのアプローチも含む)
以上の理由から、アプローチを決定した。

行動修正後のEさんは、伝わらなくてもネガティブな行動に出ることなく、伝わるように考え行動する姿がたくさん見られるようになった。

だが、Eさんが通所して一年経った頃、Eさんはご家族の都合により引越しが決まり、施設に通所できなくなってしまったのだ。

お別れの挨拶で皆んなの前に立ったEさんは、約5分近く、施設での思い出や感謝をずっと話して聞かせてくれ、Eさんの成長と笑顔に、職員一同、本当に感動した。


しかし、その一年後、施設の外出プログラム中に、偶然、他事業所のプログラムに参加中のEさんに会い、私はEさんの姿に驚愕した。

なぜか。

それは、Eさんの首に、紐通しされた数十枚のラミネートされた視覚カードがぶら下がっていたからだ。

目的地が同じだったのもあり、私は空き時間にEさんに話しかけてみた。

その時のEさんは、ほとんど声を発さず、視覚カードで「こんにちは」のカードを取り出した。
その後の会話も、あいうえお表や視覚カードを使っての会話だった。
カードにこだわり、カードがなければ喋れない程定着し、カードにとことん固執していた。

あまりにもひどい状況だったので、思わず近くにいた職員に、視覚カードでしか話せないのかを聞いてみた。

すると、「お話も少しはできるんですけど、伝わりづらくてEさんも辛そうなので、視覚カードを使うようにしてるんです^_^Eさん、とても上手なんです!」と。
笑顔を見せる支援者に対し、Eさんは、ずっと「わかりません」のカードを出している。


なんてことだろう。
これを後退と言わずになんというだろう。

確かに視覚カードにはメリットもある。
だが、あくまでプロンプトの役割なのだ。
その上、上記の通り、Eさんには全く必要ないのだ。
なのに、伝わりにくいEさんの発音を、「視覚カードだったらお互い伝わりやすいし楽だよね〜」的な、短絡的で安直で自分勝手な理由で、Eさんの成長を止め、Eさんの努力を無視したのだ。

頭をグルグル回る悔しさと怒りで耐えれそうになかったので、私は早々に会話をやめて戻る事にした。


その後も私はEさんの事が頭から離れなかった。

(Eさんが辛そう?
いやいや、違うだろう。
Eさんのせいにするな。
支援者側が楽したいだけだろう。)

(支援者は考える事を放棄しているのか?
そして、保護者はなぜとめなかったのか・・・)


考えれば考えるほど、共に過ごした一年を思い、胸が張り裂けそうになった。

Eさんの件は、私の知らない何か理由があったのかも知れない。
引越し先で不安定になり、伝わらない事が原因のネガティヴな行動が出たのかも知れない。
発音に関して、誰かに嫌な思いをさせられたのかも知れない。


だが!
それでも!


喋る事を放棄させる程のこだわりを作る理由には、決してならないのだ。

不安定になったのなら、対処すべきはその不安に対するアプローチだ。
喋る事によるマイナスな経験をしたのなら、対処すべきは、その経験に関わった人達の方だ。

どんな過酷な理由を想像しても、私には視覚カードにこだわりを作る理由を見出す事ができなかった。



必要のないこだわりを作った人間のせいで、Eさんは、この先ずっと首に視覚カードをぶら下げて生きていく事になるだろう。

なぜなら、これを“支援”と信じ、Eさんの為だと豪語するレベルの人に、このこだわりを消す頭は絶対ないからだ。

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