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エゴイストな街に住む聴覚過敏障害児

【守りたいのか、解決したいのか】【味覚障害児だった食いしん坊】に続き、今回は自閉症スペクトラムの子でかなり言われる事の多い「騒がしいところが苦手。」に着目したお話。

まず、この話を詳しくする前に、前提とも言える私の考えをお伝えしたい。

皆さんは、この質問になんとお答えしますか?

「自閉症スペクトラムの特性をもつ私が、生活に困らないレベルの支援を充分に受けつつ、とても静かで、自分を傷つけるような人が一人もいない街ってありますか?」

私の答えはこうです。


「そんなエゴイストな街、ありません。」

この記事では、これを前提とした療育を、私の経験から書かせていただきます。



まずは、私が働く施設で実際にあった【騒がしいところが苦手なBくん】のお話。

私は保護者様から、騒がしいところが苦手で登校にも外出にも困っているといった、日常生活に影響を及ぼすレベルの相談を受けた際、かなり詳しくアセスメントする。
Bくんの保護者もその一人だった。

内容によって質問は様々だが、必ず聞くのは以下の点だ。

・いつ頃からそうなったのか。
その時の対応はどのようにしたのか。

・その後、どのように変化していったか。
その時期に生活の変化はあったか。

・具体的にどんな環境を指すのか。
その環境の時にはどのように対応するのか。

・一見、無理な環境でも落ち着ける時はあるか。
なぜ、落ち着けるのか。

どうしてここまで詳しく聞くかというと、本人の過去現在の状況の把握と、Bくんに関わる人のこれまでの対応を知りたいからだ。

Bくんの場合はこうだった。

・赤ちゃんの頃からちょっとした音でも目が覚めたり、歩き始めた頃は外を歩く時も音に反応して泣いていた。
一晩中抱っこで寝たり、抱っこだと落ち着くので抱っこ紐を3歳後半まで使っていた。

・保育園に入ると、他の子達の泣き声や他の子達の遊ぶ声に反応して暴れたり、奇声をあげたりとどんどんひどくなっていった。
プライベートではBくんに弟が生まれ、家を引っ越しした

・人の多い公園や遊び場、学校の休み時間はもちろん、班での登校も気持ちが昂って大声を出したり泣いてしまう。
公園は空いてる時間帯を選んだり、休み時間は個別のクラスや保健室で過ごしたり、登校は保護者が付き添うようにしている。

・スーパーやドラッグストアは混んでいても落ち着いて過ごせている。
小さな頃から行っているし、お菓子を買ってもらえるってわかっているから大丈夫なんだと思う。


実際はもっと詳しくアセスメントしたが、勘のいい方ならこれだけで大体の予想はついたんじゃないかと思う。

そうです。

Bくんは「うるさいから嫌だ」と言って泣けば、とても素敵なご褒美を毎回もらえて生きてきたのだ。

ASDの特性があり、状況理解が未熟なため、不安に感じる場面が多くあったBくん。
だが、Bくんは、不安な気持ちをうまく伝える事ができなかった。
だから泣いたり喚いたり暴れたりして気持ちを訴えてきた。
しかし、これを『原因は音だ』と周りが勝手に決めつけ、『これは障害の特性だから仕方ない』とみんなで守りに徹してしまった。
その結果、【騒がしいところが苦手なBくん】ができあがってしまったのだ。

うるさいと泣けば、ママが心配して抱きしめてくれる。
うるさいと言えば、一人の最適な空間で過ごせる。
うるさいと暴れれば、欲しいものが手に入る。

こうやって、Bくんは、自分だけのエゴイストな街を作り上げようとしていたのだろう。

もちろん、施設内でのモニタリングも実施した。
教室に入ると最初は泣いて「うるさい」と叫んでいたBくん。

私は、心配して寄り添う保護者の方に即座に退席するよう促した。

私はまずはその他の職員に、静かにする必要はない、こちらには構わず○○さんと○○さんにBくんから見える位置でBくんの大好きなポケモンカードバトルをするように促してほしいとお願いした。

うるさいと泣き叫んでいたBくんは、大好きなポケモンカードが目に入ると泣き声が徐々に小さくなっていった。

私は泣き声が小さくなったとは言え、まだ泣き続けるBくんを横目に、
「○○さんの持ってるレアカードってなに?」
「○○さん、教室でカードバトルする時のルールってなんだっけ?」
「えーー!すごいね!この前あの職員に勝ったの?もうプロじゃん!」
「それだけの量集めるの大変でしょ。いーなー。ちょっとちょうだいよ〜。」
「○○さんはバトルで負けた時は悔しくないの?」
など、対戦中の児童達と笑顔で会話を楽しんだ。
1時間程経った頃、ようやくBくんは泣き止んだので
、私は初めてBくんに話しかけた。

「Bくんはポケモンカード持ってる?」

ここから徐々に会話を広げていき、30分後、私とカードバトルをすることになった。
相手が私というレアな状況に他の児童も大盛り上がりを見せた。
もちろん児童全員Bくんの味方だ。
職員の私には、みんなが勝ちたいと思っている職員を味方につけた。
私は手を抜いたりせず真剣勝負をしたのだが、あと一歩のところでBくんに負けてしまった。
大歓喜の児童達。
この時ばかりは声の大きさの注意はしなかった。
Bくんはかなり戸惑っていたが、時折嬉しそうな表情を見せた。
その後、1時間の静かなプログラムを体験した後、保護者の方が迎えに来られたので、私は別室で、撮っていた動画を見せながら報告した。

どこでもうるさいと泣いて生きてきたのでBくんには友達がいない。
そんなBくんが児童に応援され大歓喜の中抱擁される姿に、保護者の方は泣いて喜んでくれた。

私はここでお願いをする。
「Bくんから施設での話をたくさん聞いてあげてほしいのですが、騒がしいのに頑張ったねといった声かけはしないでください。もし「施設うるさかった」等の発言が出た場合は「そっかー」ぐらいでスルーしてください。そして、次回利用を拒否して泣く可能性があるかと思うのですが、必ず連れてきてください。」
と。

その後、Bくんの関係先ともカンファをし、保護者の方からの相談にアドバイスを続け、Bくんはうるさいと泣く事はなくなり、外出先がいくら騒がしくても暴れる事はなくなった。

なぜそうなったのか。

Bくんの場合、
不安を感じる→うるさいと言って泣く→いい事がある
の流れを完全に断ち切る必要があった。
不安の解消は配慮によって解決できたが、
「うるさい」と泣く→いい事があるの流れを断つためには、今回、施設で実施したように、
「うるさい」と泣いた→楽しい事を逃す
「うるさい」と泣かなかった→楽しい事ができた
の経験を積み重ねる必要があった。

そう。

Bくんの困り事はそもそも、「うるさい」と大声を出して泣いて暴れる事なのだ。
勘違いしてはいけないのが、(うるさいな〜)と感じるのは人それぞれ自由だという事。
ただ、その後泣いて暴れて周りに迷惑をかけるのは間違っているという事。
これをイコールとしては絶対にいけないのだ。

Bくんの場合はそもそも、日常生活に影響が出るほどの過敏さはなかった。
施設内で実施したモニタリングでも、途中、苦痛を伴っていると判断した場合は、即座に別室へ移動する予定だった。
だが、そうはならなかった。
これはつまり、Bくんの「うるさい」と言って泣いて暴れる行動に、Bくんの意図があるという事だ。

聴覚過敏に対するアプローチとは全く別の、『行動を変える』アプローチをしていかなければいけないという事実にいち早く気づく事ができなければ、今頃Bくんは、不登校の引きこもり児童になっていただろう。

自閉症スペクトラムの特性があるから仕方ない、守ってあげようという考えは、時に、障害を助長し、障害児を作り上げてしまうという事をぜひ、知っていただきたい。



続く



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