プリファードエンド⑤


サンドウィッチを食べ終わり、食器をカウンターに提げに行ったら丁度夫妻が到着したようだった。スーツを着た大人がぞろぞろとエントランスに集まりだし、奥の方は何も見えないほどだった。

「如何にも超大物のお出ましって感じだなぁ…」
思わず声に出してしまっていたのだが、それに竹中さんは応えてくれた。
「お出迎えに上がってるのはみんな政府関係の人たちだよ。彼に取り入ろうと必死なんだ。C-Payはマックスの創業した会社だけど、一人で作ったものじゃない。共同創業者のデイビス・フラーという男と一緒に創業したんだ。そのデイビスが最近、海上国家計画というのを考えているという噂があるんだ。原子力発電で電力を賄い。基本的には金融でお金を稼ぐ。余った電力は常に仮想通貨のマイニングに使うという話らしい。それでどこよりも平和で安心なお金持ちのユートピアを作るとか何とか。夢物語だが、実現不可能では無いらしい。彼らは、そのプロジェクトに入ったり一枚噛んでやろうって思ってるんだよ。」
「そんな話、噂すら聞いたことないよ。」
「そりゃあ、今のデイビスは世界最大規模の機関投資家と言える。世界を牛耳っているようなもんだ。メディアで流したらそのメディアは一瞬で潰される。」
「そんな世の中になってるんですか…」
「資本主義とはそういうモノなんだよ。君なら対抗できるかも、個人資産3兆円の18歳なんて絶対に居ない。」
「…まぁ肩書だけですよ。とにかく一枚噛めるといいですね日本政府も、そのデイビスという人の計画に。」
「ああ、でもマックス本人から聞いた話なんだと、デイビスとは創業当時から仲が悪くて今は連絡を取り合っていないらしいから無理だろうな。」
「え。それ有名な話なんですか?」
「さぁ?皆知らないから群がってるんじゃない?」
「…一枚噛めるといいですね。」
そういうと竹中さんは笑っていた。

そんな話をしていると、マックス夫妻が竹中さんに英語で話しかけてきた。流暢な英語を正確に聞き取れるほど出来た耳も脳みそも備えていない僕だったが、先ほど紹介された。ヒューマノイドのZEROが逐一通訳をしてくれた。

予定時刻になったので、マックス夫妻と共に実際のDループを見に行く。Dループは新学園都市を取り囲むように走ってる大外の環状道路の真下、地下に建設されている。
地下まで行くDループ専用のエレベーターに乗ると、C-Payの創業者、ジョン・マックスが話かけてきた。ZEROの同時通訳を頼りに会話をする。

「仲本君。今回はよろしく頼むよ。日本のプロジェクトだから日本人が居てくれる方が何かと都合がいいだろう。頼りにしている。」
「いやいや、俺なんか何も出来ませんよ。偶々親が大金持ちだっただけで、その親ももう居ませんし。」
「そんなことは無い。君は選ばれたんだよ。これも神の導きさ。」
「ただラッキーだっただけです。」
「それこそが神の導きさ。」

そんな話をしているとDループのフロアに着いた。Dループは本当に巨大でこんなものを地下にどうやって作ったのだろうかと思った。ジョン・マックスは興奮しきっていて竹中さんにあれこれ聞いていた。僕はZEROにタブレット上のDループの設計図の解説を受けていた。

「それじゃあ実際に入りましょう。土足厳禁なのでここで靴を履き替えてください。」
竹中さんの指示に従いながらDループの中に入る。

Dループは外から見たら巨大なカプセルのようなモノだったが、中は非常に細かく分かれている。大部分が緑化ユニットや汚水処理ユニットのために使われていて、見た目ほど乗組員の移動できる範囲は無かった。自室とされる場所もちょっといいカプセルホテル程度、それ以外は全部共有だ。トイレもシャワーも全部共用だった。
「何だか宇宙飛行士の訓練所みたい。」
そう言ったら、内部の設計は多くの部分で新学園都市の宇宙開発所の協力があったとZEROが教えてくれた。

Dループの実機視察が終わると、マックス夫妻はこの後も予定が詰まっているようで急いで出ていってしまった。別れ際に「今度合うときはは例の娘も呼んでクルー全員で食事でもしよう。」と言われた。

マックスが帰った後、竹中さんが愚痴をこぼす。
「専門的なこと根掘り葉掘り聞いてきて、どっちみち特許は抑えてあるからパクりようがないのに。はぁ~疲れた。何より英語が疲れる。」
「ZEROの通訳助かりました。」
「最近の人工知能は、こちらの予期しないタイミングでエラーを吐くから、神経モデルを理解するのは人間を理解するのと同じくらい難しい。ZEROの通訳にも言えることだ。」
「そういうもんですか。」
「あぁ、自動運転技術と同じさ。」
「死亡事故は起こらないけど、度々バグるってやつですか。」
「技術が高度になればなるほど、完璧なものではなくなるのだ。」
そんな話をしてから、車で泊まるホテルまで送ってもらった。どんなホテルだろうかと思ったら、例のピラミッド型の建物だった。

ホテルのレストランで夕飯を食べるていると、携帯に連絡が入ってくる。竹中さんからだった。
「明日は空港に行く前に、総理大臣と娘に会ってもらえないか?簡単な挨拶程度だから何も準備は要らない。」
総理大臣…マックス夫妻とはまた別の緊張があった。少し粘土の高い重みを感じながら返信をした。
「分かりました。」


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