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ヤクルト・スワローズに魅せられて 【連続小説4日目】

「クソ!ヘボい試合しやっがって!」

亮太は悪態をつきながら神宮球場をあとにする。

とにかく今年のヤクルトは弱い。2連覇したのは遠い夢のよう。最近は全く勝てないし、ようやく波に乗れるかなと思ったら怪我の連続。今日も若手有望株がフェンスに直撃してタンカで運ばれた。

「二度とくるかこのヘボ球団。」
イライラが隠しきれない表情で信濃町まで歩く。

「呪われてるよなー」

会社帰りだろうか、ワイシャツの上からユニフォームを着た3人組が楽しそうに歩いている。負けたことはみんな悔しいはずなのになぜか少し楽しそうだ。彼らにとっては野球なんて娯楽の一部なんだろう。

いや、自分だってそうだ。別に球団関係者でもないし、肩を壊したガラスのエースでもない。ただチームが好きなだけだ。

今年5回目の現地観戦。2勝3敗。
前回はボロ負けだったが、今日は1点差だったし、最後まで楽しめたからよしとするか…いやでもあの采配は…なんてことを考えながら定食屋に入る。

他チームの試合結果を見ながら日高屋でビールをちびちびやる。これが神宮後の楽しみだ。

向かいではどこかで見た顔が並んで話している。

「外野の常連だ」

以前、外野の指定席で見ていた時、周囲を囲まれたことがある。彼らは直接プライベートで知り合いだったわけではなく、球場で知り合ったようだ。年も見た目もバラバラ。共通点はヤクルトのユニフォームを来ていることだけだ。

「おう久しぶり」
「今日は外野なんだ」
「あれ、この前の遠征きてた?」
「そういえば仕事なんだっけ?」

そんな話をしていたのが妙に記憶に残ってる。

亮太は54歳。子供もそろそろ独立する。妻とは円満だが、もともと趣味を共有するような関係じゃなかった。
定年がよぎり、会社以外の生きがいや人間関係を求めるようになった。
そんな亮太に彼らは輝いて見えた。

「明日の前売りはもう売り切れてるな…」
次はいつ行こう。Googleカレンダーのヤクルトファンを見ながらぼんやり考える。

30代サラリーマン2児の子持ち。某メディアで勤続10年あまり。写真と本と日々思いついたことを書いていきます。カメラはa7iii。下手の横好き。贔屓チームはヤクルト。