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ハードウェアスタートアップ生態系の環境整備仮説#2『全体像(後編)』

 皆さん、こんにちは! 創業伝の髙橋 規尊です。

 さて、改めて仮説の全体像図を再掲しておきますが、後編ではポイント4以降について共有してまいります。

200617【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

ポイント4:空き町工場の活用(空き町工場承継)

 全体図の内、下図の濃色箇所の話です。

200617ポイント4【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

 町工場の皆様とプロトタイプ開発を進める中、案件や人材などの増加で活動規模が広がっていくと、
「ずっと間借りしているのも申し訳ない」
「もう少し広い作業スペースが必要になってきた」
「来客も増えてきたし、自分達の拠点を持つ必要性が高まってきた」
など、自社拠点を確保する段階になっていきます。

 しかし、潤沢な資金調達をしていない限り、自社拠点にかける固定費は最小限に留めたい所です。

 地域にもよりますが、民間の貸工場では物件取得費や地代家賃など、スタートアップにとってコスト負担が重くのしかかります。
 比較的、コスト負担を軽減できる自治体の工場アパートは有力候補ですが、入居者募集時期が限定される上、人気が高いため、応募しても入居できる保証はありません。

 そこで、後継者不在、業績低迷などの理由で、やむを得ず廃業された町工場などの『空き町工場』を活用できないか、と言うのが私の仮説です。

 大田区は製造業事業所が多い街ですが、年々減少の一途を辿っています。廃業情報を見聞きする機会がある中、統計データ通り、町工場の廃業情報が多い傾向にあり、いつも悲しくなってしまいます。

 しかも、大田区内を回っていると、使われていないであろう町工場を意外と見かけます。町工場が廃業された後、次の状態になっている空き町工場はある程度存在していると考えています。

◆高度経済成長期に伴う資産形成により、1階が町工場で2階が自宅という、元経営者家族の所有資産になっている
◆廃業したものの、機械や備品等の処分にはお金と労力がかかる上、人生の苦楽を共にしてきたものでもあるため、手をつけづらく、倉庫化している
◆貸工場として貸し出さないのは、面倒を避ける意図もあるが、改めて稼がなくても生活できる資金余力はある

 よって、空き町工場を掘り起こす余地がある上、上記の仮説から、空き町工場の所有者は元ものづくり職人ですので、元来、ものづくりが大好きなはずです。

 かなりの性善説ですが、新たなものづくりで世界を変えようと頑張るスタートアップのビジョンに共感を得ることができ、スタートアップに協力的な条件で空き町工場を活用できることが、このポイント4の理想の姿です。

 その事例をまず1つ作れないものか、私自身、日々、模索中です。ここでも、空き町工場とスタートアップの間をマッチングしたり、取り持つコーディネート人材が必要だと思っています。

 なお、空き町工場活用段階のスタートアップの事業規模は、まだ小規模を想定しています。ですので、空き町工場オーナーの協力でスタートアップの資金負担を軽減しつつ、下記リンクにある『ものづくり工場立地助成事業』『大田区研究開発企業等拠点整備助成事業』なども活用していくと良いですね。

 また、空き家活用は社会的課題になっているのは、皆様ご存じのことと思います。大田区では、区内の空家を公益目的で活用する取り組みを進めています。似た感じで、ハードウェアスタートアップ支援を目的に、空き町工場活用の仕組みを整備できないものでしょうか。

 ハードウェアスタートアップ側も、空き町工場に残っている設備や備品等の処分を手伝ったり、内装等をDIYで自ら作業環境を整えたりできると、それも1つの空き町工場承継の形になるでしょう。

 仮説とは言え、理想ばかりを言ってきましたが、空き町工場活用を推し進めるには、数々の困難な課題を乗り越えていく必要がありますが、それは別の回で述べていきたいと思います。

ポイント5:スタートアップ連鎖的メンターシップ①

 全体図の内、下図の濃色箇所の話です。

200617ポイント5【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

 前編の『ポイント2:スタートアップ間借型共創町工場の拡大』では、「スタートアップがものづくりのプロフェッショナルが集まる町工場を間借りして、プロトタイプを共創する」という仮説について述べました。

 同じように「後輩スタートアップが先輩スタートアップの町工場を間借りして、お互いが力を合わせて切磋琢磨していく」というのがポイント5の仮説です。

 全体図では、先輩スタートアップを「ST①」、後輩スタートアップを「ST②」としています。コーディネート人材によって、スタートアップ同士をマッチングしたり、取り持つ必要があるでしょう。

 既存町工場とスタートアップの関係と同様に、下図のようにスタートアップ間でも相互補完がしやすくなります。先輩スタートアップがメンターの役割も果たすことで、培ってきた経験・ノウハウを後輩スタートアップが学びながら事業展開することが可能になります。

図3

 つまり、町工場に育ててもらった恩を次のスタートアップに返す連鎖的取り組みです。映画で例えるなら「ペイ・フォワード」でしょうか。
 この連鎖的メンターシップが拡がれば拡がる程、先輩達の経験・ノウハウが下図のように引き継がれていきます。起点となるスタートアップを受け入れる町工場が増えれば、その連鎖もより一層拡がります。

図4

 スタートアップは、自社の中核事業に全経営資源を投入・集中して、スピード感をもって事業展開することが重要です。後輩スタートアップの面倒を見る余裕などないかもしれません。

 しかし、近年は連携活動が推奨されているように、自社単独で閉鎖的に頑張るより、周りの力を借りる方が望ましい傾向にあります。

 連携する中で、後輩スタートアップを間借りさせることにより、時間も経験も濃密にしていくことができますので、
◆親は子供から学ぶことも多い
◆先生は生徒から学ぶことも多い
◆師匠は弟子から学ぶことも多い
と言うように、先輩スタートアップは後輩スタートアップから学べることも多いはずです。先輩達は、その学びを自身の事業展開に活かすことができるでしょう。

ポイント6:事業拡大に伴う先輩スタートアップ移転

 全体図の内、下図の濃色箇所の話です。

200617ポイント6【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

 スタートアップが売上アップや資金調達等で資金余力が生まれ、事業拡大の段階になれば、現状よりも広い工場アパートや民間の貸工場に移転しやすくなります。

 スタートアップの希望条件や今後のプランを考慮して、工場アパートの募集を案内したり、民間の貸工場をマッチングしたりするコーディネート人材がいると、スタートアップにとって拠点を探す労力はかなり緩和されます。

 先輩スタートアップが拠点を移す時には、活用していた空き町工場オーナーと後輩スタートアップは既に知っている仲だと思いますので、条件面が折り合えば、当該空き町工場を後輩スタートアップが引き継ぎやすくなります。

 空き町工場承継も連鎖することで、世の中にあるものづくり拠点の減少の抑止力になるでしょう。

ポイント7:スタートアップ連鎖的メンターシップ②

 全体図の内、下図の濃色箇所の話です。

200617ポイント7【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

 『ポイント5:スタートアップ連鎖的メンターシップ①』と同様に、先輩スタートアップの新拠点でも、後輩スタートアップを間借りさせて協業することが理想です。

ポイント8:近未来体が体験できる街づくり

 全体図の内、下図の濃色箇所の話です。全体像の中では最後のポイントになりますが、個人的に一番重要なポイントだと思っています。

200617ポイント8【ハードウェアスタートアップ生態系仮説v1.2】

 スタートアップのプロトタイプが完成すると、次にそのプロトタイプを使ってもらってテストする段階に進みます。

 私が活動拠点としている東京都大田区は、次の特徴を有するとても希少な地域です。
◆先端技術と日本文化の融合による新産業創造・発信拠点『HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)』が開業予定
◆日本国内で有数のものづくり工場の集積地
◆東京都内で最も多い商店街数を誇る
◆航空、電鉄、自動車など、各種交通網の結節点である

 この好条件が揃う大田区の特徴を活かして、「ハードウェアスタートアップの実証実験を積極的にサポートする」が本項の核です。

 こちらも、既に先駆的な取り組みがあります。
◆静岡県浜松市の「実証実験サポート事業
◆神奈川県の「ロボット実証実験支援事業
◆東京都の「スタートアップ実証実験促進事業
◆福岡県福岡市の「福岡市実証実験フルサポート事業
 etc・・・。
いずれも、素晴らしい取り組みです!継続開催している所の成果や取り組む中で新たに見つかった課題など、リアルな話を聞きたいものです。

 改めて調べてみると、実証実験支援に取り組む自治体が増えてきたように感じます。スタートアップの皆様にとって、望ましい環境整備がまた1つ進展していて、感謝の気持ちで一杯です(^^♪

 実証実験を通じて、各種データやユーザーボイスを収集できることがとても貴重です。下図のように、収集した情報資産を活かして、製品化に向けた改良、実績情報を活かした資金調達、ローンチ後の販売促進などに活かせるからです。

図5

 実は、東京都大田区でも、開業予定のHANEDA INNOVATION CITY(略称HICity)で実証実験から社会実装もサポートする「HANEDA INNOVATION CITY BUSINESS BUILD」が開催され、4つの協業プランが採択されました。
今後の展開が楽しみです!!

 将来的には、HICityだけでなく、大田区の特徴を活かして、大田区内の街中でも実証実験が行われることが理想です。

 皆様の日常生活の中で、ハードウェアスタートアップ製品は身近にありますでしょうか?

 私が無知なだけなのか、BtoB製品が多いから見かけないだけなのか、大手メーカーが提供するスマートフォンやウォッチ、ワイヤレスイヤホン、AIスピーカー、掃除ロボットなどは身近ですが、ハードウェアスタートアップ製品は意外と見かけないものです。

 それが、街中を歩いていて、普通にドローンが飛んだり走ったりしていたり、普通に無人走行車が走っていたり、普通にロボットが仕事していたり、AR/MRグラスで新しく楽しい体験が普通にできたらどうでしょうか?

 大田区内の街中でも実証実験をすることで、我々庶民が日常生活の中で触れるようになり、社会実装もされれば、その製品が生活の中で当たり前になる。この大田区が「作る街」だけでなく、「使う街」にもなることが、ハードウェアスタートアップ生態系において、とても重要だと思っています。

 一方で、大田区内のゲストハウスや民泊等の宿泊事業者の方々とお話していると、観光客は浅草などの知名度が高い観光地に行ってしまうため、大田区は羽田空港が近いものの、通り過ぎる街になっている印象を受けます。

 でも、下図イメージのように、ハードウェアスタートアップ製品が街中で当たり前に使われている「近未来が体験できる街」になれば、観光産業にも良い波及効果が期待できます。

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 大田区内にもたくさんあるレトロな下町エリアと近未来が体験できるエリアが共存すれば、それは大田区ならではの観光資産にもなるはずです。

 大田区内の下町ゲストハウスに泊まり、オーナーオススメの「大田のお土産100選」を注文したら、すぐにドローンが届けてくれる。そんなことができたら、私でも泊まりたくなります。

 そして、実証実験を皮切りに、社会実装も大田区から始まり、自然と普及が広がっていく。あたかも、風の谷のナウシカのラストシーンで、ナウシカを中心に、王蟲(オーム)の怒りの赤い目が輪状に青く変わっていくように、ハードウェアスタートアップ製品の普及が大田区を起点に広がっていくことが理想です。

【王蟲(オーム)の怒りが鎮まっていく広がり】
出典:『風の谷のナウシカ〈下〉』宮崎駿原作 徳間書店より抜粋

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 そういう環境づくりができたら、「ハードウェアスタートアップ企業が自然に創生され、自然に成長・発展を目指せる環境」になるのではないかと考えています。

 実現は一筋縄ではいかないでしょうし、今後もいろいろな方とのご縁を頂く中で、仮説内容も変わっていくかもしれません。でも、皆様のご協力を頂きながらですが、自分でできる所から地道に模索していきたいと思います。


 「ハードウェアスタートアップ生態系の環境整備仮説」という私の勝手な妄想を書き連ねましたが、最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございます!!
 本シリーズは、まだ終わりではありません。私の仮説物語はもう少し続きますので、またご一緒できれば幸いです(^^♪

クリエイター活動を通じて、将来を創り上げる創業者の皆様に貢献し続けるためにも、皆様のサポートを頂ければ幸いです!