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ハードウェアスタートアップ生態系の環境整備仮説#3『東京都大田区のポテンシャルと潜む危機』

 皆さん、こんにちは! 創業伝の髙橋 規尊です。

 前回#2の記事で、東京都大田区は、次の特徴を有するとても希少な地域であり、その特徴を活かして、大田区内の街中でも実証実験が行われることが理想であると述べました。
◆先端技術と日本文化の融合による新産業創造・発信拠点『HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)』の2020年開業エリアが9月18日に本格稼働予定
◆日本国内で有数のものづくり工場の集積地
◆東京都内で最も多い商店街数を誇る
◆航空、電鉄、自動車など、各種交通網の結節点である

 今回は、その観点を掘り下げることで見えてくるポテンシャルと潜む危機について、共有していきたいと思います。

1.住商工・交通が充実する大田区

 上述した特徴以外にも、大田区にはたくさんの魅力があります。
◆特別区(東京23区)の中で最大面積
◆名作キネマ"蒲田行進曲"の舞台となった昭和レトロな下町と高級住宅街(田園調布等)の共存
◆青果・水産・花きを取り扱う総合市場「大田市場」 
◆勝海舟記念館や池上本門寺、馬池洗エリアなどの文化や歴史を感じる地域資源
◆多摩川河川敷や大森ふるさとの浜辺公園などの沿岸エリアではスポーツを楽しめ、池上梅園や桜坂などでは自然を楽しめる
などなど、ここには掲載しきれない魅力が「大田区シティプロモーションサイト」には載っています。

 大田区は、人口総数の増加が続いており、東京都内で3番目に多い地域でもあります。

図2

 今年2020年には、大田区から「令和元年度 大田区ものづくり産業等実態調査【概要版】」が公表されました。

 本報告書の中では、東京23区の製造業事業所数が示されており、大田区は東京23区の中で最も多い4,000超の製造業事業所が立地しているものづくり集積地であることが分かります。

コメント 2020-09-10 140644

 商業の観点では、商店街の数が149(2018年12月現在)と都内1位を誇り、シャッター商店街は少なく、元気に頑張っている所が多い印象です。

 交通の観点は既述の通り、航空、電鉄、自動車など、各種交通網の結節点となっています。開通まで時間がかかりそうですが、新空港線「蒲蒲線」が開通すれば、更に利便性が高まるでしょう。

 このように、大田区は住商工・交通が充実しています。

2.住労完結比率が高いエリア

 下記は、2015年(平成27年)国勢調査の「従業地・通学地による人口・就業状態等集計」より作成したグラフです。各特別区の住民の内、15歳以上の就業者が居住区内で就業する人数と割合を示しています。

図3

 大田区は、自区内就業者数、自区内就業者割合ともに相対的に高い水準です。つまり、大田区内に住み、大田区内で仕事をするという、生活と労働が地域内で完結する特徴もあることが分かります。

 今後、テレワークが更に進むことにより、値は変動しますが、経済生態系の要素である住商工・交通が充実し、生活する場所と仕事する場所の近接性も兼ね備える大田区は、経済生態系の縮図と言えるため、実証実験や社会実装のエリアとして適している仮説が一層深まりました。

3.大田区には適さない領域

 逆に、農業は広大で肥沃な土地を有する地方の方が適しているでしょう。友人と遊ぶ場所(エンターテイメント関係)では、JR東日本の「駅別乗車人員ベスト100」から、やはり新宿・池袋・渋谷などのエリアが強そうです。

 観光はどうでしょう?
 次のグラフは、東京都産業労働局で公表されている「国・地域別外国人旅行者行動特性調査」から抜粋したものです。羽田空港・成田空港における国際線ターミナル搭乗待合ロビーにおけるアンケート集計を見ると、蒲田に訪れた人の割合はわずか「1.6%」です。

図4

 また、RESAS 地域経済分析システムで、NTTドコモ社のモバイル空間統計に基づく外国人滞在分析を見ると、次のグラフの通りとなりました。

図5

 新宿・大久保は新宿区、銀座は中央区、浅草や上野は台東区、秋葉原や東京駅周辺は千代田区、表参道・六本木・お台場は港区というように、既述の【外国人旅行者が訪問した場所】と整合します。

 いずれも東京都内の名所なので、残念ながら、大田区の観光知名度はまだ低いようです。

4.ユース現場で資金調達

 『HANEDA INNOVATION CITY(略称:HICity(エイチ・アイ・シティ)』の2020年開業エリアが2020年9月18日に本格稼働する予定です。
 本格稼働に合わせて、日本文化や先端技術に関連したオープニングイベント・実証実験を開催します。

 その中の1つ、東京都が実施する『Tokyo Robot Collection』では、HICity内で数々のロボットの実証実験が行われます。

 経済生態系の縮図と言える大田区のポテンシャルを発揮するためにも、将来的には、実証実験フィールドを街中に広げたい所です。

 大田区に適する領域、適さない領域を見定めた上で、実証実験プランを通年公募。厳重な審査はもちろんですが、地域が協力したいか否かを審査項目の1つにしておくことが望ましいでしょう。
 ハードウェアスタートアップにとって、カスタマーがそれを使いたいか否かと同義で良いフィードバックになるはずです。

 実証実験を街中で実施する中では、VCやCVC、投資家等を集めて、街中で開発製品が使われている現場を見てもらい、資金調達の場にもしていけると良いですね。投資の意思決定は、何も会議室の中だけではなく、現場でしても良いはずです。


 なお、「令和2年度 東京都におけるイノベーション・エコシステム形成促進支援事業」において、品川・蒲田・羽田エリアを主幹する『認定地域別協議会』に京浜急行電鉄(株)さんが認定されています。

 HICityの取り組みと共に、イノベーション・エコシステム形成促進においても、陰ながら応援しております!!

5.大田区に潜む危機

 前回#2の記事で、『空き町工場』の活用について触れましたが、もう少し、深掘りしていきます。

 大田区は製造業事業所の集積地であることは既述の通りですが、次のグラフから、年間で約200事業所も減少していることが分かります。

図6

 大田区内ものづくり関連企業のライフステージについては次の通りです。日本は全体的に事業承継問題に直面していますが、大田区も例に漏れず、事業承継が関係する②~⑤がボリュームゾーンとなっており、事業承継面で大きな課題を抱えています。

図7

 大田区では、ライフステージ別の事業承継の意向も取りまとめてくれています。ボリュームゾーンである②~⑤のいずれも「廃業を考えている」が20%を超えています

図8

 各企業の現拠点の土地・建物が所有か、賃借かの状況は次のグラフの通りで、所有が過半数を占めています。

図9

 以上から、今後も製造業事業所が減少する可能性が高く、仮に年間200事業所の減少が続く場合、その内100事業所程度は所有物件であると推定できます。所有物件の場合、自宅併設のケースも多いでしょう。

 廃業の法的手続き、設備や備品等の処分、老朽化部分の修復等をしない限り、貸工場として不動産賃貸市場には出てきません。これらを先延ばしにし、使われていない空き町工場は、今後も増えるのではないでしょうか。


 一方で、下表の通り、空いた土地を活用して建つのは、圧倒的に「住宅」です。新空港線「蒲蒲線」の開通、ビジネスの更なるグローバル化などで、大田区の利便性が高まるほど、この流れには拍車がかかるでしょう。

図10

 大田区の地価が高まったら、現拠点を売却して、地価が安い地域に移転するケースが増えるかもしれません。


 大田区ならではの優位性もポテンシャルも、実証実験や社会実装に適した地域性も、町工場の集積があるからこそです。町工場が少なくなった後の大田区は、交通の便が良い住む街になるだけでしょう。

 ものづくりの担い手はもとより、ものづくりの場所そのものが少なくなることは、大きな危機だと感じています。

 仮にものを造る場所が都心から無くなったらどこで造るのか?
 地方都市や海外など、造る場所が都心からどんどん離れていくでしょう。

 空き町工場を掘り起こし、活用する意義が一層深まりました。

6.ポテンシャル発揮も危機回避も『街づくり』の観点が大切!?

 ハードウェアスタートアップ生態系の環境整備を考える中で、実証実験の街化と空き町工場の活用を深掘りしてきましたが、結局は『街づくり』に行き着くのだと感じています。

◆社会的に広い生態系の中で大田区が担うべき生態系環境は何なのか?
◆どのようなプレイヤーが必要で、必要時に呼べば済むのか、立地してもらうべきなのか?
◆どのような場所が必要で、区内の既存資源を活用すべきか、区外資源を活用すべきか、新しく創るべきなのか?
◆どのような流れが必要で、どのような点を設けて、流れを創り出していくのか?

 東京都の生態系、日本の生態系、アジアの生態系、世界の生態系、各生態系を見据えながら、上述した1つ1つの要素を見出し、集合体にした大田区ならではの街づくりが必要なのだと思います。

クリエイター活動を通じて、将来を創り上げる創業者の皆様に貢献し続けるためにも、皆様のサポートを頂ければ幸いです!