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【特別無料公開】ユング心理学から見るBTS② 「ON」で表現されているもの――『BTS、ユング、こころの地図』本文抜粋

ソロ活動始動で話題のBTS(防弾少年団)。その発表に際して公開された映像では、苦悩を打ち明けるメンバーたちの姿がファンの胸を打ち、世界中のメディアでも取り上げられるところとなりました。

そこで今回、「ソロ活動にいたるBTSの葛藤を予言していたかのよう」と話題の翻訳書『BTS、ユング、こころの地図』より本文の一部を特別に公開します。
本書はBTSのアルバム『MAP OF THE SOUL:7』にインスピレーションを与えたとされるユング派分析家による、アルバムの考察書にしてユング心理学の入門書です。

メンバーたちが友情タトゥーをいれたことでも注目を集める「7」という数字の持つ象徴性について、また、彼らの"第1章"を締めくくる曲となるはずだった「ON」に込められた意味について、ユング心理学の視点から見えてくるものとは――。


『BTS、ユング、こころの地図』書影


TRACK 11 ON

かつてユングはこう述べた。「正気だという人がいたら連れてくるといい。私が治してみせるから」。正気だというのはじつに価値ある美徳であり、資質である。私たちはみな正気でありたいと願い、家族にも正気であってほしいと願い、社会にも正気であってほしいと願う。ただし、正気だというだけでは不十分なのだ。それでは想像力も深みもなくなってしまう。基本的には、正気さとは単なる常識のことであり、必要であり価値のあるものだとはいえ、意味や創造性、想像力といった、心のニーズを満たすことはほとんどない。「正気だという人」とは 無意識に触れていない人のことだ。それがユングの言葉の意味である。「その正気だという人に、無意識との接点を持たせてみせよう」ということだ。そうすることで深みが出てくる。全体性とは理性的な意識のみに基づくものではないのだ。

ユングにとっての全体性への道のりは、夢に取り組むこと、アクティヴ・イマジネーションやその他の技法を通じて、無意識と接点を持つということだった。そうすることで、正気を失っているとまでは言えなくとも、非理性的で人目につかない、自分自身の別の部分に触れることができる。そこがあなたの創造性が見つかる場所であり、あなたの生のエネルギーが生じる場所である。

「ON」はレジリエンス、つまり困難を克服して前進することとも深く関係している。理論的に「アンチ・フラジリティ」(抗脆弱性)と呼ばれている性質を、BTSは有している。アンチ・フラジリティとは深刻なショックやトラウマを生き延びることを可能にする、何らかの性質のことである。アンチ・フラジリティを有している物体は、高いところから硬い地面に落としても壊れない。眼鏡や花瓶のような脆いものは壊れてしまう。携帯電話はアンチ・フラジリティの性質を持つように作られている。落としてしまうことも、トイレや地面に落ちてしまうこともある。それでもたいていは壊れないし、故障することもない。それがアンチ・フラジリティだ。心理療法で人々を相手に仕事をする際に、私たちが目指しているのがこれである。その人をアンチ・フラジリティを備えた存在にしていくということだ。打ちのめされたり、息切れしたり、挫折したり、落胆したり、失敗したりすることなら誰にだってある。それは避けられないことなのだが、もしあなたが脆い存在だったなら、そのせいで壊れてしまうだろう。誰かをアンチ・フラジリティを備えた存在にするというのは、その人をレジリエンスの力を備えた人にして、立ち直れるようにするということだ。転ぶこともあるだろう。情動の面で傷つき、痛みに苦しむこともあるだろう。それでも、立ち上がって、前に進むことができる。この曲はそのことを表現している。どれだけ辛いときがあっても進みつづけよう、と。

(「第2章 『MAP OF THE SOUL : 7』の歌詞の考察」より)


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