研究方法の選び方がわかる! 『逆引き! 心理学研究法入門』「はじめに」を無料公開
はじめに 本書の取扱説明書
「研究をしたい(しないといけない)けど、私の研究にはどんな分析法を使って、どのように進めていったらいいの?」……あなたはこんな悩みを持ったことはないですか?
本書は、「研究法についての詳しい内容に関する知識を得たい」「研究で使う方法はわかっているので、具体的な手続きや統計ソフトの使い方を知りたい」といった、特定の研究法に関する詳しい知識を得たい人ではなく、「研究をするのにまずは何から手をつけたらいいのかわからない」「研究法の本にはいろいろな研究法が書かれているけれど、そもそも自分の研究にはどの方法を使えばいいかわからない」といった、実際に研究をしたいけれど、どうしたらいいのかわからないという人を対象とした本になります。言うなれば、「研究法の解説ではなく、研究法の選び方が知りたい!」という要望に応えるべく、まったく新しいスタイルで研究法や分析法を選ぶ方法を解説しています。
このように、本書はこれまでの研究法の本とは少し異なる視点で書かれた本です。まずは本章を読んで、自分が知りたい内容であるかどうかを確かめてみてください。
0-1 本書のコンセプト
現在、多くの心理学研究法の本が出版されていて、研究法についてわかりやすく解説している本もたくさんあります。これらの本の多くは、パッと開くと研究法の名前がズラズラと並んでいて、各章でそれぞれの研究法の内容や仕組みについて解説しています。そのような本は、心理学の研究をライフワークとしていて、基本的な研究法をどのような時に使えばいいのかがわかっている心理学者や、心理学研究法自体に関心がある人(例えば、講義で研究法について説明する必要がある大学教員や研究法の研究者など)が読む分には役に立ちます。あるいは、大学院入試などのために研究法について知識を得なければならないという人にとっても非常に勉強になるでしょう。
しかしながら、卒業論文や修士論文のために研究をしようとしている学生や、自分の関心事について調べるための方法がわかればいいと考える実践家は、必ずしも研究法の詳しい知識を得たいわけではありません。実際に研究を行いたい人、自分の関心事について知るための道具として研究法を使いたい人からすると、いろいろな研究法を紹介されても、「そもそも自分の関心事を知るためにどの研究法を使えばいいかがわからないから、どのページを見たらいいのかわからない」と困る場合も多いのではないかと思います。そのような人にとって大事なのは、研究法の詳しい説明ではなく、自分の研究でどの研究法を使えばいいのか、という点だと思います。
そこで、本書では次のような点がわかるような形で書かれています。
①研究目的について知るために用いるべき研究法・分析法の選び方。
②それぞれの研究法・分析法を行うために必要なデータとその集め方。
③主要な研究法・分析法に関する大まかなイメージや流れ。
④実際に研究法・分析法を用いた研究例。
本書は、一つひとつの方法の詳しい説明は行わず、「自分が研究で知りたいことを知るためにはどの研究法・データ収集法・分析法を用いたらよいか」がわかることを第1の目的としています。第Ⅱ部でそれぞれの研究法などの大まかな説明はしますが、前提となる考え方や詳細な手続きなどについては多くは触れません。その代わり、本書を読むことで、自分の関心事を調べるためにはどのようなデータを集め、どの方法を使えばいいのかがわかるようになっています。つまり、研究法自体の解説ではなく、「研究法・データ収集法・分析法の選び方」に特化した本になっています。
本書を通して自分の関心事に合った研究法・データ収集法・分析法が選択できたら、その方法論についてネットで調べたら、別の解説書を読んで、より詳しい内容の理解を深めてください。巻末にそれぞれの研究法について著者がおすすめしたい本を紹介しますので、そちらのほうも参考にしてください。
また、分析法の中の「少数変量の分析」については、筆者が書いている『統計嫌いのための心理統計の本―統計のキホンと統計手法の選び方』(白井,2017;以下、『統計嫌いのための心理統計の本』)も併せて読んでいただくと、理解しやすいと思います。
0-2 本書の構成と使い方
イメージ0-1に、よく用いられる研究パターンのいくつかを逆引き形式(具体的な研究例から研究法を示す形式)で載せています。この図は次のように使ってください。
①まず、「研究目的」「研究例」のところを見て、自分の知りたい研究目的と近い形の研究例を探します。
②自分の研究と近い研究例が見つかったら、その右に並んでいる方法論について書いてある部分を読みます。研究の方法論は、大きく分けて「研究の方向性(第3章)」「研究法(第3章)」「データ収集法(第4章、第5章)」「データの種類(第4章、第5章)」「分析法(第6章)」の5つの部分に分かれています。
図の( )のページがその方法論を説明しているところなので、そのページを読めば、自分の研究目的に合った方法論の内容がわかります。
③もし「研究例」の具体的な研究の内容と照らし合わせたい場合は、「研究例」の右肩に振られている数字が参考文献リスト(イメージ0-2)の数字と対応しているので、参考文献リストに挙がっている研究を読んでみてください。なるべくネットなどでも手に入れやすい論文を選んでいます。
なお、ここで挙げた「研究例」はあくまで代表的なものになります。
第3章以降は、自身の研究目的に合った研究法を選ぶための手続きを説明しています。イメージ0-1に書かれている研究例を見ても、自分がしたい研究のイメージとはちょっと違うなという場合は、第3章以降を読みながらご自身で方法論を選択してみてください。自分の研究目的と照らし合わせながら読んでいけば、きっと用いるべき研究法についてわかると思います。
0-3 本書を読むうえでの注意事項
次に、本書を読むうえでの注意点をお伝えしておきます。すでに述べた内容も含まれていますが、注意点としては次の3つがあります。
①本書を読んでも詳しい方法論の手続きや統計ソフトについての説明はありません。
②本書は一般的な研究法・分析法の分類とは異なる分類の仕方をしている部分があります。
③必ずしも1つの研究目的に対して1つの研究法・分析法がセットになっているわけではなく、目的と方法が一対一対応になっているわけではありません。
第1に、前節でも述べたように、この本の目的は研究法や分析法の詳しい内容を説明することではなく、研究法や分析法を選択できるようになることです。そのため、それぞれの方法の内容や手続きに関する詳しい説明はありません。もしそれぞれの方法について詳しく知りたい場合は、他の解説書やネットなどで調べる必要があります。
第2に、本書は他の著書で書かれている研究法・データ収集法・分析法の分類とは異なる分類の仕方となっている部分があります。例えば、一般的には「研究法」は実験法、質問紙法、面接法、観察法、検査法の5つに分類されることが多いですが、本書のフローチャートを用いた分類を考える過程で、上記の5分類の中には研究の大枠となる研究デザインと、データを集めるための方法とが混在していることがわかってきました。そこで本書では、研究の大枠となる研究デザインを「研究法」、データを集めるための方法を「データ収集法」、実際にデータを分析・解釈するための方法を「分析法」として区別して分類しています。そのため、本書の分類は一般的に言われている研究法の5分類などとは異なる分類の仕方になっています。
第3に、必ずしも1つの研究目的に対して1つの方法が対応するような一対一対応になっているわけではない点です。研究目的によっては、複数の研究法・データ収集法・分析法を選択しうる場合があります(例えば家族関係がうつ状態に及ぼす影響について知りたい場合、家族関係とうつ状態を共に質問紙で調べる方法もあれば、うつ状態の質問紙と家族関係のインタビューを組み合わせる方法もあります)。その場合は、それぞれの方法の解説を読んでみて、自分の知りたいことを調べるのにどの方法がふさわしいのかを検討する必要があります。迷った時には、本書で紹介している研究例(その方法を用いて研究している論文)を読んでみて、自分がやりたいことに合っているかどうかを判断する材料にしてください。
0-4 本書の全体像
本書は二部構成になっています。イメージ0-3を見てください。
第Ⅰ部では、研究法を選ぶために必要な基本情報と研究法の選び方について見ていきます。第1章では研究を行うための「研究の進め方」について、第2章では本書で出てくる用語について解説しています。第3章~第6章は研究法や分析法の選び方に関する解説で、第3章は「研究の方向性」と「研究法」、第4章と第5章は「データ収集法」と「データの種類」、第6章は「分析法」について、それぞれの方法の選び方を、フローチャートを用いてわかりやすく解説しています。第7章は新しい尺度を作成するための手続きを解説しています。
第Ⅱ部では、第Ⅰ部で示した各研究法・データ収集法・分析法について簡単に説明をしています。第8章では「研究の方向性」について、第9章では「研究法」について、第10章では「データ収集法」について、第11章では「データの種類」について、第12章では「分析法」について、それぞれ代表的な方法を簡単に解説しています。また、第Ⅱ部ではイメージ図の中にそれぞれの研究法・データ収集法・分析法を用いた研究例も載せていますので、実際にどのような研究になるのかイメージする際に活用してください。
加えて、本文の中で引用されている文献は各章の最後に引用文献として掲載しています。また、イメージ図の中で引用している文献はイメージ図内に文献の詳細を記載しています。これらの文献も参考にしてください。
引用文献
白井祐浩(2017).統計嫌いのための心理統計の本―統計のキホンと統計手法の選び方 創元社