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はるとボク

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行動分析学を取り入れた「犬との暮らし方」にまつわる連載。犬と生きていくこととは、犬を飼うとはいかなることか。保護犬はると行動分析学者ボクの生活から、そのヒントをお届けします。 …
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#エッセイ

第9回|はるホエーヌを卒業する①

 ボクが部屋からいなくなっても、家を数時間留守にしても、吠えずに一人で寝て過ごせるようになったはるだったが、それでもまだ吠えることがあった。はるの食事のとき、ボクが食事をしているとき、家に誰かがやって来たとき、クレートに入れられたときである。  食事は朝夕の散歩から帰ってから与えることに決めていた。そうすれば散歩中が一日で最もお腹が空いている時間帯になり、リードを引っ張らずに歩く練習や見知らぬ人に近寄る練習におやつを効果的に使えるからだ。  散歩から帰り、お風呂で脚を洗い、

第8回|散歩と犬友

 「はるちゃん、はるちゃん!」散歩していると近所の犬友さんが声をかけてくれる。はるも尻尾を振って近寄っていく。「はるちゃん、ほんとにかわいいですね」なんて言われると嬉しくてたまらないのだが、表情に出すのは恥ずかしく、あえて平静を保とうとしたりする。定年退職したオジサンの地域デビューは難しいというが、きっとこういうところなんだろうな。  犬同士の相性と人との相性は別らしく、犬には近づいていって匂いをかぐのに飼い主さんには無関心なこともあれば、飼い主さんに近づいていってわんちゃ

第7回|留守番の練習

 ようやくボクのうちにやって来たはるは、シェルターで保護されていたときとは打って変わって、がんがん吠える犬に変貌していた。うちに誰か来ると吠える。フードを用意していると吠える。おやつをあげようとして袋から出すのに手間取ると吠える。パソコンに向かって仕事をしていてかまってあげないと吠える。  何より困ったのは、ボクが玄関から出るとすぐに吠えだすことだった。4月から授業が始まる。そうなれば毎日のように、はるは一人で留守番することになる。それまでにはなんとか落ち着いてもらわないとな

第6回|はるが来た

 てんちゃんは次の日から「はる」になった。ボクは結婚していないし、子どももいない。だから想像でしかないのだけれど、犬の受け入れ準備をしていた2か月間は、まるで出産を待つ初親のような気持ちで、名づけ辞典をめくったりネットで赤ちゃんの名前ランキングを眺めては、ノートに候補を書き出してた。  那須塩原へ向かう車の中、まだ2月中旬だったがその日は陽射しが暖かで、「もうすぐ春だな」とぼんやり思った。BGMでキャンディーズの「春一番」が流れていたからかもしれない。名前は「はる」にしよう

第4回|嫁入り準備

 犬は飼いたいけれど一人暮らしのボクに飼えるだろうか。飼うならどんな犬がいいだろうと思案していたが、決まるときは一瞬だった。本やインターネットの情報を元にしていた空想や妄想がいっぺんに現実になった。    犬用の食器を買わなくちゃ。フードはどうすればいいんだろう。トイレは? そもそも家の中のどこで犬を飼えばいいのだろう。疑問は次から次へと湧いてくる。  山本先生に相談すると、何を準備すればいいかとても丁寧に教えてくださった。まずは「クレート」である。家の中で犬が安心して過ご

第3回|犬を飼うにはまず結婚?

 「犬とのめぐり逢いは運と縁だから急がず気長に待っているといいですよ」山本先生からはそう助言されていた。  それでも何もしないではいられないボクは杉山先生にお願いして、佐良先生が主宰するアニマルファンスィアーズクラブ(AFC)を見学させてもらった。AFCは那須塩原の広大な敷地に屋外・屋内のドッグランがいくつもある会員制の施設だ。こういう施設の広さを説明するには東京ドームを単位に数えるのが慣例みたいだが、ドーム30個は簡単に入りそうだ。あくまでボク個人の印象ですけど。  AF

第1回|ルナとボク

 中学から高校にかけてのほんの数年間、家族で犬を飼っていた。マルチーズで名前はルナ。どうしてうちにやってきたか覚えていない。すでに成犬だったので、幼稚園で園長をしていた母の知り合いの誰かが手放して、それを引き取ったのだろう。うちには他にも幼稚園や幼稚園に併設された教会でやっていたバザーの残り物があちこちに転がっていたから。    母も働いていて、幼い弟は頼りにならず、父はその昔、長年飼っていた金魚の鱗についた苔を中性洗剤で洗い流そうとしてすべて殺してしまったという過去を持つ