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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという… もっと読む
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2022年12月の記事一覧

風景のレシピ #34 “本に囲まれて”| nakaban

風景のレシピ #34 “本に囲まれて” 1.ある建物の目立たない一角に仕切られた空間。そのような小部屋を用意する。部屋をストーブの熱でやさしく温める。 2.ソファやチェストなどの家具を並べる。本を積む。書棚にも本を詰める。 3.紙片を並べ、果物を置き、ソファにファブリックを被せる。 4.猫を寝かせる。 5.仕上げに猫の毛を床に振りかける。 さまざまな色を持つ本をあれこれ並べ替えて、できあがり。

風景のレシピ #33 “隠れ家”| nakaban

風景のレシピ 33 “隠れ家” 1.誰にも知られていない、隠された場所を思い浮かべる。   ロールになっていたカーペットをひろげるように、小径を敷く。 2.小径の左右にはリュウゼツランを植える。背後には鳥のために枝の多い樹木をいくつか植える。植物はあっという間に成長する。 3.小径の向こうには石づくりの建築物を置く。吸い込まれるような真っ暗な入り口を開ける。 4.風景に紛れ込ませるように郵便受けを建て、鳥を数羽配置する。   最後に木漏れ日を振りかけて、できあがり。

風景のレシピ #32 “海への坂道”| nakaban

風景のレシピ 32 “海への坂道” 1.静かな朝に霧を流し込み、よく広げる。   目線を下方に向けて、下り坂になるように坂道を敷く。坂道はところどころ横道を分岐させ、階段状になっている場所もある。 2.時折届いて来る波の音を聴きながら、さびれた建物を数軒建てる。 3.風景の中に、僅かな光を得るために、一部の建物を石灰で化粧する。 4.建物や道を草で縁取る。空き地には草をこんもりと茂らせる。草地は塩分を含む霧に長年晒され、硬くこわばっている。 5.仕上げに街灯を一灯建

風景のレシピ #31 “灰色の運河”| nakaban

風景のレシピ 31 “灰色の運河” 1.大きめの橋を置き、その下にしっかりと護岸された運河を通す。   上空に灰色の空気を漂わせる。   橋と運河が次第に灰色に馴染んでいく様子を眺める。 2.建物と樹木を並べ、その風景に奥行きをつくる。 3.橋のアーチの空洞に共鳴する、かすかな気流の音に耳を澄ます。 4.いくつかの街灯を灯して、できあがり。

風景のレシピ #30 “雪見る喫茶店”| nakaban

風景のレシピ 30 “雪見る喫茶店” 1.宵の入りの青い空気を広げる。   その空気に通行人や行き交う車をよく馴染ませる。 2.訪れたことはないが、どこかにありそうな、ただし独特な形状のカフェを用意する。   路上に鉢植えを並べる。店でくつろいでいる客を配置する。 3.風景全体を見渡し、店のデザインの馴染まないところがあれば、そのつど改修する。 4.氷でできた荒目のふるいで雪を降らせ、界隈に少し積もれば、できあがり。

風景のレシピ #29 “オレンジ園”| nakaban

風景のレシピ #29 “オレンジ園” 1.一本の舗装された道を敷き、左右にオレンジの鉢を並べる。 2.道の奥に建物を横たえる。内部にたくさんの苗や園芸器具が眠っている様子を想像する。   ここは冬の間、果樹鉢を取り込む建物(コンサバトリーと呼ばれる)であり、幼苗を育てる温室も併設されている。 3.建物の向こう側に大きめの樹木をいくつか並べ、風に揺らす。 4.鉢植えにオレンジの実を実らせる。   完熟を狙う鳥の視線をスパイスのように振りかけ、できあがり。