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【家、ついて行ってイイですか?】は、焚き火であり、旅の夜である。

テレビ東京の「家ついていってイイですか?」という番組が好きでよく見ています。

この番組の面白いところは、素人が全国ネットのテレビ番組に流れるってわかっていながら、初めて会った人に、自分のもっている「闇の部分」をさらけ出すところですよね。

去年、娘が亡くなったんですよ
余命、1年なんです
子どもにDVをしていたんです

なんでそんなこと話せるん?といったことも、初めて会ったディレクターに話します。

なんでなん?

そう、タイトルの通り「家ついていってイイですか?」は、「なんでなん?」のオンパレード。

「なんでなん?」と言ってても先に進まないので、元教員で子どもの内面を引き出すことを仕事としていた経験から考えるに、「家ついていってイイですか?」は、焚き火中や、旅の夜のように『自己開示できる環境』があるんです。

焚き火を囲んで話をした経験や、海外のゲストハウスで日本人に会って夜に話した経験ってあります?

あんまり多くの方がある経験ではないかもしれませんね。

この二つを経験したことがある方は共感してもらえるかもしれませんが、焚き火の炎を見つめたり、海外のゲストハウスで出会う夜ってのは、自分の内面をさらけ出しやすいような環境が整っているんですよね。

で、「家ついていってイイですか?」も同じように、自分の内面をさらけ出しやすい環境が整っているっていうのが僕の考察です。


そんな不思議な番組「家ついていってイイですか?」は、どうして初めて会った人に自己開示ができるのかという要因について考えました。

ええ、まったく役に立たない話です。



「家ついていってイイですか?」はどんな番組?


「家ついていってイイですか?」がどんな番組かと一応説明しておくと、「終電を迎えた深夜の駅で、道行く人に声をかけ、タクシー代を払う代わりに家についていき、家の様子とともにあなたの話を聞かせてほしいとお願いする素人が主役の番組」です。

無事にオッケーを頂くと、素人とディレクターはタクシーに同乗し、初めてあった人同士で素人の自宅についていくことになります。

男性が女性の素人宅に行くこともよくあって、おいおい大丈夫かよとツッコミたくなる時もあるんですが、まあ、その辺りのテレビの信頼感はやっぱり大きい。
きっと同じような手口でナンパしたりしてる人もいて、騙されてる人とかいるんだろうな…とか想像するんだけど、まあ、それはそれ。

自宅に入ると、ディレクターは素人宅からから気になったものを片っ端から質問していきます。

これ、なんですか?


机の上に無造作に置かれている紙を見ては質問し、冷蔵庫の中を空けさせてもらったり、ディスプレイされている写真について尋ねていく。

なんの変哲もない中年の家だなあと思ってVTRを見ていると、ディレクターの質問から、ふいに衝撃的な言葉が素人から返ってくることがあって、そういったシーンがこの番組の醍醐味だったりします。

去年、娘が亡くなったんですよ
「余命、1年なんです」
「子どもにDVをしていたんです」

その内容は本当に様々ですが、ふいにその人のもつ闇の部分や背景が浮かんでくる瞬間があります。

この人は予めキャストされていた人なのかと疑いたくなるくらい、びっくりするようなドラマ性をもった話がぽつりと語られて、気がついたら番組に引き込まれていく。

その生々しさに、時に僕の頬に涙が流れる場合もあったりします。

まあ、いい番組なわけです。


「家ついていってイイですか?」で、どうして自己開示するの?

ただ、この番組。
どうして、その日初めて出会ったテレビディレクターに、こんな赤裸々な自己開示をするのだろうと不思議になることがあります。

やらせだろ!というネット上の声もチラホラ。


だって想像してみてください。

あなたが初めて会った人に、去年娘が亡くなったことを話すでしょうか?

子どもにDVをしていた
と話せるでしょうか?

自分のこととして置き換えてみてほしいのですが、まず初対面の人に自分のデリケートな部分を話すことはしませんよね。


素「はじめましてー」

ディ「どうもどうも」

素「実は僕、DVをしていまして…」

ディ「ああ、そうですか」

って、おかしいでしょ!

では、なぜ彼らは自己開示するのでしょう?



「家ついていってイイですか?」で、どうして自己開示するの?

「家ついていってイイですか?」は、日常とは全く異なる、特別な環境に立ちます。その特別な環境が人を自己開示させる要因のひとつなのだろうと思うんです。

深夜、テレビ番組のスタッフが、自分の家にくる。
その中で、自分の背景にまつわる質問を次々と受ける。

きっと日常を生きてると、ここまでグイグイと自分について質問を受ける機会はないでしょう。

「今まで誰かと共有したかったモヤモヤや、自分だけで閉ざしていた思いを、開放してみてもいいかもしれない」
そんな風に思うのかもしれません。


日常とは異なる環境が、自分の心を開示させる

そう仮説します。

内なる自分を見つけさせ、目標達成を促進させることを目的の一つとする「コーチング」を仕事としている友人が、自分にとって一番自己開放する時に適している環境は、焚き火をしているときだと言っていました。

そうした非日常感に身を置くことで、それぞれの自分の内なる思いを語り合いやすいといいます。


ああ、なるほど。
その話を聞いて、旅人たちが、宿で出会った日の夜に似ているなと思いました。


バックパッカーをしていた頃に、安宿で日本人と一緒になったことがよくありました。
海外の地で久しぶりに会った日本人は「同じことを好きな仲間意識」があるのか、すぐに近い距離で仲良くなることがありました。

普段だったら話さないようなことを、いつもと異なる環境で、その日たまたま出会った人に、まるで昔からの知り合いだったかのように、内なる思いをポロっと話した経験があります。


自分の弱さだったり、コンプレックスだったり、影となる部分を開示するには勇気が必要ですが、環境さえ整えば、時間や関係性などなくても、ひょいっと飛び越えて開示できるようになることがあるんですよね。

この番組の環境は、焚き火や旅先での宿と似ているんだろうなと、思えます。


マスクを15年間とっていない。
怪我をして諦めていた夢をもう一度目指そうか迷っている
自分のしてしまった過ちを背負って生きている


吐き出す言葉は本当に様々ですが、それぞれがその日初めて出会ったディレクターに、カメラを向けられ、内なる思いを語る姿は、グイグイと引き込まれていきます。
そこには嘘偽りを感じないし、ようやく言えたというような安心感さえ感じます。

いい番組だなと、改めて思います。


大人になって、自己開示をできる場面って、どんどん減っていきますよね。
思春期の頃のように、「あの子のこと、好きなんだよ」なんて、友人に言うことなんてできませんから。

そもそも誰かと二人で会うことも少なくなってきているし、深い話を共有できるような関係性も減ってきているように思います。

だれかと深い部分で話がしたい。
この番組を見ていると、いつもそう思うんですね。

とてもいい番組です。

「家、ついて行ってイイですか?」から、そんなことを考えました。

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