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第五話 ギター弾き

 
 「居るよ!ギター持ってる人。」
 煌は、伊吹に答えた。
 
 「そうですか、ありがとうございます。」
 伊吹は律儀にお辞儀をしながら言い、
人々が集う、その広場をまた、見回した。
 
 「案内しようか?」
 煌はそう伝えるが、
 
 「いえ、結構です。自分で探しますので。」
 伊吹はそれを拒否し、
目線の赴くまま歩き出した。

 
 煌も、伊吹の方向へと歩き出した。
 
 二人の距離は一定のまま、歩き続けた。
 
 「音楽、好きなの?」
 煌が言うが、
 
 伊吹の返答は無かった。
 
 無言のまま歩き続ける伊吹。
 
 暫く歩くと、
ようやくギターの音が聞こえ始めた。
伊吹は、音のする方へ駆け出した。
 人集りが見え、その人集りを半ば強引に手で掻き分けた。

 人集りの中には、ギター弾きが居た。
アコースティックギターを弾きながら、ヘラヘラと笑うおじさんが。
 
 おじさんは、ヘラヘラと笑いながら、
歌う事もせず、
コードでは無い何かを生み出していた。
 
 伊吹は力無く膝を折り、
また力無く、手を地面に着いた。
全然、想像と違う。ロックじゃない。
なんだこれ。
 
 「ギター、持ってたでしょ?」
煌は、伊吹の肩に手を置きながら言った。
 
 伊吹は、絶望していた。

ユートピアの音楽は、これなのか、と。
もっと、想像を絶するものだと思っていたのに、と、
伊吹は喪失感に打ちひしがれた。
 
 「君の求めるものは、これじゃ無いんだろ?」声を弾ませ、煌は言った。
 
 その言葉が、伊吹の絶望を吹き飛ばした。
 これじゃ無いんだろ。
その言い方、もしや、
他にもギター弾きは存在するのか!
 
 まるで、救いの言葉でも聞けた様な面持ちで、
伊吹は、その発言者の煌を見上げた。
 
 煌は伊吹の目を見て言った。
 「では行こう、一緒に旅に出よう!」
 
 伊吹は、煌に初めての笑顔を見せた。


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