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髪の色は移りにけりな いたづらに

髪の色は 移りにけりな いたづらに
我が身世にふる ながめせしまに

《社会人女性の歌》
先月染めたばかりの髪がもう色が落ちて明るくなってしまったなあ。この憂鬱な梅雨(長雨=ながめ)の間に。

《男子大学生の歌》
黒髪だったあの娘はすっかり雰囲気が変わってしまったなあ。なかなかアプローチ出来ず、物思いにふけっている(=ながめる)間に。

花の色は移りにけりな いたづらに
我が身世にふる ながめせしまに
(小野小町「古今集」「百人一首」)

私が和歌を習ってまず感動したのは「掛詞(かけことば)」です。
「掛詞」とは、例えば"まつ"と書いて「待つ」という意味と「松」という意味の両方を持たせる修辞法のこと。

小野小町の歌の「ながめ」には、何日も続く長い雨を意味する「長雨」と物思いにふける意味の「眺め」が掛かっています。「ふる」も同様で、雨が降るの「降る」と時が経つの「経る」が掛けられ、それぞれ、「長雨が降る間に」と「月日を経て物思いにふけっている間に」という意味が込められています。

また、出だしの"花の色は"の「花」は、植物の花(古典文学ではしばしば桜を意味する)と、女性の容貌を例えて言う花が重ねられています。

以上を合わせるとこの和歌から、世界三大美女ともいわれた小野小町が、雨の中で花が散ってゆく景色をぼうっと眺めながら、年を取るにつれて自身が衰えていくのを憂いている様子が浮かぶでしょう。

その様子が、梅雨の間にすっかり傷んでしまった髪を眺めてため息をついている自分と重なったので、冒頭の句に現代風アレンジしてみました。
また「ながめ=物思いにふける」バージョンとして思い浮かんだのは恋に破れた男子大学生。
4月に入学したばかりの女子大学生って、夏になると髪を染めたりメイクをして変身しますよね。(そして先輩とくっつく)
密かに思いを寄せていた同級生たちはショックを受けるわけです。(二つの意味で)

一首で二度美味しい拙歌を召し上がれ。

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