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女とかわいい

「かわいい」

ああ、またこれね。
いつからだろうか、下心のあるかわいいばかり耳にするようになったのは。

中学は吹奏楽部、高校は女子校。顔は普通。成績も普通。全て普通。そんな私はいつも女の子たちに囲まれて生きてきた。女の子たちは『かわいい』という言葉が大好きだ。美しい顔立ちの生徒に対してかわいいと言うのはもちろん、ちょっと年老いたゆるキャラみたいなおじさん教師に対してもかわいいと言う。筆箱を変えたらかわいい。髪型を変えたらかわいい。ちょっと痩せたらかわいい。私の周りはいつもかわいいという言葉で溢れていた。だから、私は別にかわいいという言葉は嫌いではなかった。耳にして不快な気持ちになるものではなかったし、彼女たちのかわいいには特に深い意味が込められているように感じなかったからだ。要するに私にとってかわいいという言葉は大した言葉ではなかった。そんな私は高校を卒業し、大学に通い始めた。すると私にとってかわいいという言葉は恐ろしいものになっていった。

大学3年生の秋。友達に勧められて何となく始めたマッチングアプリ。私はこれにどハマりしていた。マッチングアプリの世界では女という性別は武器になる。無料で始めることができる時点で優遇されてるし、顔が地味でも女というだけで男が群がってくる。アプリの世界では女の方が優位に立っている。それもあって、あまり男慣れしていなかった私にとってアプリの世界は新鮮で夢の世界のようだった。マッチした相手と適当にトークを交わし、会いたいと言われたら会う。それの繰り返し。アプリに対する警戒心が薄れた頃、私は初対面の男と飲みに行くことも増えてきた。初対面の相手と話す話題といったら相手の仕事の話、趣味の話、今までの恋愛話、大体そんな感じだ。そして話が盛り上がっていくと、
『きみかわいいね。』
男たちはこの言葉を呟き始める。
このかわいいは私が今まで耳にしてきたものとは異なる。女たちが呟くかわいいとは別物だ。彼女たちのかわいいのように無意味なものでもないしかといって彼女たちのかわいいと比べて価値のあるものでもない。男たちが呟くかわいいには裏がある、下心があるのだ。彼らは褒める代わりに行為を求めてくる。飲みの場にいる大体の男たちはそういう考えを持っていることが多い。飲みの場にいる私はまるでオークションに出品された物でしかない。この物を手に入れるために買い手は値を叫ぶ代わりにかわいいと叫ぶ。そんな感じだ。

今日も私は飲みの席という名のオークション会場にいる。案の定、値ではなくかわいいが飛び交う。だから私は今日も男からのかわいいという言葉を仕方なく受け取り「褒めてくれてありがとね、お礼に私の身体をあげる」と心の中で呟き、初対面の男に股を開くのだ。

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