他人の幸せのそばで


菅田将暉と小松菜奈が結婚を発表したあの日、私たちはお別れをした。
あんな素敵な2人が結婚を決意したという幸せなニュースなはずなのに、なんだか心から祝福できなかったし、そういえば菅田将暉と小松菜奈が共演した映画を彼と一緒に見たよなとかどうでも良いことも思い出してしまった。
あの映画を見たのはたしか付き合う前だった気がする。私たちの出会いは今流行りのマッチングアプリ。2人とも小松菜奈が好きだったこともあり一緒に映画を見ようという話になった。私たちは夜ご飯をちょっと早めに食べてその後映画を見に行って、あの日は隣にいるだけでドキドキして、心臓が止まりそうだった。
その後何度かデートを重ねて私たちは付き合うことになった。最寄りの駅からちょっと離れた公園で告白されてその後ちょっと一緒に夜道を歩いて手を繋いだ。

付き合い始めてからはお互いの家を行き来したり、ちょっと遠くへドライブをしたりと彼と付き合ってからは毎日が楽しかった。
彼の家へ遊びに行って二人で買い出しをした帰りに、私はふとあの日一緒に見た映画を思い出した。「あの映画みたいに色々あっても結局は強く惹かれ合うそういう関係になれるといいな」とか笑いながら言う私の手をぎゅっと握って、「たぶん大丈夫や、運命の糸で繋がってるんちゃう?」とかくさいセリフを言ってくれたっけ。あの時は本当にそうなれると思ってたし、君のその言葉をずっと信じてた。でもそんな幸せな時間は長くは続かなくて、いつの間にか喧嘩ばかりする関係になっていた。別に彼のことを嫌いになったわけじゃない。けど何となく価値観が合わなくなっていた。スキンシップを取りたい私。嫌がる彼。自分の趣味を一緒に楽しんでほしい彼。そんなことよりただそばにいるだけで幸せを感じる私。恋人に求める条件が違った私たちはどんどんすれ違っていった。別れた方がいい。そんなことは自分が1番わかってた。けど中々言い出せずに時間だけが過ぎていった。そんな態度に彼も薄々気付いていたのだろう。
そしてとうとうこの日がやってきた。
その夜突然彼から電話がかかってきた。
「今週末の釣りなんやけどさ。」
「なんかうちらサッカー観戦したり、釣りばっかりで友達みたいだね。」
「それどう言う意味なん?」
「いや別に。」
面倒くさい女だな。思ったことをはっきり言わずに。そう思ってんだろうな。けどこんな言葉を自分から言ったくせにこれ以上嫌われるのが怖くて何も言えなかった。
「あのさもう別れよ。俺らずっと一緒にいてもメリットないやろ。喧嘩ばっかりやし。」
「え、何言ってるの?」
「いやだから別れよ言うてる。」
「そんなのわかってるよ。けど嫌。別れたくない。」
「たぶんそれは執着やで?俺のこと好きだから別れたくないわけではないやろ?」
彼の言葉が心にグサグサ刺さる。全て見透かされていた。私のずるい考えや寂しがり屋なところも。そうやってすぐに私の事を理解してくれる彼が大好きだったけど今は本当に嫌い。
「あのさ、こんな時に聞くことじゃないと思うけど、運命の糸ってあるのかな?」
「なんでそんなこと聞くん?まああるんちゃう?俺らの間にはなさそうやけど」
彼のそのはっきりした物言いに心がぎゅーっと苦しくなった。もう1度運命の糸で繋がってるって言って欲しかった。あの時は言ってくれたのにねとか言いたかった。けど何そんなこと覚えてんの?とか言われて、からかわれそうな気もして言えなかった。
「そうだね、私たちの間には無さそう。別れよっか。」
「うん、じゃあ。」
「待って。直接会ってちゃんと話したい。」
「そこまでする必要もないと思うけど。直接会ったところで答えは出てる気するわ」
「そっか。わかった。今までありがとう。」
「うん。まあこれからも頑張ってください。」
通話終了の音が部屋に鳴り響く。
画面が暗くなった携帯と最後まで縋りついて疲れ切った私だけが部屋に残った。
しばらくぼーっとしてると、携帯が光った。
「菅田将暉と小松菜奈結婚したね!!」
友達からのLINEだった。
本当に嬉しいニュースだった。でもそれと同時に私たちとは真反対の幸せすぎる2人の報告に羨ましさを感じてしまった。

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