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新型コロナウイルス感染禍での差別や偏見に関するインタビューに答えました.

2020年7月20日夕方に放送された,NBCラジオ「ザ・チャージ」にて,インタビューに応じた際の内容をまとめました.「感染を自業自得だと思う」とする人が日本で他国よりも多い,という研究結果を報道した記事をふまえて依頼があったものです.以下に一問一答形式でまとめておきます.

アナウンサー(以下,アナ):この調査は、3月〜4月に、日本、アメリカ、イギリス、イタリア、中国の5カ国、それぞれの国の400人〜500人の一般市民を対象にインターネットで行われました。
①「新型コロナウィルスに感染した人がいたとしたら、それは本人のせいだと思う」という質問に、「全くそう思わない」「あまりそう思わない」「どちらかといえばそう思わない」「どちらかといえばそう思う」「ややそう思う」「非常にそう思う」の6つから選ぶもので、「どちらかといえば〜」から「非常に〜」までを含めて、「思う」と答えたのは、アメリカでは計4.8%、イギリスで計3.5%。これに対して日本は15.3%で、「感染は本人のせい」だと思う人は、アメリカの3倍以上、イギリスの4倍以上になりました。(イタリア12.3%、中国9.5%)
②「感染する人は自業自得だと思う」について「思う」と答えたのは、日本が11.5%、アメリカが1.0%、イギリス1.5%、イタリア2,5%、中国4.8%。自業自得と思う人はアメリカの10倍以上という結果です。三浦先生はこの結果をどう分析されていますか?

三浦:日本でも「そう思わない」と答えた人が大多数ではありますし,単純に何倍だから,というものでもありませんが,他の国と比べると「そう思う」という回答が目立って多いことには「日本ならでは」の傾向があるのかもしれないと考えざるを得ません.ただし,こうして取材を受ける程度にはセンセーショナルなデータですので,なぜこのような結果が得られたのかは慎重に分析中です.そのため,今はお答えすることが難しいです.

アナ:日本では感染がわかった芸能人などが謝罪をすることが多いですが、他の国では?

三浦:謝罪の必要がある相手に謝る行為は世界中どこでも見られますが,直接の当事者以外の人々,つまり社会に対して「ご迷惑をおかけしました」と謝罪することはあまりないと思います.しかも,そもそも謝罪というのは罪を謝る行為なわけですから,感染は罪だと認識されていることになりますね.

アナ:長崎では、長崎大学病院とみなとメディカルセンターで医療従事者の感染が相次ぐ中で、病院関係者やその家族が、偏見や嫌がらせを受けていて、長崎大学病院では、これまでに数百件の事例が報告されているそうです。感染した人を責めてしまう心理的なメカニズムについて解説して頂けますか?

三浦:先ほども「感染は罪だと認識されている」と申し上げましたが,感染者はウイルスの被害者なのですが,それと同時に,周囲の人々の感染可能性を高める加害者だとも受け止められているのだと思います.まず,まだ感染は稀なことなので,そんな運の悪い目に遭った被害者には何か落ち度があったのではないか,落ち度なく生きていれば被害に遭わないはずだ,という考えに結びつきやすいです.また,加害者だという認識もあるようなら,悪なのだからいくら叩いてもかまわない,叩かれるだけの理由があるのだから甘んじて受けろ,という考えも生じやすいのではないでしょうか.

アナ:「被害者が責められる」というのは、日本ではよく見受けられることなのでしょうか?

三浦:例えば,通り魔被害にあった女性が『深夜に出歩く方が悪い』などと責められる事例がありますよね.あのように「悪いことがあったのはその人が悪いせい」と思う傾向を日米で比較する研究をしていますが,常に日本の方がその傾向が強いです。これもまだ原因を探っている途上なのですが,他の国と比べると,よく見受けられると言えると思います.

アナ:佐賀県が中傷の有無について聞き取り調査をしたところ、感染者とは別の自治体に住んでいる家族が「感染者はあなたの家族だろう」と詰問されたり、小学生から「ここはコロナの家」など中傷されたりするケースが確認されました。佐賀など地方都市では、人間関係が近いという狭い地域性から一部で個人の特定につながっていると思われます。地方都市ならではの状況についてはどう思われますか?

三浦:人間関係が近い緊密なコミュニティで,互いが特定されうるような環境だからこそ,いたわり合うことができないものだろうか,と思います.心理的には寄り添いながら,物理的には避けるというのは,むしろ地方都市だからこそできることではないでしょうか.感染拡大を防ぐために,物理的に避けることは必要です.しかし,なぜ責め立てることが必要なのでしょうか.後には禍根しか残らないのではないですか.

アナ:メリットとデメリットについて考えていきますが、日本人の「規則を守る」「自粛に応じる」などの意識が、感染予防に役立つというメリットもありますね?

三浦:そうですね.日本人は真面目ですから.ただ,それが「規則を守らない」「自粛に応じない」人に対する怒りにつながり,嫌がらせにつながるのかもしれません.真面目さでもなんでもそうですが,人のもつ何らかの特質は,いいことにもつながるし,悪いことにもつながる,諸刃の剣です.

アナ:行き過ぎた誹謗中傷など、不寛容であることのデメリットは何でしょう?

三浦:感染したとわかると攻撃を受けるなど,感染した以上の社会的なデメリットを被る可能性があるなら,誰もそんなリスクは負いたくありません.すると,感染してもそれを隠そうとするでしょう。感染抑止には逆効果です.また,感染のリスクを負いながら拡大防止に尽力している方々が無理解に耐えかねて仕事を離れてしまえば,医療崩壊につながります.

アナ:最後にラジオをお聴きの皆さんに、アドバイスをお願いします。

三浦:感染者など,たまたま今「コロナ」に関わっている人々を自分の近しい世界から追い出すような行為によって,皆さん自身が感染するかもしれないという不安は振り払えるかもしれません.しかし,それは一時的なものにすぎません.一度分断されたコミュニティはなかなか元には戻りません.悪いものを悪いと言って何が悪い,私は正義の鉄槌を下しているのだ,とおっしゃるかもしれませんが,長期的に見ればそちらの方が確実に社会を蝕む行為です.

最後に…

5か国とはいえワンショットの調査の,しかも度数分布だけでどれだけ発言し続けるのか,と苦々しく思っておられる同業者もいらっしゃることでしょう.もちろん私たちも,出すべきかどうかは随分逡巡しました.しかし,思い切って公表したことは(私たちの日常の研究活動へのリアクションと比べれば)非常に大きな反響を呼び,こうした災禍に際する社会心理をどう考えるべきか,守るべき方々を守るためにはどうしたらよいか,という問題意識をある程度は呼び覚ますことができたのではないかと思います.

伝えなければならないと信じることは,何度でもずっと,機会をいただくたびに,誠実に伝えていこうと思います.