マガジンのカバー画像

タンブルウィード

31
ーあらすじー これは道草の物語。露木陽菜(ツユキヒナ)は地元山形を離れ、仙台に引っ越してきて三年目。自宅とアルバイト先を行き来するだけの淡々とした日々を過ごしていた。ある日、誤…
運営しているクリエイター

#喫茶

玄関先で一通の手紙を見つめながら陽菜は立ち尽くしていた。 どこか遠くの国の海辺の街が描かれた封筒の宛名の欄には初めて字を覚えた子供のような筆跡で「小峰まゆ」とある。 自分宛ではない手紙が何故自室のポストに投函されていたのか陽菜は封筒の住所欄へと目を移した。 陽菜の住むアパートは二階建てでワンフロアに七部屋が並列している。陽菜の住む部屋の番号は101だったが、手紙の住所には107と書かれていた。 しかしながら陽菜も最初は筆跡の癖も相まってその数字が1なのか7なのか少し躊躇ってし

「クボさんって料理が好きなんですか?」 コンビニであらかじめ買っておいたお茶をカップに移し替えながら陽菜はクボに話しかけた。 「実家が八百屋なんだ。そういう事も関係してるのかもしれん。」 クボは部屋の丸テーブルをよそに窓際の壁にもたれかかり、外の静寂を見つめながら答えた。 「八百屋。ですか。。。」 料理と八百屋がどういった理由で関係しているのか分からなかった。 陽菜はカップのお茶を自分と相手側に寄せて丸テーブルの上に置くと床に腰を下ろした。 「わたし、なんだかさっきのパスタの

一日の営業が終わりコラフを出て歩き出した陽菜に、横からぬっと現れたクボが、おぅ。と声をかけた。手にはうまい棒が握られている。 ゆっくりと歩みを進める陽菜のそばにクボは体を寄せ一緒に歩き出すと、一本どうだ?とタバコを差し出すような仕草でうまい棒を陽菜に向けた。 クボが差し出したうまい棒を陽菜は見つめる。たこ焼き味。。納豆味、売ってなかったのかな。。 喉が少し渇いていたことと今はたこ焼きな気分ではなかったので陽菜は少し微笑みながら丁重にクボからのうまい棒をお断りした。 夜の仙台は

言い逃げをするクボを見つめた後、陽菜はゴエモンに再び視線を戻した。 ゴエモン、まだ、食べていない。。寝てるのだろうか。。 ゴエモンの卓にナポリタンが到着してから既に10分は経過していた。ナポリタンからもうもうと立ち上げていた湯気が収まる頃、ゴエモンはすぅっと鼻から空気を吸い込んだ後カッと目を見開いた。 陽菜が再びゴエモンに目をやった頃合には彼はまるで待て!の指示を解かれた犬のように一心不乱にナポリタンを食べていた。 もちもちとした麺と絡み合う具材をフォークという刀を使い戦う

コラフの古めかしい店舗も陽菜にとっては水無月コウタロウを想う故に輝いて見え、この場所に来る度に心が少し浮き足だつのであった。 「よ!」コラフの入り口を開けた陽菜の横からドッと大きな声が響いた。突然のことに思わずひゃっという声が漏れ体をよける陽菜。 「新人。昨夜はカレーをたべたな?」先ほどまで安堵していた陽菜の心はやつきばやな一言に一瞬にして崩れ落ち思わず衣服を嗅いでしまった。 匂いますか。という陽菜の問いに対し彼女はグララァと豪快に笑いながら厨房に進んでいった。何がそんなに面