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タンブルウィード

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ーあらすじー これは道草の物語。露木陽菜(ツユキヒナ)は地元山形を離れ、仙台に引っ越してきて三年目。自宅とアルバイト先を行き来するだけの淡々とした日々を過ごしていた。ある日、誤…
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2020年4月の記事一覧

「クボさんって料理が好きなんですか?」 コンビニであらかじめ買っておいたお茶をカップに移し替えながら陽菜はクボに話しかけた。 「実家が八百屋なんだ。そういう事も関係してるのかもしれん。」 クボは部屋の丸テーブルをよそに窓際の壁にもたれかかり、外の静寂を見つめながら答えた。 「八百屋。ですか。。。」 料理と八百屋がどういった理由で関係しているのか分からなかった。 陽菜はカップのお茶を自分と相手側に寄せて丸テーブルの上に置くと床に腰を下ろした。 「わたし、なんだかさっきのパスタの

一日の営業が終わりコラフを出て歩き出した陽菜に、横からぬっと現れたクボが、おぅ。と声をかけた。手にはうまい棒が握られている。 ゆっくりと歩みを進める陽菜のそばにクボは体を寄せ一緒に歩き出すと、一本どうだ?とタバコを差し出すような仕草でうまい棒を陽菜に向けた。 クボが差し出したうまい棒を陽菜は見つめる。たこ焼き味。。納豆味、売ってなかったのかな。。 喉が少し渇いていたことと今はたこ焼きな気分ではなかったので陽菜は少し微笑みながら丁重にクボからのうまい棒をお断りした。 夜の仙台は

言い逃げをするクボを見つめた後、陽菜はゴエモンに再び視線を戻した。 ゴエモン、まだ、食べていない。。寝てるのだろうか。。 ゴエモンの卓にナポリタンが到着してから既に10分は経過していた。ナポリタンからもうもうと立ち上げていた湯気が収まる頃、ゴエモンはすぅっと鼻から空気を吸い込んだ後カッと目を見開いた。 陽菜が再びゴエモンに目をやった頃合には彼はまるで待て!の指示を解かれた犬のように一心不乱にナポリタンを食べていた。 もちもちとした麺と絡み合う具材をフォークという刀を使い戦う

コラフの古めかしい店舗も陽菜にとっては水無月コウタロウを想う故に輝いて見え、この場所に来る度に心が少し浮き足だつのであった。 「よ!」コラフの入り口を開けた陽菜の横からドッと大きな声が響いた。突然のことに思わずひゃっという声が漏れ体をよける陽菜。 「新人。昨夜はカレーをたべたな?」先ほどまで安堵していた陽菜の心はやつきばやな一言に一瞬にして崩れ落ち思わず衣服を嗅いでしまった。 匂いますか。という陽菜の問いに対し彼女はグララァと豪快に笑いながら厨房に進んでいった。何がそんなに面

「イラシャイマッセー」鼻にかかった日本語に無いイントネーションの声に陽菜はレジに顔を向ける。インド人・・・ 仙台には一年前から急に外国からの留学生が増えた気がするが、近所のこのコンビニでもアルバイトとして雇用をし始めたらしい。 抑揚が異なる日本語を聴いただけで異国情緒を感じた陽菜は、もう一度そのインド人を流し目に見つめつつ、カゴを手に取った。 新発売のシールが貼られた海鮮サラダとシーチキンのおにぎりをカゴに投げ入れ早々にレジに向かう。会計を済ませお釣りを受け取る時にもう一度イ

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露木陽菜(ツユキ ヒナ)  彼女は今、木漏れ日の射す自室のベッドに横たわり天井を見つめていた。 肌を刺すような寒さは徐々に木々の瑞々しい息吹を纏いながら暖かなそよ風に変わる。 宮城県仙台市、東北一の都市と言われたこの街の春、陽菜は天井の一点を見つめていた。 「わたしは、なにをすればいいのだろう。」 その言葉を発するでもなく、しかし考えるでもなく陽菜は、只、思う。 ひたすらに見つめ続けていた真っ青な淀みない天井はまるで湖の様で ぐるぐると頭の中を巡らせた思いは、結果、よくも分