見出し画像

クリープハイプ「夜にしがみついて、朝で溶かして」アルバムライナーノーツ

クリープハイプの新しいアルバムが届いた。消えてしまいたい夜に、このアルバムは本当に効く。
音の表現や効果のことは私よりももっと上手に表現できる人がきっといるはずなので、私は私の感じたことを素直に書くことにした。
これから書くのは、ライナーノーツというよりも夜中に書いたラブレターのような熱を持った日記だ。

01 料理
この曲を聴くたび、初めてこの曲のイントロを聴いたときの夜を思い出す。
SpotifyのRelease Radarに、先行配信されたクリープハイプの曲がきているじゃないか!新しいアルバムアートだ!どんな曲だろう?楽しみ!と思って再生ボタンを押した。金曜日に日付が変わってからのことだ。イントロが始まる。
「クリープのギターだ…」気付いたら泣いていた。号泣していた。クリープハイプの新しい曲が聴けるのが嬉しくてたまらなかった。なんてクリープハイプらしい音なんだろう。私が思っていたよりもずっと、クリープハイプだ。だからもっと嬉しかった。泣き終わったらお腹がグーっと鳴った。何か食べようかと思ったけど、もう夜も遅いし眠いし横になろう、と思った。2021年の12月には寒波が来ていた。

02 ポリコ
クリープハイプの曲でベースから始まる曲を聴くのって久しぶりだな、と率直に思った。この曲と出会ってから、何かが足りないな、と思ったとき、自動的にこの曲が頭の中を駆け巡るようになった。料理の次に聴くからなのか、この曲をじっくり聴くと排水溝を掃除しているときのような気分になる。
"優しくしたいだけなのにできない"と"優しくされたいだけなのにされない"が対になっているのがシンプルに良い。こういうやりきれない歌詞を書いてくれるところが120%好き。
今度排水溝の掃除をするときに流してみようと思う。汚れが完全に綺麗になることはなくてもこれでいいかとなんとなくでも思えるはず。

03 二人の間
意識をして聴いていないとさらっと聴けてしまう曲。リズム感は独特なのに聴いていると気持ちがいいからかもしれない。
この曲を聴くと仲の良い友達とカフェのはしごをして深い話をしているときのことを思い出す。生きるとか死ぬとか、この先どうなる?どうする?とか、自分たちの力だけではどうしようもない、規模の大きな話をしているときのことを思い出す。二人で話しているとき、確かにそこには"二人の間"がある。"音以上気持ち未満の ちょうど良いその相槌の あ と うん の隙間にある ちょうど良いそのうまい空気"がある。私はその"間"が好きだ。
いつも感じていたことを的確な言葉で表現をしてくれて、とても嬉しい。あ、そうそう、この感じ!という微妙なニュアンスを表現してくれるのが、クリープハイプというバンドなのだと思っている。

04 四季
拓さんのドラムの音から始まる曲。"年中無休で生きてるから"という歌い出しの表現が、苦労を重ねて生きている人達に等しく優しく降り注ぐ。ギターのふんわりした雰囲気は春に浮かれてる感じを表している気がする。秋の表現として"謝ってばかりでごめんね"と歌われていて、私のことだ、と思った。私は毎年秋口から調子が悪くなる。自分のダメな部分を素直に乗せて聴けるのが音楽の素敵なところだ。まあ歌詞に自分を重ねまくっている自分もなんだか小さいのかもな、とも少し思うけど。春に何があったんだろうかと思うけど、少しエロいことしか描かれていないのが良い。キャッチーでカラフルな音使いだけど、流れの一つとして聴けてしまう。この曲のカオナシさんのコーラスが特に好き。

05 愛す
"逆にもうブスとしか言えないくらい愛しい"という歌い出しの、"尾崎世界観"の書く歌詞特有のパワーワードが満月の月明かりみたいに光っている曲。一度だけ見たミュージックビデオの癖が強すぎて言葉を失ったことを思い出す。ホーンセクションがあるおかげでしんみりなりすぎない。確か高速バスは時間通りに来るよなあ、と腑に落ちる。どうにも素直になれない人のためにある歌。好きな人のことを好きなうちに大好きだよと言いたいけど、やっぱり恥ずかしいから今度にしておこうってなる。でも、いや、やっぱり次会ったらちゃんと言おう。次がないかもしれないから。次カラオケに行ったら必ず歌いたい。もう数年くらい行ってないけど。大好きな一曲です。

06 しょうもな
尾崎さんと一対一で、しかも鳥貴族みたいな客と客の間が近い、ザワザワとした場所で少し大きめの声で会話しているみたいな曲。イントロの少しだらしないふわっとした優しいギターの音色、そしてその後のキリッとした鋭利なギターリフ、好きです。もしかしたらクリープハイプは詞ではなく音で評価されたいのかな、とふと思った。クリープハイプ歴の長い人が聴くと、歌詞の中の"あたし"が過去に歌われてきた曲の中の主人公のようにも思えるかもしれない、とも思った。顔の前でバチンと手を叩かれてハッとするみたいな感覚の曲だと思います。クリープハイプのことが大好きな人にも、ほどほどに好きな人にもね。

07 一生に一度愛してるよ
短編アニメーションの主題歌みたいなアレンジの曲。歌詞をしっかり読むまで何を歌っているかわからなかった。"出会ったあの日は103です"で気付いた。これは私たち側の歌だ。初期のほうが好きなバンドももちろんあるけど、クリープハイプは別だよ。いつも私のことを歌ってくれている、と私だけが勝手に思っている。思うだけで良いのだ、思っていることが言動に繋がっていくから。まあそれはいいとして、クリープハイプの曲はちゃんと奥まで刺さっています。死ぬまで一生愛します、多分。

08 ニガツノナミダ
これぞタイアップ!という印象の曲だったのが、何度も何度もアルバムをリピートして聴いていたら「あれ?これって一番クリープハイプらしい音作りじゃないか?」と思った曲。尺も短くて誰かにクリープハイプをおすすめするときに聴いてもらいやすい気がする。普段、毎日穴を作ることなく短歌を詠んでいる身として、"締切に抱きしめられて 制約にくるまって眠る"という歌詞がダイレクトに響きました。そうそう、そうなんだよ…とつい語彙がなくなってしまう。

09 ナイトオンザプラネット
初めて聴いたときから「ああ、クリープハイプをずっと好きでよかった」と心の底から思った曲。特徴的で、でもクリープハイプらしいギターから始まる。アルバムタイトルになっている一節がとにかく優しくて、そしてその優しさが誰にでも伝わるような温度になっているところが本当に愛おしい。尾崎さんの書く歌詞には感情がダイレクトに見えて、聴いているこちら側も心が痛くなるような曲もたくさんあるけれど、この曲はその逆だ。心がじんわりあたたかくなって、なのにぎゅっと締め付けられて、泣きたくなる。

10 しらす
箸休めみたいなカオナシさんの曲。今までに聴いたことのない風味の曲調で、びっくりさせられた。カオナシさんの曲は概念的でとても良い。聴いた後になんとも言えない不思議な感覚になる。ちなみに、インスタライブでカオナシさんがこの曲を演奏しているのを目撃したけれど、踏むタイプの鈴なんてあるのだな…とまたびっくりした。

11 なんか出てきちゃってる
曲だけ聴いていると現代のアレンジ。でも蓋を開けてみれば、中身はふつふつと煮込まれて煮込まれて、底までドロドロで鍋が焦げついてしまっている感じの曲。聴き込めば聴き込むほど味が出る。台詞は歌詞カードに記載されていないのがアドリブ感があって良い。クリープハイプのネジが偶然ゆるんじゃったら、こんな感じの出来上がりになるのでしょうか?

12 キケンナアソビ
ライブで聴くのが楽しみな曲の一つ。首から下は基本的に誰でも同じ構造をしている。いつも大体化粧をしたままで、シャワーを浴びるから匂いが残るのも首から上だけ。そこまで描く?と思うほどリアルで怖くなる。男と女って、混ぜるとこんなに不穏なんだな、と思わせられる。二人きりでいる間だけは、少しでもこちらを見てくれているんじゃないかと思ってしまう気持ちが透けて見えて、やっぱり切ない。

13 モノマネ
"シャンプーの泡 頭に載せて ふざけるから 楽しくなってよそ見するから ほらリンス忘れてる それから体 洗い流せば おんなじ匂い 嬉しくなって でもその分 小さくなる石鹸"
私はこの歌い出しに泣きました。尾崎さんは生活の中の小さな場面を切り取るのが本当に上手い。「やったことある!わかる!同じ匂いになるの、嬉しいんだよな、一夜だけでもなあ…」と思いながら聴いてたのに、めちゃくちゃ泣かされました。風呂場で。モノマネしてたのは、私だったんですね。酷いモノマネですね。
"どこにでもある毎日が 今もどこかで続いてるような 気がして"の部分でまた泣けてくる。そのモノマネ、過去の話だったんですか…となる。"探して"るのが悲しい。なのに、こんなにあたたかいアレンジなのがクリープハイプらしい。

14 幽霊失格
解釈の難しい一曲。でもとてもあたたかみがある曲。自分のことを"犬"と例えているのが好き。情報量は少ないけれど、相手のことを大好きな気持ちだけ浮き彫りにさせるというのは、書き手からするとストレートに好きだ!愛してる!と書くよりも、難しい表現なのではないでしょうか。
"悲しいことも 苦しいことも 怖いどころか嬉しいんだよ"の一節に、この曲のすべてが詰め込まれている気がします。

15 こんなに悲しいのに腹が減る
アルバムのラストソングにふさわしい曲。芯の芯まで冷えていた心に「まあ仕方ないし一緒に行こうか」と語りかけてくるような、なんとも表現し難いこういう一曲がアルバムの最後に響くから、クリープハイプのことを嫌いになれません。
"どんなに苦しくても腹が減る" "生きたい生きたい死ぬほど生きたい"の部分で、人間って極限まで追い詰められて悲しいとか辛い、その感情から逃げたい、死にたいとまで思っていても、根源的なところで"生きたい"と思っているよな。私もずっと、こんなふうに思っているよな。繋ぎ止めてくれていて、ありがとう。心の底からそう思った。最初から最後までそっとそばにいてくれるようなアレンジで、この曲がこの曲順にあることによって一からもう一度このアルバムを聴きたくなる。

そしてまた私は 01 料理 に戻って、アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」を聴くのであった。

----追記----

クリープハイプの皆様、ならびに関係者の皆様へ。
このnoteの企画を立ててくださったおかげで、今回リリースされたアルバムを何度も何度も繰り返して聴くことができました。普段は頭の中に置いておくような感想を一つずつ書くのが本当に楽しくて、時に難しくて、なかなかうまく表現できない曲もありました。でも何度も繰り返して聴くと見えてくる情景もありました。きっと聴くタイミングが違えば、もっと違う感想になるかもしれません。そう考えると、このアルバムは本当にスルメです。
あらためて、こんなにも深く長くクリープハイプのことを考える時間を私に与えてくれたこと、本当に感謝します。ありがとうございます。
そして、今までもこれからもきっと、ずっとずっと大好きです。
関西より愛を込めて。大寒波も来ているとのことなので、体には気をつけてくださいね。

#クリープハイプ  #ことばのおべんきょう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?