見出し画像

#51 現代の実践的内部監査(七訂版)

"現代の実践的内部監査(七訂版)"を読了。
内部監査についてもう少し理解を深めるためにタイトルに惹かれて本書をチョイスしてみた。
この本は前回読んだ本と比べると、より体系的/時系列が整理されている内容で解像度がさらに増した感覚がある。
実際の経営経験がある著者だからこその観点でまとめ上げている内容で読み応えがあって面白かった!

特に印象に残ったのは下記の3点。
・comply or explainの考え方
・監査役は日本特有のもので、基本的に外国には業務監査をする機関が存在しない。「auditor」という呼称から外国投資家が連想するのは外部監査人と内部監査人であるため、次のような誤解が生まれている
・内部監査人の職務とは、立派な監査報告書を提出することではなく、経営目標の達成、事業の継続、事業体の存続を危うくする異常な事態の抜本的排除に有効な助言を提供し、その実行に導き、実現させることによって、事業体の健全かつ継続的発展に貢献することである

本質的な話が多く、経営者は読んだ方が良いと思った!
良書!

以下、学びメモ。
ーーーーー
・★内部ガバナンスに関する6原則(by 国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)★:
①受託者義務
②独立の監視機能
③経営組織の能力及び実効性
④利益相反、倫理規範、法令遵守
⑤適切な報酬体系
⑥透明性とアカウンタビリティ
・★comply or explainの考え方★:
①これを遵守するか否かは会社の良識ある自主性に任せる
②遵守しない場合は、先ずは説明義務を果たさせ、あとは投資者、利害関係者等市場の判断に任せる
・★コーポレート・ガバナンスの4つの代表的形態★:
①英国型→業務執行の決定及び業務の執行を担当するマネジメント・ボード
②ドイツ型→業務執行の決定及び業務の執行への助言及び監督を担当するアドバイザリー・ボード
③米国型→監視及び監督だけを担当するモニタリング・ボード
④日本型→英国型取締役会と監査役(会)の併置
・ビジネス・リスクとは損失だけではなく利益ももたらすものであり、それを上手くコントロールするのがビジネス・リスク・マネジメントである。そして、「蓋然性」「阻害要因」「不確実性」「機会」の4要素が存在している。
・★2017年に改訂されたERMは5つのカテゴリーと20の原則で構成されている★:
「リスク・ガバナンスと文化」
①取締役会による監視を実施する
②運営体制を確立する
③望ましい文化を定義する
④コア・バリューに対するコミットメントを提示する
⑤敏腕な人材を誘引、育成、保持する
「リスク、戦略、目標設定」
⑥ビジネス・コンテクストを分析する
⑦リスク・アペタイトと定義する
⑧代替戦略を評価する
⑨事業目標を設定する
「実行上のリスク」
10 リスクを特定する
11 リスクの重要度を評価する
12 リスクの優先順位付けをする
13 リスク対応を実施する
14 ポートフォリオ・レビューを策定する
「リスク情報、コミュニケーション、報告」
15 実質的な変化を評価する
16 リスクパフォーマンスをレビューする
17 ERMの改善を追求する
「リスク管理、パフォーマンスのモニタリング」
18 情報システムを活用する
19 リスクに関わるコミュニケーションを図る
20 リスク、文化、パフォーマンスについて報告する
・内部統制とは、企業が適正利益と社会信頼を得て存続し得るように、経営者が自主的に制定する社内の決め事と役職員によるその実践である。
・★日本の内部統制基準の特徴として、金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」にて、機能不全に陥った米国の轍を踏まないように配慮し、企業の負担軽減を図るため以下の6つの提案を実施した★:
①トップ・ダウン型リスク・アプローチの活用
②重要な欠陥と不備の2区分による意見区分の簡素化
③ダイレクト・レポーティングの不採用
④内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
⑤内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成
⑥監査人と監査役及び内部監査人の連携
・日本において内部監査が飛躍的に普及したのは、1951年7月から実施された証券取引法に基づく公認会計士による外部監査の受け入れのために、内部監査組織を設置する必要に迫られたためであった。
・★エージェンシー理論を用いて、今日の株式会社に当てはめて経営者たる取締役の受託職務及び説明義務並びに会計監査の自発的生成の理由を説明すると下記の通りである★:

  • 株式総会決議によって、依頼人である株主と代理人に選ばれた取締役の間に代理契約関係が成立する

  • 取締役は、株主との代理契約締結で株主利益に反する場合もあるので、株主は、取締役が適切に職務を遂行しているか否かをモニタリングするため、職業監査人を雇って会社の財務の状況を収集させようとする

  • このモニタリング費用は株主が負担すべきであるが、株主はこれを取締役に支払う報酬から差し引こうとする

  • 取締役は株主の意向を承知しているので、自己の行動を自制し、自発的に外部監査人と契約して財務報告について監査を受け、その報告書を株主に開示する。その理由は、自ら積極的に株主の要請に対応する方が、自己利益を確保できるかである。取締役が外部監査人による財務諸表監査を自発的に導入する理由がここにある。

  • 監査人によって財務報告が適正に表示されていると確認され株主総会で承認された時に取締役の説明義務が解除される

  • 株主が、取締役の業務遂行結果(業績)に満足し、かつ株主総会で再任すれば、その新たな受託職務が始まる

・二重責任の原則とは、財務諸表の利用者に対し、その作成の責任者としての経営者とその適正性の証明書としての監査人が「二重の責任」を負うという、経営者と監査人の責任の所在及び限界を明確に示す重要な原則であり、1991年12月26日に改訂された監査基準で規定された
・★監査役が有している3つの機能★:
①取締役の職務執行の監査機能
②会社の財産の保全機能
③株主に対する報告機能
・★監査役は日本特有のもので、基本的に外国には業務監査をする機関が存在しない。「auditor」という呼称から外国投資家が連想するのは外部監査人と内部監査人であるため、次のような誤解が生まれている。★

  • 公認会計士がaudit(外国投資家の理解では audit of financial statements)をしているのであるから、監査役が監査をするのは無駄である

  • 監査役は取締役ではないので、取締役を監督するのは無駄である

→監査役監査制度について外国投資家の理解を得るためには、監査役の権限と独立性について次のような説明をする必要がある:

  • 監査役は、取締役の職務の執行を監視しており且つ業務執行の差し止め請求権を有している

  • 米国の監査委員が取締役会で選定及び解職されるのに対し、監査役は株主総会で選任及び解任されるので独立性が担保されており、しかも株主総会における発言権を付与されている

  • 監査役の監査は、役職員の職務の執行、計算書類、事業報告などの適法性、業務の有効性、目標の達成状況などを確かめ、その結果を取締会及び株主総会に伝達する業務である

  • 取締役会の監督とは、役員及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合し、且つ経営目標などを達成するよう、監視・指揮・命令する業務である

  • 監査役は、独立性の保持のため、取締役に助言及び勧告をするだけであり、指揮及び命令をする権限を持たないのに対し、監査等委員及び監査委員は、業務執行者に指揮及び命令をする権限を有する

  • 業務の執行において、他人から指揮及び命令を受けてはならないし、他人に指揮及び命令をしてもならない

  • 株価の低迷、日本企業の収益力の低迷、日米企業格差の拡大

  • 3つ目の矢(民間投資を喚起する成長戦略)の目標未達

  • コーポレート・ガバナンスの強化、特に、社外取締役による経営者に対する監督機能の強化の要求(外国投資家)

  • 柔軟な機関設計の要求(国内会社経営者)

  • 社外監査役と社外取締役を置く負担増回避の要求(国内会社経営者)

・内部監査人は経営者(取締役会及び最高経営執行者等)のスタッフであるから、取締役の職務執行を監査する監査役のスタッフとなるべきないし、その指揮命令を受けるべきでない。
・★内部統制は全ての役職員が実践すべき決め事であり、内部監査は最高経営執行者のスタッフ機能として個別監査の実施において内部統制の運用の有効性を検証するものである。★
・経営者の懸念事項及び関心事は、基本的に以下の3つである:

①経営目標の達成度

  • 主力事業の継続能力

  • 新規事業の進捗状況

  • 研究開発の進捗状況

②リスク・マネジメントの有効性

  • 債権管理の有効性

  • 在庫管理の有効性

  • 契約の履行状況

③コンプライアンスの有効性

  • 法律・規制の遵守状況

  • 行動規範の遵守状況

  • 道義的義務の遂行状況

・監査意見の正当性及び客観性を立証する監査証拠を入手するための手段及び方法などを監査技術と言い、その複数の組み合わせを監査手続きというが、監査行為の総てを監査手続きという場合もある。
・米国の場合、米国公認会計士協会の監査基準書第31号に規定されているassertionsは以下の5種類である:

①Presentation and disclosure(表示及び開示)

  • 総ての勘定が、適正に表示されているか

  • 差し入れている担保及び保証状等が、適正に開示されているか

②Existence or occurrence(実在性又は発生性)

  • 勘定残高及び記録されている取引は、実在又は発生していたものか

③Rights and obligations(権利及び義務)

  • 計上されている資産は、企業自身が所有していたものか

  • 計上されている負債は、企業自身が支払い義務及び返済義務を負っていたものか

④Completeness(完全性)

  • 勘定残高は、その項目の総てを漏れなく表しているか

  • 記録されている取引以外に、記録されていない取引が存在していなかったか

⑤Valuation or allocation(評価又は配分)

  • 会計原則(GAAP)に従って、適正な評価を行なっていたか

  • 会計原則に従って、適正な原価配分及び期間帰属を行なっていたか

・CSAは、担当業務に関連して想定されるリスクの洗い出し、洗い出したリスクの評価、統制手続きの妥当性、有効性の評価、統制手続きの改善案の検討を当該組織の管理責任者及び/又は当該業務の担当者自らが行う内部統制の自己評価である
・★アシュアランスとコンサルティングの同時提供は利益相反の行為であり、事故をもたらす。エンロンの粉飾とそれに関わったアーサー・アンダーセンの崩壊が象徴的な事例である。★
・監査部長の業績評価は以下の5点
①年度監査方針の適時性、適切性
②取締役会における説明、回答、報告の適切性、十分性
③実施した監査対象(事項)の網羅性、十分性
④実施した監査結果の実効性、貢献度
⑤期待ギャップの程度
・★内部監査人の職務とは、立派な監査報告書を提出することではなく、経営目標の達成、事業の継続、事業体の存続を危うくする異常な事態の抜本的排除に有効な助言を提供し、その実行に導き、実現させることによって、事業体の健全かつ継続的発展に貢献することである。★

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?