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北へ(2)銭函の喫茶店

函館本線の1両のディーゼルカーは、ニセコへ向かう人々で満員。コロナ禍もようやく落ち着き、多くの外国人がまた日本へやってくるようになった。
始発の長万部でボックス席の窓側に座ると、すぐにスキーヤーたちに囲まれた。なんとか網棚に収まっている、アメリカン兄ちゃんの大きなキャリーバッグ。見上げていると、彼は「落ちるならオレの方だな!」と笑った。

ニセコと倶知安でスキーヤーたちが去る。雪山の風景が続き、列車は峠を越えていく。
北海道新幹線延伸とともに、この景色も見られなくなる。一度食べてみたかった小沢の「トンネル餅」も、惜しまれつつ閉業してしまったという。

仁木町の果樹園を駆け抜け、列車は小樽に着く。
近郊電車に乗り換えると、ほどなくして車窓に日本海が現れる。
銭函で列車を降りた。高倉健主演「駅 STATION」冒頭シーンのロケ地となった駅だ。健さんが似合う、歴史ある駅舎が残る。
雪がちらつく駅前を歩き、堤防へ。紛れもない、冬の日本海だ。海に向かって、2本の釣り竿。釣れるのかなぁ。

闇に沈んでいく海を眺めながら、レストランで海鮮丼を頬張った。イカ、エビ、ホタテ・・・。さすがにうまい。テレビで笑点が流れる。小遊三さんが、またしょうもないことを言っている。

暗がりに浮かぶ建物があった。昔の蔵であろう。
「喫茶 食事」の暖簾を、ランプが照らす。重い扉を開けると、アンティーク雑貨に囲まれ、暖かい光に満ちた空間がそこにはあった。

コーヒーを一杯。店内に流れる、サックスの音色。
帰り際に、マスターが撮影したという、銭函の夕日の絵ハガキをもらった。冬の海とは違う、優しい日本海。

「冬は我慢の季節よ」。そう語る奥さんに見送られ、冷たい風を頬に受け、銭函駅へと戻った。

旅の第一夜は、札幌。雪が降っている。
味噌ラーメンで腹を満たし、すすきのの喧騒を横目に、寝床へと急いだ。

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