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【朗読台本】夏の始まり

「これが入ったら付き合ってくれないかな」

唐突に口からでた言葉に俺自身が驚いていた

もちろん彼女も

小学校からの幼なじみ
家が隣でいつも一緒にいた

ドラマみたいなシチュエーションだなと友達は言うけどこれはこれで困ることもある

相手のことを知りすぎているからだ

小学校低学年までは一緒に風呂に入っていたし、お互いの家族のこともよく知っている

顔見れば「あ、今怒ってるな」とかLINEでさえ文章で何かあったなとわかる時もある

好きだってわかったのは
中学の最後の試合の帰り道

夕焼けに照らされた横顔がかわいいなと思ってしまった

それからはそういう風にしか見えなくなってどうすればいいかわからなくなった

だって、今更なんて言えばいい?
そんなことをずっと考えていた

リングに目線を戻すと胸が高鳴っているのがわかった

普段だったら外さない
これでも1年でレギュラーだし
試合にも何回も出ている

でもそれ以上に緊張しているのが
自分でわかった
リングがいつも以上に遠い気がする

深呼吸をして3回ボールをつく
フリースローの時のルーティンだ

スイッチを入れた俺はリングへシュートを放った

ボールは綺麗な放物線を描きゆっくりとゴールに吸い込まれた

俺はガッツポーズをしたが
このあとのことを考えていなかった

なんて言葉を言えば…

ふと横を見ると彼女が笑顔で立っていた

おもむろに俺の手を握ると彼女は走り出した

「え、ちょっと何?返事は?」

絞り出した言葉に答えることなく
彼女は笑顔で俺の手を引っ張って行く

太陽は朝からジリジリと輝き
ソフトクリームの様な入道雲が夏の到来を告げていた

今日からいつもと違う夏が始まる

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