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【短編小説】魔王だって推し活がしたい

「我はラスボスだ」

ん?いきなりなんだって?
しょうがないだろう本当のことなんだから。

バリュセルン大陸の北東、ナグル山脈の奥地に私の城はある。

ナグル山脈の麓は悪魔の森と言われ
常人には入って来れない。
魔法を使えたとしても上級魔導師以上じゃなきゃ歩くこともままならん。

もし悪魔の森を抜けたとしても次はS級ダンジョンが待っている。
そして、大半はそこで死ぬ。

何が言いたいかって?

「我は暇だ、暇なんだ」

我の城、この部屋までたどり着いたものはここ数百年で一人しかおらん。

そいつは伝説の勇者と言っていたが
ここに来た時点で虫の息で俺が小突いてやったら死んでしまった。

ここまでの道を簡単にしようとも考えたがそれだと我の威厳というものが無くなってしまう。

困難な道の最後にいるからこそ
ラスボスなのだ。

我は城にいても暇なのでたまに人間族に姿を変えて都に行く。

そこである日、見知らぬものを見つけた。

"すまほ"というもので
連絡や買い物、世界の様々な情報など
を手のひらの小さな箱の中で全てできてしまうらしい。

家に帰りすまほを触っているとYちゅーぶというものを見つけた。

これは動画というものを撮って投稿するものらしい。

そこで我は運命の出会いをしたのだ。
それは、ハイエルフのミユエルちゃんだ。

「歌やダンスが上手くてとにかく可愛い!ほんとにもう、可愛いんだ!!」

我は過去の動画を見漁り、SNSとやらもフォローした。

暇で退屈な城での時間がミユエルちゃんを推す有意義な時間に変わったのだ。

我は幸せだった。
何百年と生きてきたのはこの日の為だったのだと確信した。

そんなある日、
ミユエルちゃんのSNSを見ていると
こんなぽすとを見つけた。

『みんな〜、ミユミユ〜♡
今度ミユエル、勇者様のパーティに入ることになりました〜✨✨がんばって魔王を倒しちゃうぞ(´³`) ㄘゅ 』

「な、なんだって!?ま、魔王を倒す!!」

ということはミユエルちゃんがここに来るってことか?いやいや、その前にそんな危険なことどうして…

勇者のパーティに入るってことは
そんだけ強かったってことか?
でもそんなこと動画で一言も言ってなかった。

我は動画やSNSを遡ってみたがミユエルちゃんのステータス情報は見つからなかった。

「どうする、どうする、どうする」
「ミユエルちゃんが死んでしまうぞ」

我は焦っていた。
そのぽすとがされたのは一週間前だった。

何故、我は気づかなかったのか。
そうだ、その時はミユエルちゃんが主演のドラマの一挙放送を見てた時だったからだ。

「くそっ!!何故我は…」
「ミユエルちゃんはすでに死んでしまったかもしれない」

項垂れて後悔していると
すまほから警告音が鳴った。

「侵入者だと?ま、まさか…」

案の定、勇者一行が城に入った音だった。

数時間後、魔王の間の扉が開いた。

「ま、魔王!絶対お前を倒してやる」

勇者は痩せ我慢をしている、
俺はすぐにわかった。
もう体力も残っていないのだろう。

『それよりも…後ろにいるあの子は!!み、ミユエルちゃんだぁぁ!!!』

『可愛い、可愛いすぎる…』

勇者一行は4人で3人はボロボロだったがミユエルちゃんだけは無事なようだった。

ヒーラーで後方だったことと3人が守っていたのだろう。

「よく来たな、勇者よ」
「しかし、もうボロボロではないか」
「それではもう何も出来まい」

「うるさい!…ミユエル!回復呪文を頼む!!」

「わかったわ!!」

我は耳を疑った。

『はぁぁぁぁ!!?今、呼び捨てにしなかったか? ミユエルちゃんを…あのクソ勇者め!!』

教会の鐘のような音が鳴り響き
神々しい光が勇者たちを包んだ。

「ふふっ…回復したところで無駄だ、
八つ裂きにしてくれるわ」

「暗黒の神よ我に力を与えよ、ダーク・ディメンション!!」

これで終わりだな
そう確信した我は推し活の終わりも覚悟した。

「はぁ…はぁ…はぁ」

「な、何!?」

そこに立っていたのはミユエルちゃんだった。
あの魔法を防いだだと!?

「なかなかやるではないか」
「その方、名前はなんと申す?」

ミユエルちゃんは震えながらも我をしっかりと見据えて言った

「ミ、ミユエルです」
「貴方を倒しに来ました」

『と、尊い!尊すぎる!!なんて可愛いんだ!!』
『こんな子を殺せるわけがない』

「威勢がいいのは結構だがもうボロボロではないか」
「今なら見逃してやる城を去るが…」

「いやです」

我が言い終わらないうちに彼女は言った

「私は貴方を絶対に倒します!!」

威勢のいい声と共に彼女の杖が光出した

「世界の根源たる精霊達よ、一時我に力を与えたまえ、ホーリー・サティスファクション!!」

「な、なにそれは第八階梯魔法!そんなものまで!!」

高密度に収縮した光はレーザーのように放たれた。

「はっ!!」
だが我はスキルを使いギリギリの所でかわした。

「あれは避けなければ我でも危なかったぞ」

力を使い果たした彼女は膝を着いた。

「避けられた、もうだめなの…」

「だから言ったであろう、我に勝てるものなどいない、あきらめろと」

「だめ、諦めたくない」

再度忠告したが彼女の意見は変わらなかった。

「そんなに私を倒したいのか」

「ちがう」

「え?」

「貴方を倒すことが目的じゃない」

「じゃあ、お前の目的とはなんだ?」

「ここでライブがしたいの」

彼女は目を輝かせながら言った。

「だって、ここ凄く広いじゃない?天井も高いし!よく声が響く!!それに装飾も豪華だし、照明を入れたらとても映えると思うの!!」

「な、何故饒舌に…キャラが変わったような」

急に態度が変わった彼女に我はたじろいでいた。

「スタンディングで3000…いや5000は入るわね、1人6000円としてグッズ費とも合わせれば…ふふふっ」

「お、おい、何を笑っている」

「そのためにも…魔王!!貴方は死んでもらうわ、ここで私のライブをする為に!!」

「ちょっと待て、今なんと言った?」

さっきも聞こえたが信じられない言葉が耳に入ってきた。

「え?だからここでライブをしたいからよ」

「ここでライブ?ミユエルちゃんが」

「え?私、名前言ったかしら」

我は頭で理解しようと言葉を反芻した。

「ミユエルちゃんが…ライブ…ここで…」

「ライブ…」

「いい…」

「え?」

「いいじゃないか!!」

思わず彼女に駆け寄り肩を掴んだ。

「はい?」

「何を歌うんだい!?我はな、セカンドアルバムのキュンキュンホーリーナイトが大好きで、いや新曲のエンジェルキッスフォーエバーも捨て難い!!うぅぅ!!選びきれない!!」

「ど、どうしたの?」

「セトリはこれから決めるのか!?うおぉぉ!!楽しみすぎる!! しかも俺の城で!!!」

「あのーもしかしてだけどー魔王さん私のファン?」

「あ、あぁ…バレてしまってはしょうがないその通りだ、ガチファンだ」

「ほんとー!? 嬉しい!!」
「じゃあーこのお城ライブで使ってもいい? お・ね・が・い♡」

「も、もちろんだ!!ミユエルちゃんの為ならなんでもする!!」

「あとーここまでの道、大変だからー
簡単にしてほしいなぁー」

「そうだな!悪魔の森やダンジョンなど消し去ってしまおう!!はーはっはっははー!!」

「ありがとう!魔王さん大好き♡」

「うぉぉぉぉ!!可愛すぎるぜぇぇ!!!」

「ふっ、魔王ちょろいな」

後日、ライブは大盛況で終わったのだだった。

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