会議2✡️


 
アンタレスが探し始めるまでの最中、ユークリウス・レオナルド・黒リード・3世は空を探していた。
彼は彼女にあった最初の人物だ。
貴族らしい貴族で3世と名乗ってはいるが67代目の当主で家主であった。
 
彼女は飛行船が好きだった。
それを思い出した彼は、飛行船でどこかへ出向いたのかと思い立ったからである。
飛行船は彼女がいた時は何度も乗せてほしいとせがまれた。
乗るたびに飛行船から落ちそうになる彼女を救いあげなければならなかった。
 
「どうして君は毎回飛行船から落ちそうになるんだ。おかしいだろ!これで3回目だぞ!」
「え~だって、空が見たいじゃない。」
「空なら上を見れば見れるだろう?」
「下からなんてつまらない。いつも見てるもの。上から見下ろせるからいいんじゃないの。」
「理解できないな。どちらも同じだろう?それで何度も落ちそうになるなんてバカのすることだ。」
「ばかって…貴族のお偉いさんがそんなこと言っていいの?
ばかだろうがなんだろうが私はスタイルを変えないから!」
「…はぁ。呆れてものも言えん。」
「あら?言ってるじゃない。」
「もう乗せんからな。」
「それはダメ!絶対ダメだから!」
「貴族のお偉いさんには従うものだ。」
「貴族なんて偉くもなんともないわよ。もし乗せないならこの船燃やすから。」
「んなっ!それはないだろう?いくらなんでも。いくらかかったと思ってるんだ。」
「私は本気よ。」
そんなやり取りを思い出す。
思わず吹き出してしまった。
横暴で乱暴な彼女とのやり取りは楽しかった。
ある日突然彼女が消える日まではその生活が続くと思っていた。
 
悲しみの切符は消えた彼女を思いユークリウスが流した涙が固まった結晶の様なものだった。
ユークリウスは貴族であると同時に魔法使いであり、錬金術師であり、魔族であった。
 
漆黒の長い髪に黒々とした角が生えている。
瞳は金色と青のオッドアイである。
長身で2メートルいくかいかないかの背丈があると、彼女は小さく見えて仕方なかった。
 
初めて会ったときから彼女は横暴だった。
 
貿易で人間界に降りていた時にたまたま目に入った珍しい服の少女に声をかけたのが運のつきだった。
 
「もし、その服はどこで手にいれておいでで?宜しければ売っている場所を教えていただきたい。」
「…………。」
上から下までじろじろと見られる
「もし…。」
「嫌よ。誰だかも分からない人に教えるなんて。」
「んなっ!!」
(こっちが下手に出でやったのに!)
「そうねえ~おいしいご飯と家をくれたら教えてあげなくもないわ。あ、それから…宝石と新しい靴と服も」
(服の店を聞いただけなのに多すぎないか?要求が。いや待て…そのくらい価値のあるものなのか?)
「その服の値段はおいくらでした?」
「で?どっち?交渉するの?しないの?」
(私の話を聞いていなかったのか?なぜ交渉が進んでいる!?)
「…わかった。用意しよう。」
半ば押し切られる感じに交渉を成立させた。
 
自分の城に招き接待した。
「そろそろ…教えてはくれぬか?」
「えっ?何が?」
リブステーキを口いっぱいにほおばりながら彼女は言う。
「だから、服の売っている店だ。」
「店?」
「あーこれ?これはアンジェリークシルキアスの新作のワンピースで、色もかわいいしフリルもなかなかでしょ?」
「それは知っている。私が送ったものだからな。そうじゃなくて、ここに来るときに来ていた服だ。」
「あーあれ?知らない。」
「なんだと!!??今すぐ出ていけ!」
荒ぶる感情を吐き出すように彼女を怒鳴る
今までの苦労はなんだったのか。
彼女を招待しドレスや靴を買ってやり、客室を与え食事まで与えたというのに!
ユークリウスは短気?だった為体を黒い砂の様な風が彼を包む。
「おぉー!!」
彼女はのんきに驚いていた。
「仕方ないじゃない、ここの世界にはないものなんだし、貴族と違って洋服のブランド名なんか見て服を買わないもの。」
しばらく沈黙が流れた、彼女はユークリウスをしっかり見つめしばらく待ったが
ユークリウスの口から何も聞けなかった為諦めてまたステーキを頬張った。
「…いま…なんと?」
ユークリウスの気が収まり目を丸くして訪ねてきた。
「だから服のブランドなんか見て買わないって。」
「違う!その前だ!」
「え?あー仕方ないじゃない、この世界にはないものなんだし。」
彼女は一言一句思い出すように間違えず再現した。
「それだ、この世界にはないとはどういうことだ?」
「どうもこうもそういうことよ?」
「だからどういうことなのか説明しろ。」
「だからどうもこうも、文字どおりの意味だってば。」
「…この世界にはないとは、材料がないのか?それとも世界に唯一という意味なのか?
それとも別の世界のものなのか?」
「三番目。」
彼女は端的に答えた。
「ばっ!ばかな、騙されんぞ。他の世界などあるはずがない。」
「信じなくてもいいけど事実だもの、それに騙して私に何の徳があるの?」
食べながら彼女は言う
「強引に連れてきといて詐欺師扱いするなんて、呆れるわね。
この世界はそれが常識なの?まあいいけど。」
「…ほんとなのか?別の世界というのは。」
「だからそうだって言ってるじゃない。あ!このケーキおいしいわね!」
黙々と食事をし、今はデザートに入っていた。
「それを証明できるのか?」
「証明??出来るわけないじゃない。よくわからないままに連れてこられたんだし」
「この世界に?」
「そう、気が付いたらあの場所に立ってたんだもの。ユークリウスと出会った場所。
周りを見てたら声をかけられたの」
ユークリウスは深く考え込み、重い口を開いた。
「じゃあ君は異世界人なのか?」
「…ぷっ、ははははは。異世界人って、…っくはははは。」
彼女は大口で笑い始める
「何がおかしい!話をまとめただけだろう!笑われるようなことは言っていない!」
「異世界人…っはぁ…腹痛い…異世界人って。」
「だから何がおかしい!!?」
「いやー自分がまさか異世界人と呼ばれる日が来るとは思ってなくて、ついね。」
「何がついだ、そうだろう?異世界人なのだろう?」
「まあそう言われればそうなんだけど…」
「なんだ?」
「ちょっと違うというか…異世界ではないというか…感覚的な問題だから難しいのよね説明するの。」
「どういうことだ?」
「んーなんというか異世界というより異次元??異次元というより夢?的な感じ。」
「訳がわからん。」
「だから言ったじゃない、説明が難しいって。」
「それでももっとましな説明があるだろう?」
「ないわよ。」
「いや、あるね。」
「はあ…話になんない、私おなかいっぱいだからそろそろ寝るね。」
椅子から立ち上がろうとする彼女の手を掴む
「待てまだ話は終わってない。」
「何??」
だるそうに、少しめんどくさそうに言った。
「その話を詳しく聞かせてくれ。」
「絶対に嫌。」
ぴしゃりと言うと、部屋のドアを閉めた。
 
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後妻さんが帰った後、しばらく放心していた。
放心するしかなかったと言えばそうだが、何かしていたかった。
自分は誰で何をしてここにいるのかまるで思い出せなかった。
ぼーっとしているだけで他の事が出来ず退屈になった為寝ようかと思ったが、
ずっと寝ていたせいからか眠気が来ない。
自分の事が何も思い出せないのがひどく悲しくなり始めたが、涙も出ない。
このままここにただいる存在になってしまうのか…
後妻さんが言っていた真実とはなんなのか。
わからないままだった。
時間だけが過ぎていき日が落ちる頃、夕日が差し込む窓辺で何かが動く音がした。
鳥だろうか?虫だろうか?暇すぎる私には良い時間つぶしなのでそちらを向きたかったが
叶わなかった。
眠ってる間にとても長い夢を見た気がする。
そっちを思い出そうと彼女は眼を閉じた。
夕日の影が彼女を包んでいた。
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ユークリウスは思い出に浸りながら切符を眺めていた。
蒼、青、藍、水色、空色、海色、灰色、黒、の絵の具が混ざりあって
ぐちゃぐちゃになったような色だった。
長方形の切符は行き先が書いていない。
だがユークリウスにはこの切符がどこに行く切符なのか分かっているような
気がした。
空を見渡し、彼女がいない事を確認すると切符を手に呪文を唱えた
「ーそこに連れて行きたまえー」
ユークリウスはその場から跡形もなく消えた。
飛行船を残して。
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