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Ratboys (2024/01/27 @Kichijoji Warp)

こんなにも心が満たされるライブは久しぶりだ。

5万人が詰めかけた東京ドームの翌週は、キャパ200人に満たないライブハウス・吉祥寺WARPへ。同じ「ライブ」として括れるものの、音楽体験としては全くの別物だった。


Ratboysというバンドについて、ここで長々と書き記しておこうかとも思ったが、彼らのライブ映像を観れば説明などはいらない

こんなスピッツみたいに最高なバンドある?と思ったあなたは私と感想が同じですね。楽曲自体の良さはもちろんだが、ライブ演奏の安定感に圧倒される。彼らが日本に来て演奏してくれるというのだから、行かない理由がなかった。


当日の会場の様子は、シカゴのアーバンな地域に住んでそうな人たち半分、現地の日本人半分といった感じで、両者は特に交わることなくそれぞれにクラスターができていた(今回はあまり属性の多様性はない)。

当日知ったのだが、このライブは「The Lost Boys Presents」となっていて、インディペンデントのライブエージェンシー・The Lost Boysがブッキングした、Ratboys含め4バンドによるサーキットイベントになっていた。Ratboys以外の国内バンドは今回初めて知ったのだが、どれも素晴らしかったので簡単に感想を。

①Eupholks
北米のインディー・ロックをベースとしながら、ファンクや邦ロックの要素も感じられて、自分がこれまでに聴いてきた音楽と接続される楽しさがあった。ドラムの安定感が光っていて、他にもパーカッション・コーラスパートの人がSP-404SXを使っていたりして、勝手に親近感が湧いた。フロントマンが流暢な英語でMCをしてしまったせいで、「MCは英語でしなければいけない」的な雰囲気が生まれ、次のバンドが苦しむことになる。


②T.V.NOT JANUARY
今回知った3バンドの中で最も好きになったかもしれない。実力派バンド・Eupholksからの転換中に、3人の男性がギターや太鼓を持って横並びで座り始めると「一体何が始まるんだ?」という雰囲気に。前述の通り、MCでは英語の呪縛に囚われてしまい、単語を絞り出しながら曲の説明をする羽目になり、「あなたの英語、カワイイ!」などどこれまたカワイイ日本語での野次も飛んでいた。和やかなMCから一転、曲が始まると繊細なアコースティックギターと3人の素朴な歌声・ハーモニーに会場が一気に引き込まれていくのが感じられた。この「トホホ…」的な魅力は日本独特な気がするが、海外の人の目にはどう映るのかがとても気になった。


③Ålborg
季節でいうと「春」に感じるエネルギーみたいな、ポジティブで柔らかいフィーリングを集めて凝縮させたようなバンド。トロンボーンやフルート(ライブハウスという空間で初めて聴いたかも!)が良いアクセントになっていたし、Mitskiみたいなニュアンスの声のボーカルが楽曲の持つ魅力に完璧にマッチしていた。基本的に歌詞は英語で、昨年は過去にCHAIなども出演したフジロックの”ROOKIE A GO-GO”にも出演していたようなので、これから海外のリスナーも増えていきそう。


時刻は既に21時を回っていたと思うが、満を持してRatboysの登場である。ライブハウスなので、何ならバンドメンバーがそれまで隣とかで演奏を観ていて、「ちょっとごめんね〜通るよ〜」みたいな感じでステージに上がっていくので、友達のライブを観にきたような気分になっておもしろい。前出の3バンドでかなりの満足感を得ていたが、彼らがステージに上がると、立ちっぱなしの疲れなど一瞬で吹き飛ぶかのように会場のボルテージは上昇していった。

機材などのセットが総入れ替わりし、演奏が始まると、「え、電圧変わった?」と思うくらいの爆音で、ドラムもスネアの突き抜け具合が半端なかった。何といってもハイライトは、アンコール前ラストの「Black Earth, WI」。最新アルバムの中でも8分超えの大作で、これをライブで聴くために来たようなところもあった。パワータイプのドラム・バランスタイプのベースという最強の土台の上に、職人技のようなDaveのギターと、一度聴いたら忘れられないJuliaの特徴的な歌声が乗っかることで完成する最高の1曲。ギターソロからラストのシンガロングに繋がる流れがライブでも美しかった。Daveが多分身長2メートルくらいあって、シルバニアファミリーみたいになってるのも個人的にずっとツボだった。日本のライブハウス狭いよね。

ライブの余韻に浸りながら、彼らの最新作のレコードを物販で買い、袋を忘れたのでそのまま抱えて帰路についた一日だった。

こうして書きながら前3バンドの楽曲もストリーミングで聴き直してみたが、誤解を恐れずにいうと、ライブで感じたようなエキサイトメントは感じられない。Ratboysは、今回のアルバムで初めて拠点であるシカゴを離れ、外部のプロデューサーなども招きながらシアトルのスタジオで制作を行ったそう。これが今作のより広範囲なリーチ(自分も含め)に繋がったことは間違いない。バンドが持つ魅力を音源にも落とし込むためには相当なレコーディング・マスタリングなどの技術(ひいてはそれに見合う予算)が必要なんだな…とインディーの難しさを改めて感じた。

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