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Superhumanを使ってみて感じたThe Modelの新しい形

こんにちは、Spir(スピア)の大山です。

Spirでは現在、社外との日程調整を簡単に出来るカレンダープラットフォームを開発しているのですが、Product-Led Growth(以下、PLG)と呼ばれる成長戦略を志向していて、どうすればこのPLGを実現できるのかということを情報収集し、試行錯誤しています。

PLGというコンセプトは最近注目されるようになっているようですが、まだまだ日本語のコンテンツが少ないので、Spirでリサーチした内容を発信していけたらと思い、PLGに関する海外事例などの紹介をして見たいと思います。

Product-Led Growth(PLG)とは?

そもそもProduct-Led Growth(PLG)とは、OpenView Venture Partners(アメリカのVC)が提唱した考え方で、以下のように定義されています。

Product led growth (PLG) is an end user-focused growth model that relies on the product itself as the primary driver of customer acquisition, conversion and expansion.

PLGとは、プロダクトそのものが顧客獲得、有料化、拡大の主要ドライバーとしてエンドユーザーに焦点を当てた成長モデル。

このコンセプトについては、Sansanの山田さんや、Striveの四方さん、UB Venturesの高野さんが、詳細に紹介していただいているので、是非これらの記事を読んでいただきたいのですが、一言でいうなれば、営業主導で売上をつくるのではなく、プロダクトを体験してもらうことで売上をつくる成長モデルです。(※ 従来型の営業主導の成長モデルは対比的にSales-Led Growth(以下、SLG)と呼ばれるようです)

日本語で読めるPLGに関するコンテンツはまだまだ少ないのですが、コンセプトを提唱しているOpenViewではPLG型のサービスの起業家へのインタビューをBUILDというPodcastでシリーズ化しており、とても参考になるので、最先端の情報を探している方はこちらもチェックしてみてください。

Superhumanとは?

Superhumanは、"THE FASTEST EMAIL EXPERIENCE EVER MADE"(これまでで最速のEメール体験)というコンセプトのメールアプリのサービスです。2019年5月にAndreessen HorowitzからシリーズBとして$260M(約290億円)のValuationで$33M(約36億円)の資金調達を行ったことで有名なスタートアップです。

DCMの原さんが「PMFのはかり方、見つけ方: やや実践編」というnoteで事例として紹介されていたので目にしたことがある方もいるかもしれません。

SuperhumanはPLGでよく活用されるフリーミアムモデルやフリートライアルモデルのサービスではないのですが、エンドユーザーに焦点を当てたデザインや戦略設計をされており、OpenViewのPodcastでも以下のように紹介されています。

Superhuman might not have a free trial or freemium, but they are definitely designing for the End User Era.
In this episode of BUILD, Rahul Vohra, Founder and CEO of Superhuman, puts his stake in the ground that game design philosophy is integral for building B2B products.

Superhumanはフリートライアルやフリーミアムを適用していませんが、間違いなくエンドユーザーの時代に向けたデザインをしています。
今回のBUILDのエピソードでは、SuperhumanのFounder兼CEOのRahul Vohraはゲームデザインの哲学がB2Bプロダクトの構築に必要不可欠であるということに取り組んでいます。

Superhumanのセールス・マーケティングのデザイン

前置きが少し長くなってしまいましたが、僕がPLG型の成長モデルを調査するなかで、実際にSuperhumanにお金を払って利用してみて、これはSLGと呼ばれる成長モデルで活用されているThe Modelの形とは大きく異なる分業のあり方にヒントがあったので、日本でもPLG型の成長モデルを目指していくスタートアップの皆様の参考になればと思い、Superhumanのセールス・マーケティングのプロセスをマーケティング、セールス、カスタマーサクセスという3つのステップに区分して、どのような設計になっているかをご紹介したいと思います。

Step 1: マーケティング

現在は導線設計が変わってしまったのですが、僕が初めてSuperhumanを課金して利用してみようと思った2019年7月時点では、SuperhumanのWebサイトにアクセスすると、"REQUEST ACCESSS"というボタンがあり、そこからお金を払ってSubscribeしようとしても、順番待ちリストに追加されるだけで、すぐに利用することが出来ませんでした。
この順番待ちリストが2019年6月時点で18万人と言われているのですが、お金払って使いたいというユーザーを待たせるって凄くないですか?)

もしこの順番待ちリストをスキップしたいなら既にSuperhumanを利用しているユーザーからの招待をもらって下さいというメールが送られてきます。

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当時のキャプチャ画面が残っていないのですが、Webサイトで利用申込みをしたタイミングではポップアップダイアログでTwitterで既存のユーザーに呼びかけてInvitationを貰いませんか?という案内とともに、TwitterでのSuperhumanを利用したいというTweetが出来るようになっていました。
(テンプレートを使ってポストされたTweetは以下のような感じ)

実際に、既存ユーザーを探し出し、Invitationを送ってもらうと、順番待ちをスキップするのでアンケート調査に協力してくださいというメールが来ます。(※ 2020年9月時点ではWebサイトでSubscribeしようとすると、このアンケート調査がWeb上で開始されます)

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アンケート調査はTypeformで作成された、メール量などのターゲットユーザーか否かを判別する20ページ以上のアンケートになっており、アンケートでターゲット判定されると、活用事例などを紹介しつつ、その場で前払いのクレカ決済をするように促されます。決済が完了すると、Calendlyを活用して30分間のZoomでのオンボーディングセッションの予約が取れるようになっています。

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マーケティングの特徴
• FOMO(Fear Of Missing Out)やTwitter等のSNSでのバイラルを活用したプロモーション設計
• リファラルやアンケート調査による満足度を高められる自信のあるターゲットユーザーにのみSubscriptionを許可(※課金したいというユーザーを排除する勇気)

Step 2: セールス

アンケート調査後に設定したオンボーディングセッションでは、事前にデスクトップアプリとスマホのアプリをダウンロードしておくように案内メールが配信され、当日はZoomでオンボーディング担当者と画面共有をしながらSuperhumanの肝となるショートカットキーの活用方法やメール整理について、30分間のレクチャーが行われます。

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レクチャーが終了するタイミングで、このタイミングからSuperhumanの課金が開始され(前払方式)、Superhumanのアプリを利用することが出来るようになります。つまり、このオンボーディングセッションの終了が契約のクロージングとなっています。

B2B SaaSのサービスならまだしも、B2C SaaSのサービスで、Subscribeした全てのユーザーに対してオンボーディング担当者が30分もの時間をかけて(僕の場合は質問を結構したので45分位だった)対応しているサービスを僕は見たことがありません。

実際に、このプロセスを体験すると、紹介者まで探して、20問以上のアンケート調査をくぐり抜け、30分もの時間をかけたオンボーディングセッションを受けたというサンクコストがあるので、月額30ドルという高い費用であっても、課金して使いたいと思うようになっています。(この時点では課金に対する心理的抵抗感はかなり薄れています)

セールスの特徴
• メールとアンケート調査のみの完全にセルフサーブの営業体制
• 課金した全ユーザーに30分のオンボーディングセッションを実施
• 手間のかかるリファラル・アンケート調査・オンボーディングをやりきった心理的サンクコストを活用して決済への心理的ハードルを低くしている

Step 3: カスタマーサクセス

オンボーディングの中では説明しきれなかったショートカットキーについては、アプリ内でCmd + Kをクリックすると簡単に検索出来るようになっているので、何か使い方がわからなければCmd + Kという行動が自然と取れるようにプロダクトが設計されています。

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そして、オンボーディング終了後から、創業者兼CEOのRahul Vohraから、30日間にわたって毎日使い方のTipsメールが送られてきます。

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メールは1日1通ですが、1通につき1つの機能の使い方を紹介するようになっており、またその使い方もGIFのアニメーションを使っているので、感覚的に理解できるようになっています。

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あくまで個人の感想ですが、ここまで苦労して使い始めたサービスで、更には月額30ドルという高額な利用料を既に支払っているので、ユーザーとしてはなんとか使いこなして元を取りたいという心理になっているので、毎日のちょっとしたTipsのメールをSpamメールのように感じることなく、こんな便利な機能もあるのかと楽しみにするようになります。

仮にオンボーディングのセッションで使い方を教えてもらっていなければ、使い方が全然わからないということで離脱してしまっていた可能性も高いですし、その後のTipsメールも見ない可能性が高いことを考えると、全ユーザーに対して30分のオンボーディングセッションを設けることは十分に経済合理的な投資なのかもしれません。

また、Superhumanでは理想の状態をメールのInboxがゼロになることと設定されているのですが、Inboxがゼロになると日替わりで綺麗な写真が表示されます。そして、理想の状態になったタイミングで、アプリ画面左下に"You've hit Inbox Zero!"というTweetの導線が用意されています。

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そして、Superhumanに誰かを招待したくなった場合には、Cmd + Kで表示されるショートカットキーの検索からSuperhumanへの招待することも簡単に出来るようになっており、ユーザーの満足度が高まったタイミングで、適切なターゲットユーザーへの口コミでの紹介が簡単に行えるように設計されています。

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カスタマーサクセスの特徴
• ヘルプを簡単に呼び出せるようにして多機能なプロダクトでも使い方がわからなくて離脱することを防止
• 毎日のGIFのTipsメールで、活用できる機能を認知させることでユーザーの満足度Up
• 前払いで月額30ドル払っているため、その分活用しなきゃ損だと思わせる設計
• サービス内でのリファラルやSNSでの拡散を促す設計

最後に

ここまで、3つのステップでSuperhumanのセールス・マーケティングのプロセスをご紹介してきましたが、みなさんが経験されたことのあるSLG型のサービスでのThe Modelのようなセールス・マーケティングの分業設計とはかなり印象が異なるのではないでしょうか?

The Modelの著者である福田さんが出版記念のイベントにて

一律にモデルを当てはめようとするのではなく、自社がターゲットとしている顧客セグメントや販売チャネル、リテンションの難しさ、組織としての成長ステージに合わせた戦略が必要になる

と語っているように、PLG型のサービスであれば、従来のSLG型のサービスとは異なるThe Modelのあり方を考える必要があるのだと思います。

冒頭にもご紹介させていただいたStriveの四方さんも、PLG型のサービスにおける営業体制についてもnoteを寄稿されている通り、エンタープライズ向けとSMB向けで取るべき施策は異なるとは思います。

僕自身はSuperhumanの利用体験を通じて、PLG型のサービスであるならばマーケティング→セールス→カスタマーサクセスという一連の流れの中でプロダクトそのものと連動して体験を設計することがどれほど重要であるかということを強く実感しました。

改めてSuperhumanのセールス・マーケティングの特徴を整理すると以下のものになります。

マーケティングの特徴
• FOMO(Fear Of Missing Out)やTwitter等のSNSでのバイラルを活用したプロモーション設計
• リファラルやアンケート調査による満足度を高められる自信のあるターゲットユーザーにのみSubscriptionを許可(※課金したいというユーザーを排除する勇気)

セールスの特徴

• メールとアンケート調査のみの完全にセルフサーブの営業体制
• 課金した全ユーザーに30分のオンボーディングセッションを実施
• 手間のかかるリファラル・アンケート調査・オンボーディングをやりきった心理的サンクコストを活用して決済への心理的ハードルを低くしている

カスタマーサクセスの特徴

• ヘルプを簡単に呼び出せるようにして多機能なプロダクトでも使い方がわからなくて離脱することを防止
• 毎日のGIFのTipsメールで、活用できる機能を認知させることでユーザーの満足度Up
• 前払いで月額30ドル払っているため、その分活用しなきゃ損だと思わせる設計
• サービス内でのリファラルやSNSでの拡散を促す設計

SpirでもSuperhumanのようなPLG型のサービスをどうすれば作っていけるのかということを日々考えながら、プロダクトの設計をしています。日本初でPLG型のサービス開発にチャレンジしているスタートアップはまだまだ少ないのではないかと思いますが、もしPLG型のサービス開発やってみたいという方がいらっしゃれば、創業期メンバーとしてエンジニア・デザイナーを絶賛募集していますので、カジュアルにお話をさせていただきたいので、お気軽にDMなどでご連絡下さい。

Twitter: @s_oyama
Facebook: Shinsuke Oyama

▼ Spirの採用情報は以下のNotionのページでご覧いただけます



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