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火花が暗闇を灯し、想いが胸に響く宿。

「カチッ」
火種として用意されていた蝋燭に火を灯す。ちいさな炎が暗闇の中でゆらゆらと揺れている。そしてみんながその炎に目を向ける。






今回のお話は周りに山と川しかない一棟貸し宿でのお話です。チェックインからチェックアウト、さらにその後まで、とても素敵な思い出の残る滞在だったけれど、その一部を抜粋して今回は書かせて頂きます。

それでは。
僕の思い出語りのはじまりはじまり。






いつの間にか日も暮れ、窓の外は真っ暗。車も滅多に通らないその場所は、本当に辺り一面何も見えなくなっていた。楽しく、美味しい夕食を終えて、みんなで談笑をしていたとき、

「そろそろ花火しよっか!」
「そうしよそうしよー!たのしみー」

誰かのひと声をきっかけにみんなが席を立つ。
そして宿の外へ。


外に出てみると、空気が少しひんやりしている。聞こえてくるのは川の水が静かに流れる音と、僕たちの声だけ。それ以外は何も聞こえない。本当に静かな世界が広がっていた。そして辺り一面の暗闇。ちょっと怖い。それくらい明りがない。


「カチッ」
火種として用意されていた蝋燭に火を灯す。ちいさな炎が暗闇の中でゆらゆらと揺れている。そしてみんながその炎に目を向ける。

「火ついたよー。どの花火からするー?」一緒に泊まりにきていたうちの1人が言う。宿には貴重な国産の手持ち花火や線香花火がアメニティとして置いてあった。「これからやろ!」近くからすぐに返事が。

「じゃあそれからやろっか」
「やったー」
「ちょっとおれも火つけさせて」


暗闇と静寂の世界。
その中で灯る、ちいさな炎を頼りにみんなが集まっていく。


そして次の瞬間。
「ぷしゅーーー」
勢いよく火花が散る。
その音と共に世界が一変した。


時に力強く、時に儚く、そして色鮮やかに散る火花が、みんなの楽しそうな横顔を美しく灯していく。弾ける笑顔。きらきらと輝く瞳。目に映るすべてが輝いていた。

「わぁーきれいきれい!」
「すごーい!」

ぼくも花火に火をつける。「ぷしゅーーー」うわぁ、花火ってこんなに綺麗だったっけ。人っ子ひとり見当たらない山間の地で、みんなと子供のように大きな声をあげてはしゃいでいた。

そんな時間も束の間。
花火の火が少しずつ弱くなり、徐々に目の前の世界が暗く、暗くなっていく。そしてまた、暗闇と静寂に包まれる。。。


そう思った。


「すごい綺麗だったねー!」
「もっとしよー!」
「ながおさん次なににするー?」

花火の火が消えた後も、みんなの楽しそうな声が暗闇を灯す。「次はこれにしよー!」みんなの顔は見えない。真っ暗で見えないのに、みんなが笑顔なのはわかった。もう暗闇は怖くなかった。それどころか楽しくて、また訪れるあの美しい瞬間が待ち遠しくてワクワクさえしていた。

目では見えない暗闇の中でも、幸せを噛み締められるこの瞬間が、僕は大好きだった。忘れられない瞬間。そんな体験のできた素敵な宿だった。

”誰の目も気にせず、音も気にせず、存分に花火を楽しめる場所を”


こんな素敵な想いから生まれたこの宿。まさにこの想いの通りに僕たちは楽しんでいた。企画運営をされているのが、日本に4社しかない国産の線香花火をつくる企業のうちのひとつ、筒井時正玩具花火製造所。


そしてこの時、ご経営をされている筒井さんご夫婦も一緒に宿での時間を過ごしてくださり、花火の楽しみ方や宿をつくった経緯、宿に込めた想い。色んなお話を伺うことができた思い出深い場所。


お話を伺った当時、花火の美しさの印象が強すぎて、”誰の目も気にせず、音も気にせず…”という想いも、花火のことを指した話だと受け取ってた。おそらく間違いでもないと思うけど。


だけど最近になって色々な場所に旅に行き感じたことのひとつに、


花火に限らず、誰の目も気にせず、音も気にせず、いま流れるこの時間を存分に楽しむ、また魅力を感じることができる場所ってこの日本どれだけあるのだろう。ということ。


花火屋として、とても高い人気を誇る筒井さんたちが川の家を説明する時は、あまり花火自体にピントを当てて話をしなかったり、花火を前面に出すことをしないのもこういった”今を存分に楽しむ”という点の大切さを伝えようとしているからなのかなと思いました。

みなさんはいま流れるこの時間を、誰の目も気にせず、音も気にせず、存分に楽しめていますか?きっとここならそれが叶うはず。

福岡県八女市に生まれた一棟貸し宿「川の家」
ぜひ。
@kawanoie



だいたい月に1度程度の頻度で、自らが体験した人やサービス、場所についてのショートエッセイを綴っています。読んでくださった方の心が少しでも温かくなっていた嬉しい。そんなお話たちです。



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