すべて受け入れるから(モノローグ)
※ 彼女のすべてを受け入れたい人の話
ーー 部屋で。
そんなに謝んないでもいいって。かえってこっちが居心地悪いよ。まあお茶でも飲んで……。どう、少し落ち着いた?
よかった。
だから、もう謝んないでも大丈夫だから。よくある話でしょ、昔の彼氏とバッタリ会って、それで良い感じになっちゃったってさ。
平気かって聞かれると……(慌てて)ああ、平気だよ、平気。
何でって、ほら、俺はまゆみのすべてを受け入れたいから。
許すも何も、最初から怒ってないって。安心した?
ーー 微笑む。
その代わりさ、スマホの写真見せてよ。
撮ったでしょ、元カレと?知ってるよ。まゆみはそうやって浮気の証拠残しちゃう脇の甘いタイプなんだから。ほら。別に怒ったりしないよ。
(スマホを受け取りながら、)ありがとう、いい子だね。
ーー スマホの写真を見る。
へえー、こういう筋肉質なのがタイプだったんだ。俺と全然違うじゃん。
妬いてない、妬いてない。ただ、受け入れてるだけ。うわー、随分いいホテルに泊まったんだねー。夜景綺麗だなー。まゆみも、すっごく嬉しそう。まゆみのこんな笑顔随分見てないなー。
わかった、もう写真見るのはやめるよ。
ーー スマホを返す。
写真はもういいから、元カレのこと聞かせてよ。ねえ、どんなとこにドキドキしたの?
変じゃないよ。ただ知りたいんだよ。知ってありのまま受け入れたいんだよ。
わかった、わかった。そんな辛そうな顔やめてよ。そうだね。言いたくないっていうのも、まゆみの気持ちだもんね。それも受け入れる。あ、お茶もっといる?
そう?ねえまゆみ、まゆみは俺に飽きてるんじゃない?
そんなに強く否定すると、ますますそう思えるな。大丈夫だよ、受け入れるから。俺にとってはさ、まゆみが選んだ人生を受け入れること、もうそれさえできれば幸せなんだから。まゆみが俺と別れて、他の誰かと笑いあったり、手を繋いだり、一緒に歳を取ったり。それはそれで遠くから見守るような気持ちでさ。
だから正直に言ってごらん。もう、俺には飽きたんだよね。
ーー 間
(笑いながら、)黙らないでよ。
わかった。わかったよ、それが返事でしょ?じゃあ今日でお別れしようね。と言っても、住む場所決まるまではここに居ていいけど。どっちでも。
そりゃなんでもわかるさ。すべてを受け入れてるから。
え?浮気相手の名前?知ってるね。
それはあんまり言いたくないなー。
うーん、どうしても?まあ、まゆみがそこまで言うなら……(テレビを指差して、)あのテレビの下の緑色に光ってるライト!
そうそう主電源入ってるかわかるやつ、あそこにカメラが隠してある。
やっぱりびっくりした?(テーブルの下から盗聴器を剥がしながら、)あと、このテーブルの下に、ほら盗聴器!それから寝室にも盗聴器とカメラが1つずつ。トイレに2つ、浴室にも1つカメラがあるよ。
そんな震えないでよ。俺はただまゆみの全部を知って、受け入れたかったんだよ。
そう全部。引出しの奥に今まで付き合った恋人達から貰った手紙とかプレゼントとか隠してるのも、時々取り出して懐かしそうに眺めてるのも。素敵だなあって……。なあ、まゆみ、俺は、俺と付き合う前のまゆみも、俺と別れたあとのまゆみも、もちろん俺と付き合ったまゆみも全部好きだよ。受け入れるよ。
まゆみが浮気しようが別れようが俺にとっては関係ない。まゆみは俺の一部だから。まゆみが選んだことは、俺にとっても一番の選択だから。
意味わからない?そうかな、俺には……(逃げていくまゆみに、)手紙は置いていくのー?
行っちゃった。スマホの発信器と盗聴器のこと聞く前に。そういう脇の甘いところが可愛いんだけど。
ーー 終 ーー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?