会計の範囲の拡大

非財務情報の拡充がうたわれて、非財務情報についても公認会計士の役割が大きくなるということが言われています。実際、岸田総理が公認会計士大会か何かでそのような発言もされています。

一部の考え方では、監査において見積りの監査を行っているのだから、将来情報まで検討しているのだから、監査人が業績予想についても保証できるのではないか、という話もあります。

『現代会計論』(笠井昭次)では、会計責任説と投資意思決定説という社会的役割の違いから、このあたりの会計の範囲の拡大が述べられています。

会計責任説においては、出資者から現金または資本を委託され、この顛末を把握するものです。伝統的な取得原価主義においては、特に現金の委託を受けている、現金委託による会計責任説であった、としています。会計責任説においては、利益の計算が目的となっています。出資の是非の判断の観点から、報告の対象として現在投資家が想定されています。報告内容は記録に基づく報告、要は複式簿記による記録をもとに開示されることになります。

それに対し、現行の会計は投資意思決定有用性が叫ばれており、一般に、投資意思決定説によるものではないかとされています。投資意思決定説の目的は明らかではないとしつつ、財務情報開示をひとまず目的として挙げています。報告の対象は将来の投資家を含む、一般投資家です。また、投資意思決定に役立てばよいため、企業の経済活動にかかわる記録だけでなく、それ以外の情報、現在の状況や将来時点の予測に基づく情報であってもいいわけです。

このような報告内容の違いから、投資意思決定有用性を推し進めることで、会計は複式簿記の記録という過去の情報だけでなく、現在や将来の予測までが会計の範囲に含まれることになります。

『ノーベス会計学入門』(クリストファー・ノーベス)では、次のように書かれています。

「公正価値」(現在の市場価格)をあまりに多く使っているとして会計を非難するに人々もいますが、古びた数値の報告によってどう市場がよりよく機能するのかを見るのは困難です。

『ノーベス会計学入門』P.154

いわゆる時価会計の考え方ですが、現在価値が分かるからこそ、売買することが可能となるわけです。市場の機能は投資意思決定にかかるものです。

会計ビックバンを経て、過去情報に現在・将来情報が会計に含まれてきました。公正価値というものです。それに加えて、会計責任説から投資意思決定説へ、という会計の社会的役割の変遷に伴い、会計の目的も利益計算目的から投資意思決定有用性へと変化していったよう思われます。そして、その分だけ、記録に基づいた情報開示から、記録以外にも広がった情報開示が求められるようになったのでしょう。

ここから先は

0字

私の個人的な身辺雑記

¥100 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?