頭痛
目が覚める、暗い。
酷く頭が痛い、右目の奥が焼けるようだ。
自分がどこにいるのか、不意にわからなくなる。
上下の感覚すら曖昧なまま周りに意識を張り巡らす。
今は何時なのだろう。
カーテンの隙間から月明りが差し込む。昨日の記憶がはっきりとしない、二次会のBARで口説いた美女と音楽の話をしたのは覚えている。
隣には誰もいないシングルベッド、布団の重さ、窓から差し込む光の位置、毎日見ている自分の部屋ではあるようだ。
家賃5万の1K、築10年だが綺麗な内装で、都心の中ではそこそこな価格、まあまあな立地、引っ越してきたのは半年前のことになる。
頭の奥で響く痛みを堪えながら布団から起き上がろうとすると、
ガサガサ
何かいる、寝ぼけていた頭が途端に覚醒する。
部屋に何かいる。
ガサガサ……ガサガサ
その音に右目の奥が痛む。
誰がいるんだろう、強盗だろうか。
怖くなり、つい寝たふりをしてしまう。
ガサガサガサガサ
這うような、床を掻き毟るような鈍い音が鳴る。
薄目を開けて周りを確認するが暗くて何も見えない。
ガサガサ
それにしても頭が痛い。
もし誰かが部屋に入っているとして、目的は何なのだろう。引越してきて間もない自分にはストーカーの気配どころか、揉めた隣人すら記憶にはない。
やはり強盗なのだろうか、金目の物はとくにはないが、人がいるとわかって襲われたらたまらない。
寝たふりを続けつつ、部屋に人がいるとわかれば出ていってくれないだろうか。
寝起きと頭痛のせいか、そんな安易なアイデアが名案のように思え、寝言とも咳払いともつかない音を喉で鳴らす、
ガサガサガサガサガサガサガサ
音に反応したのか、先程よりも大きな音が鳴る。
その音が頭に響く、右目の奥が熱く、痛い。
寝たふりをしながら頭痛に堪えていると、あろう事か意識が微睡み始める、部屋に何か居るかもしれないという時にとてつもなく眠いのだ。
なんなのだこれは、頭が痛い、眠い、悪夢でも見ているのだろうか、頭が痛い、頭が痛い。
目が覚めると、鳥の鳴き声が遠くで聞こえる。
目を開けると、窓の隙間から不均一に照らす光が視界を覆う。
ただの夢だったのか、明るくなった部屋に安心し、立ち上がろうとすると、ズキズキと響く頭の痛みによろけてしまい、布団の上に座り込む。
頭痛は夢ではなく、頭の奥にズキズキと鈍い痛みが脈を打つ。
部屋に居た何かは夢なのだろうか、本当に居たとしたら出ていったのだろうか。
寝ぼけて霞む右目を擦りながら恐怖心の麻痺したまま1Kの部屋を見て回る。
寝室には何も変わりはない。
廊下、キッチンにもとくに変わりはない。
玄関の鍵も閉まっている。
トイレにも何もいない。
何もいないじゃないか、心につっかえていた不安が霧散していこうとしていたその途端、
ガサガサ
トイレの右手にある風呂場から音がする。
風呂場に、何か居る。
ガサガサガサガサ
頭の奥に響く音、確かにそこから聞こえる。
背中に冷たい汗を感じながら、小刻みに震える指に力を入れて、風呂場の扉を勢いよく開く。
ガサガサガサガサガサガサガサガサ
風呂場には何もいない。
音は確かにここから聞こえていたのに。
頭が痛い、気持ちが悪い、胃液が逆流してくるのを感じて洗面台で激しく嘔吐する、
すると顔を伝い赤い液体が嘔吐に混ざる。
一体これはなんなのだ、鏡を見上げる、そうだったのか。
ガサガサ……ガサガサ
音に合わせて右目の奥が直接描き毟られているように痛む。
鏡を見ると右半面のボヤけた顔に、右耳から伝う赤い液体が見える。
その中に混ざる何か、細い糸のような。
部屋を探してもいないわけだ、その何かはずっと自分の耳の中に居たのだ。
終。
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