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大学院で作業療法士が信念対立を研究した理由 【研究テーマ決めの経験談・きっかけ】

周りからするとなんか不思議だけど、本人にとっては至極当然のことってありますよね。

・なんで、わざわざ燃費の悪い車に乗るのか?
・なんで、わざわざ何万円もするトレーナーを買うのか?
・なんで、わざわざ転職してまで遠くの病院で働くのか?

自分にとっては至極真っ当な理由、もしくは感覚で選んでいるつもりなんですよね。

でも、「なんで、大変だと分かっている道にあえていくのか?」と周りは思っていたりする。

大学院での研究テーマなんてのもその際たるものかもしれません。

人からすると、「もっと良いテーマなかったの?」となかなか口にはしないでしょうが、思われてたりするのかもしれません。

僕は実際に以下のご指摘・ご助言を頂いたことがあります。

★ なんで信念対立なの?
★★ どこで方向転換したの??
★★★ 手の研究とかADLの研究のほうが良くない?
★★★★ そんなニッチで大丈夫?

僕が大学院に入る前にその研究テーマに関して「やめとけ」と本気で、そしておそらく善意で言って下さった方もいます。

なぜ「信念対立(考え方の違いで生じる葛藤や軋轢、齟齬)」、とくに「理論に根ざした実践で生じる信念対立」を研究することになったのか、そのきっかけを少し書かせて下さい。

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最後まで読んで頂けたら幸甚です。

僕が、就職して最初に配属されたのは外来リハビリテーションでした。
入院のクライエントも担当を持たせてもらいましたが、メインは外来リハビリテーションでした。

今なら、違った考え方をするかもしれませんが、当時は「トップダウン」や「クライエント中心」といった考え方は、ほとんど、いやまったく頭の中にはインストールされていなかったので(感覚的にはあったのかもしれませんが)、兎にも角にもクライエントのニードを叶えたいと思っていたわけです。

では、クライエントのニードとはなにか?

となるわけですが、外来では比較的日常生活の自立度の高い方が多かったので、「外食に行った時に上手に手を使いたい」、「周囲から脳梗塞の人とわからないような歩き方をしたい」といった身体機能回復への期待が高く、それらを叶えたいと思ったわけです。

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その時の僕は、OT養成校を出たばかりで特に、何かの手技を知っているわけではありませんでした。

それでも、なんとかしなくてはという気持ちはあったので、色々な方法論の研修会、勉強会、学会に出かけました。(今ほど研修会はなかったですけどね)

本当に毎週のように行きまくってたと思います。(東京でも大阪でも行きましたし、わけわかんない勉強会にも何回かは行きましたねw)

学会発表もいくつかしました。
自分の発表がその学会の偉い先生に褒められたりするのは、とても嬉しいです。

しかしながら、だんだん自分の中に違和感が生まれてきました。

それは、

”どう考えたって、1つの理論では全ての対象者には対応できないだろう”
…と


しかし、特定の理論・手技の勉強会では、(もちろん全ての講師やインストラクターの方がそうではないですが)説明の中で「○○療法ではここに介入できないが、我々の〇〇アプローチでは出来る」、「△△セラピーのエビデンスは乏しいが、○○理論にはエビデンスの蓄積がある」といったようなロジックで自分が実践する理論の優位性を説明されることがあります。

特定の理論を勉強すればするほど、自分の中でその違和感は強くなるし、かといって、特定の理論に熱心な人に自分の違和感を相談しても、的を得た回答は返ってこないし(勉強が足らないとか、技術が足らないとか、そういった話ではないと思っていたので)、なんか袋小路だなと…。

それは、医学モデルだけでなく作業療法士が開発した、作業療法士のための理論、作業モデルに関する勉強を始めても同じような感覚を抱きました。

理学療法との差異や、作業療法のアイデンティティを説明しているのを聞くと、それは機能回復を目指す特定の理論と同じように、どうしても同じような違和感を抱かざるを得なくなるわけです。

そんなときに(OTになって6〜7年目ぐらいです)、認知運動療法の学会で構造構成主義という言葉を聞きました。

直感でこれだと思いました。

発表者の方は科学と宗教との違いを説明していました。正直、なにをいっているのかは良くわかりませんが、様々な問題の本質を解こうとしているのはなんとなく分かりました。

このツイートはまさしくその時の気持ちです。

自分の考えていたこと、疑問だったこと、違和感をクリアにしていくには、これ(構造構成主義)を学ぶ必要があるのではないかと。その中で信念対立という言葉をみつけました。

そして、

作業療法士が理論を有効に実践するためには、”作業療法とはなにか”、”作業療法士にとって理論とはなにか”、”理論に根ざした実践とはなにか”、を考え抜くための哲学が必須であり、理論で根ざした実践を行うOT同士の信念対立(考え方の違いで生じる齟齬や軋轢)を解明するための研究が必要だろうと考えるに至ったわけです。

それを追求しようと思うと、世界中探しても、辿り着く研究室は唯一つなわけでした(笑)

結果、かけがえのない5年間を過ごせませたし、今でも研究を続けていられるわけです。

自分にとっては至極当然で、これだとう思うものに巡り会えることはすごく幸せなことです。

周りがなんと言おうと、そんなテーマがあるなら貫いても良いと思います。

そして、もし、研究テーマで迷うことがあれば、日々の自分の臨床の葛藤や疑問の中にこそあるかもしれないと、僕は思います。

以上です。



おまけ。

来年、僕が学会長の学会があります。よかったらチェックして下さい。


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