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大谷翔平は、わりと本気で「野球の未来」を背負っているかもしれない

僕は小学生のころからメジャーリーグが好きだ。

初めてA・ロッドの特大ホームランを目の当たりにしてから10年以上経った今でも、毎日のようにハイライトをYouTubeやインスタグラムなどで見ている。

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史上最高のホームランバッターの一人、A・ロッド(アレックス・ロドリゲス)。

そんな僕も、例にもれず二刀流の大スターに夢中で仕方がない。彼の名前は大谷翔平。来る日も彼の動画を見ていると、「コメント欄」に特殊な点を見つけた。

例えばこのコメントを読んでみてほしい。

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「僕はブラジル出身だ。ここではサッカーがすべてさ。大谷が活躍するまでは、野球の試合なんて見たことがなかった。今では彼のためにエンゼルスの試合を週5回は見ているよ。タティス、シャーザー、アクーニャ、デグロム、ジャッジ、JDマルティネス…。他にも素晴らしい選手たちを発見したけど、僕をこのスポーツに引き込んでくれたのはショウヘイなんだ。
第33号ホームランへのコメント

「大谷が登場してから、久しぶりに野球を見始めた」「今まで野球に興味が無かったけど、大谷をウォッチしている」そんなコメントが数多く寄せられている。他のスター選手や、イチローなどのレジェンド達の動画を見渡しても、同じような言葉はほとんど見かけない。

つまり大谷は、普段野球を見ない人たちまで魅了している?だとしたら、彼は野球を真の世界的スポーツにする鍵を握っているんじゃ…?こんな考えが頭から離れなくなった。

以下、そんな僕の「妄想」について書いていきたい。

野球人気の頭打ち

まずは現代野球の課題について少し調べてみた。データを見つめると、人気が伸び悩んでいることがわかる。

世界のスポーツの人気(ファンの数)データを過去90年分にわたって纏めた「Most Popular Sports in the World 」によれば、観測が始まった1930年、野球は世界で2番目に人気があった。

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しかし時は経ち2010年、野球は8位に転落。

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さらに驚きなのは2020年のデータだ。2010年からの10年間で、1位のサッカーは4億人、7位バスケットボールも約1億人のファンを獲得していながら、野球はわずか2500万人増。伸び率の差は明白だ。

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日本でも「野球離れ」は明白で、他スポーツと比べても人気の下降が目立つ。

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中央調査社のリサーチ。
対象は国内の20歳以上の男女4000名。有効回収数は1212。

たしかにテレビで野球の放送が昔よりも減った気はしていたけど、事態は思ったより深刻だ。なぜこんなことが起こっているのだろう?

様々な調査によれば、「ルールが複雑」「スピード感が無い・試合時間が長い」という、二つの点がボトルネックらしい。

たしかにサッカーやバスケは誰がみても「ボールをゴールに入れるスポーツ」と理解できるし、試合時間も90分ほど。(メジャーリーグの平均試合時間は180分超。)

このままでは、野球は世界から忘れ去られてしまうかもしれない。それを阻止する「救世主」が必要だ…。

二刀流の真の魅力は、分業制に対する革命だ

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ここで大谷翔平に話を戻そう。目下ホームラン王争いをリードし、投げてもトップレベルの実力を誇る。しまいには史上初めて投手と打者両方でオールスターに選出された。

二刀流はたしかに面白い。でも、野球ファン以外も興奮するのはなぜだろう?単純に珍しいから?

おそらくそれだけではない。大谷の登場は、これまで野球界が積み上げてきた「分業制」を根本から否定し、野球の魅力を100%伝えるものだ。

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何より大谷選手の魅力は打って走って投げるという野球のすべてを楽しそうにプレーする野球の原風景を思い起こさせるスタイルにあると思います。
満田拓也(漫画「MAJOR」作者)

いまから120年前、プロスポーツになって間もないころの野球は、ポジションの区別が曖昧だった。その後競技人口が増加すると、厳しい競争に勝つため、選手はひとつのポジションに専念することになった。

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ベーブ・ルースは、レッドソックスからヤンキースへの「禁断の移籍」を境に二刀流を捨て、ホームランバッターとしてプレーすることを選んだ。

こうなると各ポジションは「専門職」になり、代打、守備固めや代走などのスペシャリストが次々に生まれていくことは自然の流れだ。1973年の指名打者 (DH) 制導入以降、投手と野手の距離はさらに開くことになる。

子供のころに野球をやったことがある人なら知っているように、実はピッチングとバッティング両方で秀でているアマチュア選手は多い。しかしプロ入りを見据えると、一つのポジションを選択しなければいけないことは現在でも常識だ。

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こちらのグラフは先発投手の「完投率」の推移。完投・連投が当たり前の時代から、現在では中継ぎや抑え、そしてワンポイントなど多種多様な進化を遂げている。1970年代からの急降下と、DH制導入のタイミングが重なっていることもうかがえる。

さらにセイバーメトリクス(データ分析)の発達が分業に拍車をかける。それぞれの選手が、まるで試合に勝つために個別専門化された「道具」のように洗練されていった結果、現代野球はかつてないほど高次元になった。しかし反面、非常に複雑なものにもなった。

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データ野球で大旋風を巻き起こしたアスレチックスを主題にした名作映画「マネーボール」。

そのトレンドに釣られるように試合時間はどんどん長くなっていき、「スピード感が無い」というイメージも形成されていったのだろう…。これでは退屈でつまらないと言われても仕方ない。

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試合時間の増加理由には様々な推測がある。バッターやピッチャーのゲン担ぎやルーティン動作、投手交代の増加などが挙げられているが、いずれも野球の競技レベルが上がったことの副作用といえる。

ここで一歩止まって考えてみよう。過剰な分業主義は、野球本来の楽しさを覆い隠していないだろうか。投げて、打って、走って、守る。この一連の動きが味わえるスポーツは、ソフトボールやクリケット等の近縁競技をおいて他に類を見ない。

それを一人の選手がこなすことで、ファンは野球のすべてを楽しめる。複雑なルールを理解する必要はない。長い試合時間に退屈することもない。

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大谷は、僕たちが小さいころに感じた野球の楽しさを思い出させてくれる。打って、投げて、走ることさ。
MLB公式YouTube「なぜ大谷翔平は100年ぶりの二刀流選手なのか?」へのコメント

大谷はたった一人で革命を始めた救世主だ。窮屈な分業主義をぶち壊し、「野球のすべて」の楽しさを世界中に伝えはじめている。

未来の野球の姿と、そのために必要なこと

最後に、大谷の登場で可能になった「未来の野球」の姿と、その実現のために必要なことを考えてみたい。

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二刀流スターの誕生は、さらなる二刀流選手の呼び水になる。大谷の活躍は「プロでも投手と野手は両立できる」という強いメッセージを送った。

二刀流、もしくは三刀流を目指して野球を練習する子どもたちも増えるだろうし、プロ入り時に無理にポジションを選択しなくても良い。

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しかしこれだけではなく、ルールの変更も必要だと思う。

例えばメジャーリーグでは2021年シーズンから、投手と野手の二刀流起用を後押しする「大谷ルール」を採用。また「ワンポイントリリーフ」の禁止やダブルヘッダー時の7イニング制導入など、試合時間を短縮し、(主に投手の)分業に歯止めをかけはじめた。

まだ実現していないが、他スポーツと比べて格段に多い試合数を減らし、選手の負担を抑えることも二刀流選手には追い風に働く。

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世界の主要スポーツリーグを見渡すと、やはり野球の試合数が多い。大リーグのレギュラーシーズンは年間162試合、日本も144試合。これに対し、米国の4大プロスポーツの米プロバスケットボール協会(NBA)、北米アイスホッケーリーグ(NHL)はともに82試合、アメリカンフットボールのナショナル・フットボールリーグ(NFL)は16試合にすぎない。<中略>
世界で最も盛んなスポーツといえるサッカーは、カップ戦を含めても週2試合が限度だ。テニスの2014年の男子のランキング上位選手は、シングルスで年間60-90試合程度。
時事ドットコムより

さらに、(慎重な検討は必要だと思うけど)ルールの大幅な単純化は野球というスポーツが生き残っていくために必要だと思う。

シンプルでスピード感のある、これからの時代にふさわしい野球の誕生を期待したい。

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オランダ(実はヨーロッパを代表する野球大国)王立野球・ソフトボール協会が行った興味深いアンケートがある。それによると、野球は「他競技に比べ、運動量が少ない」「専用のグラウンドが必要である」「ルールが複雑である」「人数を集めるのが大変」だという。
ルールの単純化が進めば、これらの課題は軽減できるかもしれない。

今から10年もすれば、大谷のような先発ピッチャーと指名打者だけでなく、キャッチャーとクローザーなど、様々な役割をこなす選手が当たり前になる可能性がある。

時代に合わせて、わかりやすく、スピード感のあるルールが採用されるかもしれない。

そうして、現代の競技レベルと、このスポーツ本来の楽しさが融合する「未来の野球」には、世界中の人々が夢中になるはずだ。

…なんて熱く語ってしまったが、これからも大谷翔平のプレーを純粋に楽しみたい。

参考情報

この記事を書いた人

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Neil(ニール)
ecbo (荷物預かりプラットフォーム) とプログリット (英語コーチング) でUI/UXデザイナーとしてインターン。現在はIT企業でデザイナー。 ハワイの高校。大学では法学を専攻。もともとはminiruとしてnoteを運営。

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