キンモクセイ(2) 命を繋ぐたくらみ
午前中まで降ったりやんだりの雨だったが今はすっかりあがっている。
心配した近所のキンモクセイも、少し花を落としただけで、これまでと変らぬ芳香を放っている。
空いっぱいに雲が覆っているが、薄いため、丸みを帯びた月が雲のカーテンを通して白く見えている。その光は、金というより銀木犀の花の光を照り映えさせているようだ。月の神たちは、今日は満開の銀木犀の周りで舞い踊り、その銀色の雫を散らしているに違いない。
日本のキンモクセイはほとんどが雄株だそうである。花の付きが多く香りも強い雄株は、挿し木をしても強く、あえて雌株を導入するまでもなかったかららしい。どうりでキンモクセイの実を見たことがなかったわけである。短い期間、懸命に花を咲かせているが、それはあだ花となるのであろうか。かわいそうな気もする。
またキンモクセイは、あの濃密な甘い匂いの中に、実は虫を防ぐ成分が入っている、と教えてくれた人がいる。その人によれば、数年前TVの番組で、キンモクセイの香りを腕にすりつけ、蚊がたくさん入った箱にその腕を差し入れたが少しも喰われなかったのを見た、という。
早速調べてみると、確かに虫が嫌う成分があるとのこと。ただ唯一の例外がホソヒラタアブというアブなのだそう。つまり、木犀は、長くもない期間に溢れるばかりの花を開き、他の虫は寄せ付けず、強く甘やかな匂いを放ってそのアブだけを効率よく呼び寄せているのだ。
命をつなぐための必死のたくらみ。その計算され尽した自然界の妙・・・
雨上がりの夜の住宅街に、キンモクセイの香りが満ちている。
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