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【読書記録】手紙 東野圭吾

前回読んだ「人魚の眠る家」がとても良かったので、今回も東野圭吾さんの作品から。「手紙」を読みました。犯罪加害者の家族のお話。

犯罪者にも家族がいる。
当たり前の話ですが、犯罪とは遠いところで生活していると意識することがありません。
あるいは意識をしてもニュースを見た時に、ご家族は大変だろうな、と思ってそこで終わり。

「手紙」は多くの人がそこで終わる加害者家族のその後を描いた作品でした。
主人公は直貴。兄は強盗殺人犯。
当然兄のことを知っている人々は直貴に対して距離を保ちながら接していきます。

親切にはするけど深くは関わらない。
どう接していいのか分からないから当たり障りなく親切にはする。
作品では「逆差別」と表現されていました。

この現実が直貴の生活を壊していきます。

直貴の夢が叶いそうになった時、兄の存在が夢を壊す。
愛する人と結ばれたいと思った時、兄の存在が愛する人との別れをもたらす。
やりがいのある仕事に楽しさを覚えた時、兄の存在が仕事を奪う。

直貴への理不尽な展開に読んでいて心が苦しくなました。
でも一方で、もし、私が直貴に関わる立場にいたら。
登場する多くの人と同じ対応を直貴にしていたと思います。
描かれているのは理想と現実。
たとえ家族に犯罪者がいてもそれを気にすることなく、普通に接するのが良いことだ、差別偏見はよくない、というのが理想。
でも現実はそうじゃない。人は自身の生活の平穏が大事、家族がいればなおさら。
この物語の中で直貴に対して現実の接し方をした人々はだれも責めることが出来ないと思います。
まあ中にはそれわざわざ言う?みたいな登場人物もいましたけど。

小説やドラマは割ときれいごとな世界が描かれることが多いと思うのですが、この小説はきれいごとは全くなく、本当に現実を描いた作品だと感じました。

直貴の働く会社の社長の言葉が重く、この小説のテーマの真髄を得ているような気がしました。

差別はね、当然なんだよ。
中略
犯罪者はそのことも覚悟しなきゃならんのだよ。罰を受けるのは自分だけではないということを認識しなきゃならんのだ。

P317-318


自分たちの全てをさらけ出して、その上で周りから受け入れてもらおうと思っているわけだろう?
中略
心理的に負担が大きいのはどちらだと思うかね。君たちのほうか、周りの人間か
中略
いついかなる時も正々堂々としているというのは、君たちにとって本当に苦渋の選択だろうか。
中略
わかりやすく、非常に選びやすい道を進んでいるとしか思えないが。

P373-P374

とても心苦しいのは直貴の兄は強盗殺人をするような人柄ではなく、弟である直貴の学費を確保するために家に侵入し、結果的に殺人を犯してしまったという経緯。両親もおらず、ずっと二人で過ごしてきた兄弟にとってとても悲しい現実とも思いました。

この作品を読んでいて思い出したことがあります。
かつて日本中でニュースになり、今でもあの事件から○年、と報道されるほどの事件を起こした犯人の弟の方のその後が書かれた記事。
どうしてその記事に辿り着いたのかは記憶にありませんが、その記事を読んだ時、加害者家族の方の苦しみに初めて触れました。
この作品を読んだあと、その記事を改めて読みました。
この作品はその記事を元に書かれたのではないかと思うほど、弟の方が経験された苦しみがそこにはありました。(作品が書かれた方が先でしたが)

この作品を読んだ後に他の方はどう思ったのだろう、と思いました。
他の方の感想をたくさん読んでみたいと思います。

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