後悔になりそうな想いをすくいに
コツンコツンと歩く音がひびく。思わず息をとめてしまうくらい、静まりかえった空間にすこし緊張しながら。懐かしさを身体いっぱい感じていた。
★
引っ越しをしようと決めたのは、まだ寒い時期だった。年末がきたら、新年度になったら。そうして、なんどもとおりこしてしまったのだけど、決まるときはスルスルと物事が進むみたい。
こんなとこだったらいいなっと考えていた場所で、1DKの部屋をかりることになった。
★
引っ越しすると決まってから、いまの部屋の駅には、あまりこないだろうなぁっと思った。通りすぎることはあっても、途中下車はしないかなって。
半分くらい片付けた部屋をみわたしながら、いまの部屋にきたときのことを思い出した。いろんな場所に行きたかったこと。いつのまにか日常に追われていたこと。また今度っと言い訳することが多かったこと。
ぼんやりと考えごとをしながら、スマートフォンをてにとる。ぐるぐるとしているよりも、あのメッセージのほうがわたしの気持ちをあててくれるだろうから。
★
『お休みエンドロール』
夜ねむるまえに明日が楽しみで笑っちゃうような。お休みの日の過ごし方をおしえてくれるサイト。
占いやおみくじとはちょっとちがう。でも、どうしてかな。いまの自分の気持ちを見透かされているってかんじるくらい。的確なメッセージくれるんだ。
オーナメントを選んで、メッセージをうけとる。
ほらね、やっぱりねって、笑ってしまった。
★
むせかえるような本の香りが、記憶をしげきしてくる。最寄り駅のちいさなカフェでランチしたあと、向かった先。歩いてもいける距離にある、図書館にきていた。
ドラマの撮影にもつかれるくらい、おしゃれな外観。ドキドキしながら、扉をあけると、沢山の本がむかえてくれた。
なつかしいな。あの独特の空気が自分のまわりをとりまいていく。
しっかりとした表紙の大きめの本を読むことも、長くしていなかったことだ。読みたかった本をてにとり、席をさがす。
コツン、コツン。
この音がすきだ。
ひとつ空いてた席にすわり、パラリと紙をめくる。そのまま、本の世界にとんでいった。
★
気がついたときには、青空が赤くそまっていた。時間がかかってしまったけれど、読みきれた。
あと、何回これるかなっと空を見上げる。
お休みエンドロールがそっと背中をおしてくれていなかったら、わたしは図書館にきていなくて。そんな後悔をかかえたまま、引っ越ししていただろう。
後悔したって思っていることは、すぐにしてしまおう。そしたら、後悔は経験になる。
そんなメッセージのおかげで、わたしの休日は、後悔を経験にできた。さて、まだまだ残っている引っ越しの準備ももうすこしやろう。
長い時間おなじ姿勢だったからか、ちょっと肩がこったみたい。ぐいっと身体をのばす。そしたら、お腹がなった。 へへへ。そのまえにお腹をみたそうかな。あの気になってた焼き鳥やさんもいいかもな。
わたしの足取りはどんどん軽くなる。
後悔になりそうな想いをすくいとって、わたしには翼がはえたみたいだ。
いつも読んでくださり、ありがとうございます♡