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ジャン=マルク・ルイサダ氏ピアノリサイタル@9/2 武蔵野音大ベートーヴェンホール

少し前になりますが、9月2日(土)に武蔵野音大江古田キャンパス ベートーヴェンホールで行われたジャン=マルク・ルイサダ氏のピアノリサイタルに行ってきました。

ホール前のベートーヴェン様
プログラムより

はじめましてのルイサダ先生(私の敬愛するピアニスト角野隼斗さんの先生でいらっしゃるので、私も勝手に先生と呼ばせていただいてます)のリサイタルは、映画の名場面の写真を集めた映像をスクリーンに映しつつ、先生による映画に纏わるお話も挟んで進んでゆくスタイル。
話し始めたら止まらないくらい(笑)、先生は単に映画が「好き」以上に、映画の世界に心底恋しちゃってるような方だと思いました。

(ここから先の私の感想も先生の演奏そのものより、先生のお話の備忘録みたいになってしまいましたので、ご了承ください…💦)


先生は小さい頃、ご両親と観ていた『今宵は映画館で』という番組で紹介されていたとある映画(なんの映画だったか通訳さんの声が聞き取れなかったけれど)の女優さんを観ながら、「僕は画面の向こうに行きたい!」とそう強く願ってしまうような少年だったそう。

その話を聞いて、先生は映画が好きというレベルを越えて、映画の世界に自分が入ってしまいたい人なのではないかと思いました。失礼ながら、ひょっとしたら現実世界にはあまり興味が無いかもしれないなぁ…とすら思えてしまうほどに。

一方で、ご両親とはとても仲良しで距離が近かったとのことで、コロナ禍においては、「もう両親は他界してるけれど、とても寂しかった」と。もちろん友人から連絡は来るけど、一番近しい人がいないというのは寂しかった…とおっしゃってて、人が大好きなんだなぁ…と思わされる一面も垣間見えました。
とりわけお母様のことは本当に大好きだったようで、、なんというかとてもかわいらしく、母性本能をくすぐる感受性の強い繊細でピュアな少年性のようなものも感じました。

先生は早いうちから学校の寮生活を送られていたようなので、仲良しのご両親と離れ離れの時間が長く、きっと寂しい思いをされたのかもしれません。お母様は1日2回お手紙を送ってくれて、そこでも映画のお話をされていたそうです。まさに映画と音楽に生かされていたような人生だったのかもしれないですね。。

プログラム

・序章
      〜F. フェリーニ『甘い生活』より

・W.A. モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K.397
      〜J. ヒューストン『許されざる者』より

・J. ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
〜A. デルヴォー『ブレーでのランデヴー』より

・J. ブラームス:主題と変奏 ニ短調 Op.18b
      〜L. マル『恋人たち』より

・F.F. ショパン:マズルカ イ短調 Op.17-4
      〜I. ベルイマン『叫びとささやき』より

・F.F. ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
     〜C. ヴィダー『楽聖 ショパン』より

(休憩)

・R. ワーグナー:エレジー WWV93
     〜L. ヴィスコンティ『ルートヴィヒ』より

・G. マーラー/A. タロー編曲:交響曲第5番より アダージェット
    〜L. ヴィスコンティ『ヴェニスに死す』より

・G. ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
    〜W. アレン『マンハッタン』より

配布プログラムより

2曲めのモーツァルトの幻想曲が終わった直後から、そうした先生の幼少期のお話、映画との出会いのお話が溢れて止まらなくなってしまい、途中で舞台袖から譜めくり担当の方経由で諌められてしまうというチャーミングなシーンもありました。(私もこのペースで大丈夫かな?と少し心配していましたが、そんな面も併せて可愛らしい。笑)

私個人的には今回のこのプログラムにブラームスの曲が入っているのがとても嬉しくて、映画の中で聴こえてくるブラームスはどんな感じなんだろう…と興味津々でした。
3曲めの「主題と変奏」は濃厚でこってりしたドラマチックなテーマが(私の中での)ブラームスらしいなぁ…と感じつつ、しかも不倫を描いた映画『恋人たち』の中で使われているとのことで、この作品は観たことがなかったけれど情景が浮かぶようでした。
この映画は1958年公開で、当時このスキャンダラスな内容は世界中で物議を醸すセンセーショナルな作品だったようです。
”一夜を過ごした後、恐れと不安はあったが、後悔はなかった。"
"主演のジャンヌ・モローのセリフに「恋愛は1つの視線から生まれることがある」とある、抵抗してもムダ。"
先生のお話から通訳さんを通して自分がメモした言葉なので、多少違う部分はあるかもしれないですが、説明を断片的に聞いても、これだけの激しい恋に堕ちてしまったら、もうなすすべはないだろうな…と感じずに居られず、その感じにブラームスのこの曲がやたら効果的に聞こえました。

先生のお母様はこの作品がとても大好きだったとおっしゃっていて、きっと情熱的な愛を秘めた、女性としてとても魅力的な方だったのかもしれない…と想像しました。(激しく情熱的な愛は身も心もズタボロになりがちだし、決して不倫を推奨する訳じゃないけど、そういう気持ちを持ってること自体は女性としてなんだかかっこいいというか、ステキだな…と思うのです。)

4曲めのショパン「マズルカ」が使われている映画『叫びとささやき』の監督ベルイマン氏の奥様は素晴らしいピアニストだったそうなのだが、この優れた映画監督と結婚してしまったせいで、彼女はピアノを弾かなくなってしまったとか…。”なにか才能を生かし続けたいのなら、優れた映画監督と結婚しちゃダメだよ…”とお茶目に話しておられました。笑

5曲めのショパン「スケルツォ 第2番」ではヴィダー監督『楽聖 ショパン』について。
この作品はハリウッド映画で、ジョルジュ・サンドを演じた女優さんはとにかく美人で、ショパン役の俳優もとにかくイケメンだったことをかなり強調されておられました。笑

そして先生が印象的なシーンの説明をしてくださいます…

"パリ公演初日をとんでもない失敗に終えてしまったショパン。サンドとリストが一緒に楽屋へ会いに行くと、もう一回パリ公演をやろう!という事になる。
その2回目の公演はリストの計らいで会場を真っ暗にした状態で行われた。そこでこのショパンのスケルツォが素晴らしく演奏されると、リストが演奏していると思っているお客さんからは拍手喝采が湧き起こる。
すると客席の一番後ろの方からとても美しい水色のドレスを着たジョルジュ・サンドが蝋燭を灯してステージへ近寄って行く…ステージ上のピアノに燭台を置くと、灯に照らされた顔はリストではなくショパンだった。。

…というシーンがあって、もちろんこれはフィクションだけど、ハリウッド的でとても好きだ。笑"

とおっしゃられてました。笑

私はショパンの映画はヒュー・グラントがショパンを演じている”Impromptu”(邦題『即興曲/愛欲の旋律』)しか観たことがなく、この作品もとても大好きなのですが、こちらの『楽聖 ショパン』もぜひ観てみようと思いました。


ここまでで、前半終了。
休憩を挟んで後半はやや巻きで進みます。笑

とにかく私は先生の愛弟子であるかてぃんさんが弾く「ラプソディ・イン・ブルー」が大好きなので、師匠の演奏がとても気になっていました。そして同曲のピアノソロバージョンを聴くのもものすごく久しぶりだったのでとても楽しみでした。
先生の演奏を聴きながら、比べるのは無意味だ…すぐに思いました。
オケだったら非常にたっぷりと聞かせるところをなんともあっさりと弾いたり、逆にそのフレーズをストレッチするんですね!というところがあったりと、とてもユニークな歌い回し。ピアノソロでしかできない…いや、ピアノソロだからこそできる演奏だ!ととても興味深く聴きました。新鮮で最後まで耳が離せない!みたいな感じで聴き入りました。
きっと映画の雰囲気に合う演奏なんだろうなと思うと、やはりこちらも作品を観なければ…!!音がおしゃれですよね。。


アンコールでは、映画『The Sting』からスコット・ジョップリンの「Solace」、ヒッチコック監督『サイコ』よりバーナードハーマン作曲のメインテーマ(たぶん?不穏な曲でした。笑)、さらに坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」を演奏。
最後は映画『男と女』よりフランシス・レイ作曲の同タイトル曲を先生が弾いて、会場のお客さんで「ダバダバダ…」の部分を一緒に唄うという楽しいエンディングとなりました。


先生の演奏を聴きながら思ったのは、クラシックの曲を弾いておられるのにあまりクラシック曲を聴いてる気がしなかったということ。
私が元々映像に意識がすごく引っ張られる傾向があるのも手伝っているかもしれないのですが、本当に映画音楽の一部として…という感覚でガチのクラシック曲を聴けてしまうみたいな感じで、とても好きだなぁ…と思いました。
クラシックバーみたいのがあったら、飲み物片手にずっとこんなお話と演奏を聴いてたい…と思ってしまうような、リラックスしてクラシック音楽を聴ける貴重な、且つとても気持ちの良い空間に思えました。
そういえば、かてぃんさんも難解な曲でもとても聴きやすくしてこちらに届けてくれるよなぁ…と以前から思っていたので、そのマインドは先生からのモノなのかもしれない…と思いました。
また、フレーズの歌い方(1つ1つのフレーズの入り方と収め方)がとても丁寧で美しく、楽しげな所は鍵盤の上で指が踊るように跳ねる…その感じもやはりかてぃんさんに共通してる気がして、ああ、ルイサダイズムが継承されてるんだなぁ…と、実際のところはわかりませんが、私にはそんな風に思えました。

そして、とにかく強く感じたのは、先生はとてつもない「愛」の人。
終始、なんて愛らしい方なんだろう…と思いながら演奏とお話を聞きました。少しでも先生の世界に触れたら、みんな先生のことが大好きになってしまうんじゃなかろうか…と。。
ピアノの先生、ピアニストであること以上に、世の中にこんな心豊かな人が居るんだ…と、とても貴重な出会いをさせてもらえた気がしました。

かてぃんファンにならなかったら出会えていなかったお方だと思うと、また1つステキな出会いに導いてくれたかてぃんさんにも感謝です。。

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