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わくわく感性工学

「感性工学」と聞いてピンとくる方、どれくらいいるでしょうか。
ちなみにわたしはポカンでした。

『UXデザインの教科書』では、UXデザインの基礎学問として「認知工学」「人間工学」そして「感性工学」が挙げられています。
そこで今回は人間工学に続き、感性工学について触れてみたいと思います。


感性工学とは?

感性工学は日本発祥の比較的新しい技術工学で、 広島大学の長町三生教授が創始したと言われています(1995年『感性工学のおはなし』)。

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感性工学とは、「生活者の感性やイメージを数値化し、それを設計に写像することで新製品を開発する技術」のことです(坂本 真樹『感性情報学- オノマトペから人工知能まで 』P5)。
人の心地(感情)を生理反応の計測やアンケートにより数値化し、「心地よさ」や「良いと思う気持ち」といった従来でははかれなかったエモい価値評価をものづくりに活かそうとする学問です。人間工学とは包含関係にあります。

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各研究者が「わくわく感」「質感」「かわいさ」など様々な感性をテーマに研究を進めており、感性工学を一意に捉えることは困難です。
感性と強く結びついた商品では、静かにその活用が進んでいます。

それでは、感性工学では実際にどんな研究がされているのでしょうか?
いくつかの実例を見てみましょう。



「笑顔」の数値評価

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わたしたちは当たり前のように人間の表情を読み取ることができます。表情からその人の気分、体調などを推し量り日々コミュニケーションしています。
ではもしその判断を、数値計測に置き換えることができれば。機械が人の「感情」を読み取ることも夢ではありません。

信州大学では「表情の画像計測」「表情筋活動の計測」「皮膚変形の計測」によって魅力的な笑顔を捉えようとする研究を行いました。

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その結果、目尻(外眼角)と口角が作り出す表情矩形のアスペクト比が黄金比に近いほど、ひとは「良い笑顔」と評価することがわかりました。幼児や赤ちゃんの笑顔はさらにアスペクト比が上ります(1.7〜1.78)。ちなみに無表情は白銀比が平均値でした。

こうした表情の数値計測活用は、カメラの「笑顔検出(スマイルシャッター)」などで見ることができます。将来的には表情から心身の疲れを読み取って予防医療へ繋げる鏡なども生まれるかも知れません。



商品に「感性価値」を付加する

あらゆる技術が成熟し商品がコモディ化するいま、感性価値の高いものづくりが注目されています。それ自体の商品価値とは別に、共感、親しみ、愛着などを抱かせる「モノ語り」の領域です。

「感性価値」
機能や信頼性、価格など の基本的な商品価値とは別に、生活者の感性に 働きかけ、「感動」や「共感」を得ることによっ て顕在化する価値のこと。

では、モノ語りはどれ程の効果をユーザーに与えるのでしょうか。
信州大学ではこんな実験を行いました。まず被験者に蕎麦の試食と評価をしてもらいます。次に、こんなストーリーを共有しました。

<蕎麦のストーリー>
・実は手打ちそばです。
・私の畑で作った信州産の蕎麦粉を使用しています。
名水と言われる湧水を使っています。
・大変なこだわりをもって作りました。

その後、再び試食と評価をしてもらうと、味わいは1.4倍、価格(支払ってもいいと思う金額)は25%上昇したというのです。

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商品のストーリーを伝える間、被験者の生理反応(心電図、呼吸、発汗、血流などをモニタリング)は「わくわく感」を示しました。

最近では「みんなの銀行」や「Nework」のように、β版ローンチからユーザーとコミュニケーションをとるサービスが増えてきました。
これはまさに、サクセスストーリーをリアルタイムで展開することによる「感性価値」の醸成という側面があるといえます。


* * *


いかがだったでしょうか。
個人的にすごく興味のある分野です。
商品の差別化がむずかしくなっているいま、「感性に訴える」ことはより重要になっていくと思います。これからの発展に注目です。

ではでは。


参考文献・資料



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