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人間工学の基礎とデザイン

10年近くデザイナーとして働いていると、「デザインって脳の仕組みや認知、心理にはたらきかける作業だな」と常々思うようになりました。

昔から人間の考え方や行動のクセに興味があり、大学時代には「認知心理学」「心理学」「倫理学」「哲学」を片っ端から受講してみた経験もあるのですが、ここ最近関心が高いのが「行動経済学」「人間工学」です。

行動経済学(人がついやってしまう行動の研究)については去年勉強して社内ワークショップを開いたりnoteで記事を書いたりしました。


で、次は人間工学が知りたいな〜と思ったのですが、どうやって勉強したらいいかわからず…知人から紹介されたのが「人間工学の基礎」という本。

今回は、この本を読んでデザイナー的に「面白い!」と思ったところをまとめてご紹介したいと思います。



目の弁別能力

人間の目は小さな幅の明暗はわかりづらく、ロゴや商標などに細かなデザインを施しても認識されにくくなります。

離れた場所からデザインを見たときに起こること
・角が丸く見える
・分離が繋がって見える
・出っ張りが消えて見える
・方向が傾く
・すべては最後に丸く見える

例えばTの文字は、染み出しや欠けが発生してサドル状に見えてしまいます。
それを避けるためには端を強調して正常にTに見せるなどの工夫が必要です。
※ローマン体(セリフ体)の読みやすさはここに起因してそう。

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ヒラギノフォントは見え方に配慮した処理を随所に入れてあるため、視認性の高いフォントとして人気です。
このように、視覚特性に合わせて対象を見やすくすることをオブジェクトエンハンスメントと呼びます。


色に対する生理・心理

色は人間の生理・心理に大きな影響を及ぼします。
「青は後方に見えるため事故を起こしやすい」などをはじめ、人間が受ける影響は統計データに裏付けされており、さまざまな逸話が残されています。

壁紙の色が体感温度を3℃変える
青い壁紙の店で客から「寒い」と言われ、室温を21℃から24℃に変更した。
その店が橙色の壁紙に変えたところ、今度は客から「暑い」と言われたので、24℃から21℃に変更した。
橋の色が自殺を減らす
ロンドンのブラックライア橋は「自殺の名所」として有名だったが、橋梁を黒から緑に塗り替えたところ、自殺者数が1/3に減った。


色による心理的重さの違いも顕著です。白を心理的重さの基準としたとき、黒は同じ100gでも187gに感じてしまうのです。

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この心理的体感に配慮し、アート引越しセンターのように引越し用ダンボールを白くしている会社もあります。


認知モデル

人は以下の「認知のモデル」のように物事を捉え記憶しています。

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「感覚記憶」は視覚で1秒程度、聴覚で4秒程度を記憶し、特徴を抽出されたあと知覚・認知へと進みます。
「短期記憶」は、4〜10秒の記憶保持と「マジカルナンバー(7±2個)」程度の記憶容量を持ち、繰り返し復習することで「長期記憶」に至ります。

長期記憶
 └ 宣言記憶:記述できる事実についての記憶
   └ エピソード記憶:覚えている記憶(ex.昨日の夕飯)
   └ 意味記憶:知っている記憶(ex.りんごは赤い)
 └ 手続き記憶:体が覚えていること(ex.自転車の乗り方)

デザインする際に意識する点としては、長期記憶となるインターフェイス設計に気を配ることです。
常にユーザーの目に触れるヘッダーにロゴを配置することや、メニューの位置や構造を安易に変えないことは、ユーザーの長期記憶を意識したセオリーだと言えます。

図の通り、人間は並列処理を実行できない単一チャンネル機構です。
認知プロセスが増せば増すほど反応時間がかかり、照合・反応決定や分類など認知作業が複雑化すると加算方式で増えていきます。
短時間で連続して情報が与えられた場合は、2つ目以降の情報を記憶に留めた状態で1つ目の情報を処理することになります。

これを踏まえ、サービスの画面設計は簡潔であることが重要になってきます。訴求ポイントはあえて絞り、ユーザーの思考に負荷をかけないことが大切です。


ヒューマンエラー

近年よくニュースになる「ブレーキとアクセルの踏み間違え」…
これは自動車の加速/減速のコントローラーが「隣り合っており、同じ操作である」ことが要因です。
自動車事故はドライバーのヒューマンエラーが95.9%と圧倒的に高いことがデータからもわかっています。

ヒューマンエラーの対処方法として完全な機械化・自動化を目指す(自律自動運転)ことが注目されていますが、人間の自律や自由度をどのように担保していくかという視点も大切です。

ヒューマンエラーの分類
①課せられた手続きを行わない
②課せられた手続きを不完全に、または誤って行う
③課せられた手続きの順序、あるいは時間を間違えて行った
④課せられていない手続きを行った


ヒューマンエラーの要因は、外的要因「環境」と、内的要因「人間」に分けられ、外的要因の区分はNASAの事故分析で用いられている4M(人間/機械/環境/管理)が挙げられます。
JR福知山線脱線事故で管理責任が問われたように、今後は組織管理がより大きな影響を占めてくると言われています。

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信頼性設計
ヒューマンエラーを抑止するには、ヒューマンエラーが起きてもシステム側で信頼性を高める設計をしておくことが大切です。

1.アフォーダンス
適切な行為を自然にさせる仕掛け
2.フールプルーフ
ヒューマンエラーを起こさせない工夫。
「隔離」→カバー、ロックアウト、両手ボタン、進入禁止の立て札
「ロック」→車のP(パーキング)シフトレバー、iPhoneの画面ロック
3.フェイルセーフ
異常が起こっても致命的な事故を起こさせないシステム。
(多重化、分割化、待機並列化、弱所設定)
4.フェイルストップ
異常が起こるとシステムを停止するシステム。(デットマンシステム)

一般的なウェブサービスをデザインする際には「ボタンと判りやすい購入ボタン」や「操作できない項目のグレーアウト」、「エラーを起こすようなアクションを画面内に置かない」などが考えられるのではないでしょうか。


* * *


以上、面白かったものをいくつかピックアップしてみました。
人間工学には通例となっているデザインルールの裏付けや根拠がいくつもあり、今後も個人的に学びたいなと思いました。(デザインと人間工学を学べる場をご存知の方がいましたら、ぜひ教えて下さい!)

ではでは。


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