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第43回吉川新人賞 受賞作予想してみた

 ごきげんよう。あわいゆきです。

 今回は1月19日(水)に発表される吉川英治文学新人賞の受賞作を予想していきます。

 なお、あくまでも予想です。作品の内容評価とは離れた、外的要因も幾分か踏まえて予想をするのでその点はご理解ください。

 まずは候補作の確認から。

浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)
五十嵐律人『原因において自由な物語』(講談社)
一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)
小田雅久仁『残月記』(双葉社)
葉真中 顕『灼熱』(新潮社)
(講談社 文芸第三出版部のツイートを引用し、出版社を付記)

 以前に投稿した吉川新人賞候補作予想noteの的中率は3/5。
 外したのは『スモールワールズ』と『六人の嘘つきな大学生』。前者は同作者の別作品、後者も「候補入りしたらむしろ納得」と記事内で紹介していたので、驚きはありません。
 自社枠から『原因において自由な物語』を的中できたのもあって、通年の新人賞にしては比較的筋のいい、満足のいく予想でした。

 それでは、五十音順に一作品ずつ書いていきます。
 ……が、今回の五作品はいずれも過去に取り上げたことのある作品ばかり。同じ内容を書くのは非常に手間。
 私が多く時間を割けない時期なのもあって、紹介したことのある記事のリンク+吉川新人賞を受賞するか、という観点で短く話をしていきます。

 作品のネタバレがあるので、未読の方は注意してください。


浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を
得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
(引用 : https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/)

〈紹介記事〉
本屋大賞 順位予想してみた
吉川新人賞 候補作予想してみた

 本屋大賞にもノミネートされています。一見してライトなミステリのようにも見えますが、いざ読んでみると「就活」をテーマにした本格ミステリ。題材との噛み合わせもうまく、エンタメとしてよくできています。受賞に値する出来なのは間違いないです。
 山田風太郎賞では『黒牢城』に次ぐ二番手評価で、その『黒牢城』が年末にミステリランキングを制覇、直木賞まで受賞したのはご存じの通り。
 今回はライバルだった『黒牢城』が抜けたぶん、有力候補の一角となるのではないでしょうか。山田風太郎賞の選考委員を兼任している恩田陸さんが高評価していたのも追い風です。

五十嵐律人『原因において自由な物語』(講談社)

謎を解かなければ。
私は作家なのだから。
人気作家・二階堂紡季には、
誰にも言えない秘密があった。
露呈すれば、すべてを失う。
しかし、その秘密と引き換えにしても、
書かねばならない物語に出会ってしまい――。
デビュー作『法廷遊戯』が、ミステリランキングを席捲! 注目の弁護士作家第3作!
(引用 : https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000352022)

〈紹介記事〉
吉川新人賞 候補作予想してみた

 リーガル要素を交えた青春ミステリの佳作。よく整えられているのですが、今回はほかの候補作が非常に優秀なぶん、並べてしまうとどうしても面白さで一歩見劣ってしまう印象を受けます。自社枠で推そうとしても、一穂ミチさんの『スモールワールズ』が優先されるでしょう。
 一定のクオリティをキープしたまま、コンスタントに物語を書ける作家さんは貴重。ここで賞レースの候補作に挙げ、名前を売り出したこと自体に大きな意味があるはずで、今回の受賞はかなり厳しいのではないか、と予想しています。

一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。
(引用 : https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000348753)

〈紹介記事〉
本屋大賞 順位予想してみた
本屋大賞 ノミネート作予想してみた

 上半期の直木賞候補および、山田風太郎賞候補。本屋大賞にもノミネートされています。
 2021年を代表する話題作ですが、全国区の賞レースでは意外にもまだ受賞しておらず、おそらくここ(か本屋大賞)が最後のチャンスでしょう。
 短編集ながら作風は幅広く、いずれも一定の出来をキープしているので作者の力量の高さを窺わせます。一方で、恩田陸さんが山田風太郎賞で〈出版社に対して「こういうものが書けます」とPRしているよう〉という旨の選評を書いていたように、良くも悪くも小綺麗にまとまりすぎている節はあるのかもしれません。
 
 個人的には刊行されたばかりの『パラソルでパラシュート』(講談社)を候補入りさせて、売り出してくると予想していました。
 それでも、すでに十分売れている『スモールワールズ』を選んできたのは、この作品を一穂ミチさんの新たな〈代表作〉として決定づけたいからではないでしょうか。先述したように吉川新人賞が箔をつけるラストチャンス。受賞の大本命です。


小田雅久仁『残月記』(双葉社)

近未来の日本、悪名高き独裁政治下。世を震撼させている感染症「月昂」に冒された男の宿命と、その傍らでひっそりと生きる女との一途な愛を描ききった表題作ほか、二作収録。「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力が構築した異世界。足を踏み入れたら最後、イメージの渦に吞み込まれ、もう現実には戻れない――。最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作!
(引用 : https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24464-9.html)

〈紹介記事〉
本屋大賞 順位予想してみた
吉川新人賞 候補作予想してみた
直木賞 候補作予想してみた

 本屋大賞にもノミネートされています。SF・幻想文学を積極的に拾ってくれるのは吉川新人賞のよいところ。
 今回の候補作でも文章力では群を抜いています。そして卓越した文章が幻想的な作品世界を構築しているため、唯一無二の魅力を獲得していました。

 今回、もっとも評価が読めない作品だなと個人的には感じています。というのも先述したように、文章力が面白さの肝となっている作品。プロットや設定はかなり王道的で、既存の作品を打破する新しさは感じられません。文学的な要素がそれほど追求されない吉川新人賞で、この文章力がどう評価されるか次第だと思います。


葉真中 顕『灼熱』(新潮社)

沖縄生まれの勇と、日系二世のトキオ。一九三四年、日本から最も遠いブラジルで出会った二人は、かけがえのない友となるが……。第二次世界大戦後、異郷の地で日本移民を二分し、多数の死者を出した「勝ち負け抗争」。共に助け合ってきた人々を駆り立てた熱の正体とは。分断が加速する現代に問う、圧倒的巨篇。
(引用 : https://www.shinchosha.co.jp/book/354241/)

〈紹介記事〉
2021年の国内文学 10作選んでみた
吉川新人賞 候補作予想してみた
直木賞 候補作予想してみた

 直木賞候補の予想筆頭にあげていた作品が待望のノミネート。戦後間もないブラジルで、日本人移民同士の抗争を描いた巨編。
 まず、これまでにない題材の抜擢が素晴らしい。そして題材を磨き上げるブラジルの色濃い描写はリアリティがあり、人間関係もじっくり丁寧に描かれていきます。現代にはびこる問題に対しても提起がされているので、2021年に描かれる必然性を有していました。

 突っつけば欠点はいくつか出てくるのですが、それを圧倒的に上回る熱量とスケールがあります。エンターテインメントとしての完成度は他候補作の追随を許していません。

 葉真中さんは吉川新人賞の候補入り経験も多く、そろそろ順番が回ってきてもいい頃合いです。
 もしここで受賞を逃しても山本周五郎賞で候補入りすると思うので、安心して見守れます(?) 当然、有力です。

予想

 まず、自社枠から一穂ミチ『スモールワールズ』は堅いのではないでしょうか。吉川新人賞は直近5回のうち4回で自社作品に授賞しており、かなりはっきりと優遇してくる賞です。さらに一穂ミチさんは講談社が昨年最も推していた作家さん。作品内容も売り出し方も申し分なく、順当にいけば間違いないでしょう。

 そして、吉川新人賞は過去5回のうち4回が同時受賞でもあります。今回の候補作はハイレベルですから、同時受賞になる可能性は高そうです。
 そのなかでも特に注目したいのは浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』。一見して受けるライトな雰囲気と、それを良い方向に裏切ってくるエンターテインメント力の高さは吉川新人賞でこそ高く評価されるものでしょう。元々『黒牢城』がなければ山田風太郎賞を受賞していたのですから、作品のポテンシャルは既に証明されています。
 葉真中顕『灼熱』も当然有力で、対抗に据えるならここか。小田雅久仁『残月記』は少し読めませんが、評価の軸先次第では、受賞しても何らおかしくない出来。この三作品は甲乙つけがたく、それぞれ異なる良さを持ち合わせていると思います。


本命 : 『スモールワールズ』『六人の嘘つきな大学生』同時受賞
対抗 : 『スモールワールズ』『灼熱』同時受賞
単穴 : 『スモールワールズ』『残月記』同時受賞

 というわけで、私の予想はこんな感じ。
『スモールワールズ』は自社枠を強く加味しているので、外してきたらある意味で納得。かなり予想の難しい回だと思います。

 吉川新人賞の受賞作発表は三月上旬です。いまから楽しみに待ちましょう。

 それでは、ごきげんよう。

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