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シビックテックで生活困窮支援の輪を広げよう

「何かと物入りな年末、物価高も相まって家計が苦しい」
「突然仕事がなくなってどうしたらいいか分からない」
「病気がなかなか良くならなくて貯金がなくなってきた」
そんなとき、頼れる支援制度にどんなものがあるか知っていますか? 多くの人はあまり知らないのではないかなと思います。自分が行政に支援してもらうと想像してない状態で急に生活が苦しくなることは、今のご時世では珍しくありません。
生活困窮に陥ったとき、すぐに支援につながって、さらに状況が悪化するのを防ぐことができれば…。それを目指すアプリとシビックテックコミュニティを紹介します。

支援金額見積もりアプリ

私が活動している Project-inclusive というシビックテックコミュニティは、行政の支援制度でもらえる金額を見積もる「支援みつもりヤドカリくん」というwebアプリを開発しています。
このアプリでは世帯情報を最小3項目入力すると、受けられる可能性のある支援制度とその金額が表示されます。合わせて、制度の公式HPリンクや居住地域の問い合わせ窓口、AIチャットボットも表示されており、制度の理解を深めて支援窓口につながることができます。

このアプリを生活困窮者やその支援者に使ってもらえれば、支援につながる人が増えて生活困窮問題が改善する…となればいいのですが、そう簡単にうまくいくのでしょうか?

生活困窮問題にシビックテックで取り組む

生活困窮問題…それは社会保障というものが生まれてから未だ解決されていない根深い問題です。まず何をもって生活困窮者とするのか定義するのが難しく、何が原因でどんなことに困っているのか状況もケースによりさまざまです。
行政は多様なニーズに応えるべくいろいろな支援制度を作っていますが、それで十分カバーできているのか、本当に支援を必要とする人に情報と実際の支援が届いているのか、ほとんどわかっていない状況です。生活保護を本来受給できるはずの人のうち実際に受給している人は日本では20%以下(それも最新の調査結果が2010年)という報告もあります。(参照リンク

一体何が生活困窮者支援を難しくしているのでしょうか?

  • 生活困窮者は、心に余裕がなかったり、調べるスキルや知識が十分にない場合が多いため、自分で制度を調べて窓口にたどり着くことが難しい

  • 支援制度の種類が多く、給付・貸付の条件が複雑で、行政や民間の支援担当職員でも理解が難しい

  • 市民の多様なニーズを集める方法があまりなく、制度の検証が難しい

などなど…。

「支援みつもりヤドカリくん」はこれらの課題解決をアシストするツールです。ただ、真に有効なアプリとするには、行政・民間支援団体・市民のフィードバックをもらいながら、UIの改善・機能追加・使ってもらう仕組みづくり・コミュニティ拡大をしていく必要があります。
シビックテックは、市民と行政に寄り添って、多様なステークホルダーをつなぐ架け橋になることができると思っています。開発しているアプリはOSSのため、オープンかつフラットに使用・開発することができます。

Project-inclusive、都知事杯に出る

有志の市民が集まったProject-inclusiveというコミュニティは、Code for Japanというシビックテック団体の月1のハッカソンから生まれ、メンバーを増やしながら継続的に活動しています。
ヤドカリくんアプリの開発だけでなく、それを使ってもらう広報や外部団体へのヒアリング、ヤドカリくんTシャツ・ぬいぐるみ作り(?)など、エンジニア・非エンジニアを問わない多様なメンバーが強みを活かして取り組んでいます。

最近のコミュニティ拡大の原動力となったのが、今年の7~10月に行われた東京都主催の「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」でした。私たちはそこで光栄にも最優秀賞をいただきました!
振り返ると、チームとしてまとまって成果を出せたポイントとして、「価値」と「楽しむ意識」があったかなと思います。それらを核として、下の図のような好循環が生まれていきました。

価値

Project-inclusiveは来るもの拒まず・去るもの追わずのコミュニティで、多様なメンバーがいるのですが、まとまるためには確固とした価値をメンバー間で共有することが重要でした。
開発したアプリの価値は上述の通り「給付金などの支援制度を知らない・理解できていない生活困窮世帯に分かりやすく情報を提供する」というものです。
これはチームリーダーが一貫してメンバーに伝えてきたコンセプトで、メンバーが新しく加わると皆でそのコンセプトを確認・強化・共有するという時間を都度しっかり取っていました。そのおかげで、生活困窮について知識がないメンバーも共通の土台に立って、はっきりした目標に向かうことができました。決してお題目ではなく、少しでも疑問に思うメンバーがいたらそこを掘り下げて、コンセプトを補強・具体化していきました。その分時間がかかりますが、既存のメンバーにとっても大事なプロセスだったなと思います。
また、メンバーが増えて開発要素が増えてくると、議論が発散したりしてまとまるのが難しくなりますが、共通の価値に立ち戻ることでまとまる契機を作ることができます。
価値を共有するからこそ、メンバーは強制されなくても主体的に動いてコミットメントし、連帯感も生まれます。

楽しむ意識

コンセプトは固めですが、議論や開発は楽しむというのも重要なポイントでした。
ムードメーカーのような人がいると雰囲気が変わりますし、みんなの意見を引き出すファシリテーションの技術も楽しむために不可欠です。
笑いや冗談、雑談といったオフの要素以外にも、キャラクターを作る(ヤドカリ…)といったアイデアであったり、新しい技術を取り入れる、関わったことのないジャンルの人と関わる、といったことも楽しむ要素になります。(余談:都知事杯をきっかけに片足をつっこんだシビックテック界隈の方はみんな楽しむプロ。すごい)
楽しんで参加すれば、自由な発想や心理的安全性につながり、循環が生まれます。例えばAIチャットボットは当初は予定していなかった機能ですが、途中参加のメンバーが発案して、みんなが乗っかって話が進んでいきました。

Let's Join!

Project-inclusiveはCode for JapanのSocial Hack dayという月1ハッカソンで活動していて、Code for Japanの slackでコミュニケーションを取っているので、興味を持たれた方は一度のぞきに来てください!
「支援みつもりヤドカリくん」の開発リポジトリに技術的な詳細が載っているので、そちらも興味があればぜひご覧ください。

今後の展望

都知事杯をきっかけにして、行政や民間支援団体からお声がけをいただき、フィードバックを受けながら実際にアプリを使ってもらう場を現在調整しています。
その中で、今後OSSとして持続的な開発・運用をどうやって行なっていくのかも議論しているところです。
誰でも参加できるProject-inclusiveと、ステークホルダーとの公式窓口となる一般社団法人 防窮研究所が連携して、皆がハッピーになれる最大公約数を模索しています。(Project-inclusiveの名にかけて…。多様性の時代と言われるけどそんな簡単じゃないよね、でも知恵の絞りどころだよね、という余談)

最後に

まとまりのない雑感を書き連ねてしまいました。しかも技術的な詳細や普及のためのワークショップなども触れられなかったので、どこかで他のProject-inclusiveメンバーに紹介してもらいましょう(丸投げ)

さて、強引に締めるためにある言葉を引用します。

信念には、一人でそれを守るのは非常に困難であるのに、誰かとそれを共有するとむしろ信念の方が自分たちを守ってくれるようになるという奇妙な性質がある。

國分功一郎「中動態の世界」

信念がコミュニティを結びつけ、コミュニティが信念を生きたものにする、シビックテックにはそんな力が確かに働いています。
誰もが安心して年を越せる世の中になるように、支援の輪を広げていきましょう!


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