snoopyanagi915

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最近の記事

写生はリアリズム足り得るのか――写生の逆子性について――

① はじめに 俳句という詩形がリアリズムを受容したのは、子規の時代であるというのが定説であろう。西洋から渡ってきたリアリズムは、月並俳諧からの革新を掲げた子規が目を付け、写生という方法を伴って詩形に現出させられた。以後子規の死後も、虚子の巧みな舵取りにより、俳句が写生、あるいはそれに対するアンチテーゼというかたちで主な動きを見せ、虚子以後の多様化の流れにおいても写生/写生でないという対立の意味で表現のベースに広義の写生があったことは多くの人が肯うところだと思われる。 だが、写

    • 丸田洋渡「潜水」を読む

       丸田洋渡とは月に一度、句会をする仲だ。同期の大学一年生である。なにげない彼のエピソード(気づいたらベンチで携帯開いたまま眠り込んでいるとか、その裏に句が手書きで記されているお手製の名刺をはにかみながらくれるところとか)をおもうとほんとうに得難い句友だなあと感じて、にやにやしてしまうのだけれど、まあそれは前置きとして、彼はツイッターで新作を発表する。すると「いいね」が付き、リツイートされ、短評が飛び交う、そんな現象を何度か見ていて、ツイッターのもつ瞬発力みたいなものを感じざる

      • それを書くこと——樫本由貴「緑陰」を読んで——

         第537号の『週刊俳句』、樫本由貴の特別作品「緑陰」30句を読んだ。  作者が2017年の広島で句を書いているということ、そして今日が8月6日であるということ、これらの担保なしにこの作品を読むことにどれだけの意味があるのかを、一晩考えた。  むろんこの連作が、それらの担保を必要としないことは、例えば、 かつて爆心いまは入道雲のうら 白シャツやふくらんで風その匂ひ といった、句それ自体の抜群の質や、この二句が隣りあうことによる〈白〉を媒介とした二句のテマティックな接近

        • 昼の山手線とまひるまの枇杷の花

          品川で句会をした帰りの昼の山手線で、宮崎莉々香さんと青本瑞季さんに話を聞いてもらった。底が見えない句を書きたいのだというぼくの話のなかで、田中裕明の〈まひるまも倉橋山の枇杷の花〉の話をしたけれど、内容がまとまっていなくてたぶん伝わらなかった。そのときに話したかったことを書いておきたい。 最近、名詞のあり方というか、書かれ方を考えている。名詞というものは元来大きく開けている。つまり、名詞が対応する概念であればどのような状態のものであれ、その名詞と対応することを許す、そんな

        写生はリアリズム足り得るのか――写生の逆子性について――

          一体はぼうたんのかげ苔地蔵/飴山實 『次の花』

          牡丹の影に収まってしまうのだから、それほど大きな地蔵ではないはずだ。すぐ近くに植物が茂っているようなところ、そこにみなから忘れられかけている地蔵が並んでいる。 おそらく牡丹の影にある地蔵は、とびきり優しい表情をしている。ぼくがそのように思う担保となっているのは、それが牡丹の影にあるということ——あるいは牡丹がぼうたんと柔らかく平仮名に開かれていること——による。 これは理屈による裏打ちではない。けれど、言葉としての「牡丹」が纏う情緒を鑑みるとき、その情緒を意味の上では影と

          一体はぼうたんのかげ苔地蔵/飴山實 『次の花』

          花菖蒲ぢかに地に置く旅鞄/飴山實『少長集』

           「旅鞄」という名詞を「ぢかに」という副詞で手繰り寄せる力強さ。「花菖蒲」をいかにも簡単に付けることができるこのこなれた感じ。飴山實のたしかさに身を委ねてはいけないと思う一方で、やはり惹かれている自分がいる。  最近俳句を作っているとき、よく壺のことを思う。小さくて、でも中はまっくらで、覗き込んでもよくわからない壺。  作った句はしずくのようなもので、それをその壺の中に落とすのだ。落とすとポチャッと水音がして、ぼくがしずくを落とす前から壺の中には水があったことをそのときに

          花菖蒲ぢかに地に置く旅鞄/飴山實『少長集』

          助詞から「花間一壺」を見張るかす

           「助詞から『花間一壺』を見晴るかす」 旭川東 三年 柳元佑太  田中裕明は、岸本尚毅や櫂未知子、長谷川櫂や小澤實らと共に活躍した、いわゆる昭和三十年代俳人の一人である。一九五九年、大阪市生まれ。高校生のころ島田牙城に誘われ「青」に入会し、波多野爽波の選を受け、京都大学在学中に、史上最年少二十二歳で角川賞を獲る。二〇〇四年の十二月三十日、骨髄性白血病による肺炎で、四十五歳という若さで逝去した。(『セレクション俳人 田中裕明集』収録「田中裕明略歴」/二刷 を参照) 

          助詞から「花間一壺」を見張るかす